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私と雁木(後編) <自己紹介シリーズ>

こちらは下記の続きです。


九死に一生

状況は変わらない。海へ沈んでいく!
私はあわてて泳ごうとする。が、しかし泳げない。傍から見ると手と足をバタバタさせて藻掻いているだけだ。(足は見えないとは思うが)
もっと言うと、完全に溺れている。
藻掻きながら海へ沈んで行き、口のあたりまで沈んで海水が口に入り込んでくる。反射的に吐き出すが、後から後から流れ込んでくる。
そうして口に流れ込んでくる海水が口の中の空気を外に追い出し、まるで、お風呂あがりに湯舟から排水口へ水が流れていくような、そんな音を出していた。
さらに沈んで、鼻のあたりまで海水が来た。

死ぬかも。

そう思ったが、しぶとく手足をバタバタしていたのが奏功したのか、足のつま先が雁木の一段下の底に触れた。それによりジャンプするような形になって少しだけ体が浮いた。顔全体が海面に出る。そのタイミングで私は必死に叫んだ「助けて!」

その声で、楽しく泳いでいた3人は私の方を見て、私が溺れていることに気がついた。

一番近くに居たTさんが私を助けようとしてこっちに全速力で泳いできた。
それでも10メートルはあるだろうか、間に合わない。
また私は沈みだす。

今度こそダメだと思った。

その時だ!
また、つま先が雁木の底に触れ体が浮いた。それが奇しくもボビングをしているような形になって、顔が海面にでた瞬間にまた呼吸をする。

それでなんとか時間を稼ぐことができ、Tさんが私のもとへ来て、雁木の一段上から手を伸ばし、私を捕まえようとする。
私は溺れながら手を掴もうとするが、余裕がなく手足をバタバタさせていたところをTさんが強引に捕まえてくれた。

そして、雁木の一段上に引き揚げてくれた。そのまま陸に上がると思うように吸えなかった空気を貪るように吸い。同時に飲み込んだと思う海水を吐き出そうとした。海水は出てこなかった。

そのまま少し休んで服が半渇きになったところで私は家に帰った。
なぜだろう、溺れたことは親に言わなかった。

かくして、私は九死に一生を得た。
命の恩人Tさん、まじでありがとう!

チームの先輩

私の小学校には夏休み期間中に登校日があった。
8月の初旬に一日だけ登校して、校長先生の話を聞いて帰るのだ。

小学5年生の時の登校日、月曜日だった。
その日はいつもと違って慌ただしかった。
校長先生の話など行事は例年と同じで滞りなく進んでいたのだが、先生方の状況がいつもと違うように感じられた。

ホームルームをしていると、教頭先生が来てTくんを呼び出した。
Tくんはあの”沼事件”で私を助けてくれたクラスメイトであり、サッカークラブのチームメイトでもある。

友達のNくんに何か事情を知ってるか聞いてみたら。
昨日からサッカーチームの先輩のWさんが行方不明なんだそうだ。
そして、Tくんは昨日Wさんと遊んだということらしい。

その日の夜、父が仕事から帰宅して消防団服に着替えすぐに出かけた。父は地域の消防団に属しており、火事やその他の災害時に応援に行く。行方不明のWさんのことだと思った。

・・・

21時頃だったか、父が帰宅した。
悲壮な面持ちで、おそらくWさんが見つかったと言っていた。
父は急いで夜ご飯をかきこみ、シャワーを浴びてまた出かけていった。

私は心配だったが、いつのまにか寝てしまっていた。
明くる朝、起きると父が居た。

父が車で朝ごはんを買いに行くというので、私は付いて行った。
車内でWさんの話をしてくれた。

Wさんが亡くなったそうだ。
現場はあの漁港だった。
おそらく海水浴をして溺れたのだろう、海底に沈んでいるのが見つかり、昨夜遅くに遺体を引き上げたそうだ。

続けて父が話す。
Wさんは母子家庭で、その母親は漁港で子供の変わり果てた姿を見て錯乱し、子供が海の底で寒かったろうと、急に服を脱ぎだしたそうだ。

知人の、チームメイトの死を聞いて、私は車の座席に座っていたのだが、立ってられないような、支えを失ったような全身の力が抜けた感じがした。
そして、なぜだか心臓の鼓動が強く感じられた。

・・・

その日は午後からサッカーの練習だったのだが、AチームのコーチもBチームのコーチもどこか暗い顔をしていた。

練習中、NくんからWさんについて教えてもらった。NくんとWさんは同じ地区に住んでいて家が近所なので、いろいろ噂が聞けるのかもしれない。

Nくんが言うには、Wさんが行方不明になった日、Wさんは友達とあの漁港で海水浴をしていて、その中にチームメイトのTくんも居たそうだ。
Tくん達のほか、Wさんと遊んでいた友達に事情を聞くと、泳いでいて突然、Wさんが消えたそうだ。消えた瞬間は誰もみていなくて、それで辺りを探したのだがみつからなかったので、帰ったかもしれないと思って、そのままだったそうだ。私は複雑な思いに駆られたが結局、何の言葉も出なかった。

・・・

円陣

Wさんの死から一週間が過ぎた頃、サッカーの練習終わりにコーチが「今からWの見つかった漁港に行くぞ」と言って、みんなで小学校から走って漁港へ向かった。

漁港に着くと、チーム全員で円陣を組み試合前に行うチーム特有の掛け声をした。いつもは一回で終わるのだが、その時は続けて三回掛け声をした。

うっすらとした雲が少しだけあったが、夕方の晴れ渡る綺麗な空にみんなの掛け声が響いていた。

私はWさんが沈んでいたであろう海を見た。なんとなくだが、いつもより凪いだ海で時折、キラキラと太陽の光を反射していた。
私は、まばゆい光にあてられ目を伏せる。
光のせいで少し暗闇に包まれた後、回復してきた視力が映した像として現れた雁木が夕日を浴びて不思議な影をつくり、それはまるで天国へ続く階段のようであった。その階段をゆっくりと見上げ、私はもう一度天を仰いだ。




























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