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私と雁木(前編) <自己紹介シリーズ>


雁木

私の町は海と山に囲まれていて農業と漁業が盛んだ。
盛んと言っても過疎化が進んでいるため、私の町に残された産業が農業と漁業だ。
と言った方が適切かもしれない。まぁ日本の田舎はどこもそんな感じかもしれないが。

海と山の距離が近いため、山に向かう坂道をのぼりながら道の途中で振り返ると、視線の先にはコの字形に描かれた湾が広がる。その手前は干拓地で等間隔に田畑が並ぶ。干拓地の両サイドには波止場が作られていて、それが海まで一直線に伸びる。
その波止場の内側に大小さまざまな漁船が斜めに停泊しており、それはまるで縦半分にした葉っぱの主脈と側脈のようで、葉脈の観察を行った理科の実験を思い起こさせた。

湾内の波止場の根元部分も船着き場なのだが、そこは階段状の雁木(がんぎ)となっていた。
雁木は港の船着場における階段状の構造物で、垂直な壁とは違い潮位の変化にかかわらず階段を使うことで乗下船や魚の荷揚げが行いやすいといった特徴がある。

それなりに整備された港なのだが、それは干拓事業のおかげだ。
この地域は昔から洪水や高潮に弱く、水の影響で土が流され大地が侵食されて土地が少なくなり津波の被害を受けやすかった。そこで土が流れないように堤防を作り、その内部を干上がらせて土地を利用するということを行ったのだ。実際、過去には津波による甚大な被害を受けており、私の家の近くには津波被害者の供養塔が建てられている。

溺れる

ある夏の日の午前中、私はNくんと遊んでいた。
Nくんには中学生のお兄さんがいて、昼から一緒に海水浴をする約束をしているそうだ。
Nくんが一緒に行くかと聞いてくるので、泳げなかった私は見ているだけならと言って、予定が無かったのもあって一緒に行くことにした。

着いたのは雁木のある漁港であった。
Nくんのお兄さんはもうすでに泳いでおり、もう一人お兄さんの同級生が居た。Tさんだ。
Nくんもさっそく服を脱ぎ、泳ぐ準備を始めた。おどろいたことに服の下はもうすでに海水パンツだった。Tシャツはそのままで海へ向かう。雁木から下りてそのまま海へ入る。Nくんは泳ぎが上手でスムーズに泳いでいた。

3人は、それぞれ雁木と波止場を往復するように泳ぎ、たまに漁船が漁にでたり、戻ってきたりで水路の真ん中を通るので、その時は急いでどちらかの岸に向かう。その後、漁船が通った後の波が寄せてくるのに合わせて波を越えるように泳いだりして楽しんでいた。

私は雁木の一番上に座ってそんな3人を眺めていた。そんな時Nくんが近寄ってきて「見てるだけじゃ詰まんないでしょ。暑いし、少し海に入ってみれば」と私を誘ってきた。

港の日射しは強い。照り返しも私を不快にさせる。実際、見ているだけは詰まらなかったので「うん」と返事をした。
ただ、海パンは持ってきていなかったので、しばらく考えた後に「服は乾かせばいいか。」と服は脱がずにそのままの状態で海に入ることにした。

私は雁木の一番上から視線を下に落とし、海へつながるコンクリートの階段を眺めた。一段は30cmくらいの高さになっている。
上の方はコンクリートのそのものの色で、石灰色の乾いた色であるが下の段にいくほど劣化が激しくなり、それに伴って海藻だと思われるが緑色のコケのようなものが付着して海苔のような見た目に変わっていた。さらにその雁木の下の段は潮位の関係でそのまま海へ浸かっており、海水の色なのかコケのついた雁木の階段の色なのか、もしくは混じり合った色なのか、それは濃い緑茶色の波長として私の目に映っていた。

その色は底の見えない不気味さをも感じさせ、私は深淵を覗いているような心持ちがした。ふと沼に沈んだことを思い出した。そのせいで海水の色があの時の沼の水のようにも思えてきた。

そんな時、Nくんが海から声を掛けてきた。「泳がないの?気持ちいいよ。」いや、泳げないのだが、と突っ込みを心の中でするが、そんな事はお構いなしで楽しそうに泳ぐNくん。

私もあんな風に泳げるようになりたいと羨望しながら、ゆっくり雁木を下りていった。冷んやりして気持ちがよい、ズボンが水を吸って貼り付いてきた。

一段、また一段と下りていき腰ぐらいまで水に浸かる。当然、足はついている。
泳ぎの練習をするには少し深さが足りない。もう一段下りる。
そうすると海面が胸の高さくらいになった。これなら練習できそうだ。

足はついたままだが平泳ぎの要領で両手で水を掻く、そのままの体勢で雁木の同じ段を横方向へ進む。2,3歩くらい進んだところでコケのせいなのか足を滑らせコケてしまった!!
私は体勢を崩し、海側に倒れこむ。踏ん張ろうとするが、底には何もなかった。支えをなくした私は海へ沈む。
まずい!!

(後編へ続く)


















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