「緑のおばさん」・・・不思議なきっかけの話。
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「緑のおばさん」・・・不思議なきっかけの話。

夢乃玉堂



「あの緑のおばさんが、最初でした」

高校で教師をしている帆足美穂さん(仮名)は
待ち合わせの喫茶店で、職業を選ぶきっかけについて話してくれました。

小学4年生の時、美穂さんが通う学校の手間に、
ガードレールの無い細い通学路があったそうです。

道幅は狭いが静かで歩きやすい道でしたが、駅前の開発工事が始まると工事用車両の抜け道になり、砂利を積んだトラックがものすごい勢いで走り抜けるようになっていました。

「パラパパーッ!」

不機嫌なクラクションが鳴り響き、
黄色い通学帽が捲れ上がって飛びそうになることが度々あったそうです。

「危ないじゃないのよ! スピード落としなさい!」

そんな時はたいてい、通学路で旗を振って生徒の安全を見守りながら、交通整理をしている『緑のおばさん』が大声で叫びます。
でも、その声が聞こえないのか、トラックはスピードを落とさず走り去っていくのです。

「大丈夫だった? 気を付けてね」

その後で、緑のおばさんはいつも優しく話しかけてくれます。
美穂さんはそれが嬉しくて、その前を通るときは、必ず深々と頭を下げていました。

その日も同じようにお辞儀をして通り過ぎると、すぐ横を歩いていた親友の朋未ちゃんが不思議な顔をして聞いてきたそうです。

「ねえ。美穂ちゃん。どうして何もない道の真ん中でお辞儀するの?」

「うん? 緑のおばさんに挨拶してるだけだよ」

「え~。どこにいるの?」

「ほら。そこにいつも立ってるじゃん」

いくら説明しても朋未ちゃんは納得してくれませんでした。

説明しているうちに、美穂さんも不思議に思えてきたのです。

「そう言えば、あの緑のおばさん、いろんな所にいる」

その緑のおばさんは、細い通学路だけではなく、
塀に囲まれた十字路や商店街の入り口にもいるのです。

「もしかして、美穂ちゃん霊感あるんじゃないの」

スピリチュアル好きの朋未ちゃんは、興奮気味に目を見開いていたそうですが、美穂さんは意外に冷めていました。

そして冷静に、見えている大人たちの事を一人一人朋未ちゃんと
確認していったんだそうです。

「そんなにいるんだ~」

と、二人は驚きました。

車の多いところで旗を振る緑のおばさん。
雨の日も交番の前で立っているお巡りさん。
夕方になると自転車に乗って早く帰れと声を掛けてくる用務員のおじさん。

などなど、
通学路のそこかしこに、見えない人が立っていたのです。

そう聞くと、ちょっと怖い感じがしますが
美穂さんも朋未ちゃんも、全く違う感想を持ったそうです。

「そんなにたくさん、見守ってくれてる」

と感謝の気持ちが生まれたのです。

それ以来、美穂さんは、たくさんの幽霊を見てきたそうですが、
一度も怖い思いはせず、必ず人を守っている霊だけが見えたと言います。

「私が教職を選んだのは、その影響が大きかったと思います」

美穂さんは降り返って話します。

「ずっと誰かに助けられ、導かれているような気がしていたので、
私も誰かを導くような仕事がしたくなったんです。
私の話を聞いた彼女も、同じように感じたようで、
女性警察官の仕事選んだんです。ねえ朋ちゃん」

美穂さんはそう言うと、自分の隣の席に向かって微笑みました。

そこには誰も座っていないのに。


                   おわり




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夢乃玉堂

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夢乃玉堂
「生きろ! 力強くなくて良い。闘わなくても良い。地べたをはいつくばっても。生き抜けばそれで良いのだ」と、感じる出来事が・・・最近ありました。怪談も恋バナも占いも、何の力にもならないように思えても、わずかでも息抜きのかけらになるのなら、もう少しだけ書いていようと思う。