漱ぐ

漱いだ口から淡紅
いちじくの色を
受け止めきれずに吐き出した

口紅を食らって生きることに
なんの疑いも持たなければよかった
拒んだのはいつだったか
なぜだっただろうか

ガーデニア、
雨に焦がれるあの白い花が
わたしの鼻先を撲りつけるたび
ガラス越しの影が走っていく

校舎裏で泣いていた日も
庭のリラの木がはじめて咲いた日も
雨を浴びて誰もいない坂で歌った日も

いつも輪郭をあやふやにして
誰からもピントが合わないように
だけどそのうつくしくない輪郭は
私を何度も救いもした

もういちど漱ぐ
いちじくをもうひとつ啜るぐらいの
諦めと望みとをたずさえて
もういちど息をする

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