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カメラの横にいるのは・・・


最近、テレビ局は警備が厳しくなり、簡単に出入りすることが難しくなりましたが、昔はふらっと一般の人が出入りできる場所だったので、スタジオ内に見知らぬ一般人がいるということは珍しくありませんでした。

でも、こんな人は困ります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「スタジオの女」

私がまだ新人のカメラアシスタントだった頃の話です。
今は取り壊されたのですが、都内某所に「X」という撮影スタジオがありました。

その夜遅く、新人の私と
社内でも短気で有名なテクニカルディレターの田中(仮名)さんが残り、
翌朝早くから始まる料理番組の撮影のために、4台のスタジオカメラを調整していました。

「2カメを少しアップにしろ。3カメは逆に引け!」

カメラで撮影している映像は、
別の場所にあるサブコン(副調整室)に送られ、
それを見た田中さんが、私にインカムでガンガン指示を送ってきます。

私はその指示に従って、カメラ位置を直したり、邪魔なものをどかしたりしていました。

ところが急に、田中さんが怒りだしたのです。

「チェッ何だよ。4カメの前にいる女、邪魔だ。気になって調整できねえよ」

料理をする出演者を撮る3台のカメラとは別に
4カメは完成した料理を撮るため、少し区切られた場所にセットされていました。

『誰か残ってる人が入り込んだのかな?』

と思い、4カメの前まで行ってみますが、料理用の皿が一つ置かれているだけでした。

「誰もいませんよ」

「バカヤロウ! 白い服着た女が立ってるだろう! 目開けてよく見ろよ!」

インカムから聞こえる声は、苛立ってきますが、いないものはいないのです。

「だからいませんよ。他のスタジオの映像を見てるんじゃないですか」

「他のスタジオの訳ないだろう。23時過ぎて残ってる奴なんか、
お前と俺しかいねえんだよ」

それを聞いて私は少し気味悪くなってきました。

早朝から撮影がある為、私たちだけが残って
調子の悪いカメラの調整をすることになっていたのです。
他のスタジオどころか、
このビルに残っているのは、私たち二人だけなのです。

「いいから。どかせろよ! その陰気な顔した髪の長い女をよ!」

さらに苛った田中さんが、インカムに怒鳴ってきます。
仕方なく私は、カメラに映る位置に入って聞いてみました。

「田中さん。見えますか? 私のどっち側にいるんですか、その女は?」

と左右に手を振ると田中さんは、

「ああ。丁度お前の右肩に手をかけて、髪を垂らした女が笑ってるぞ」

私は「ひいえ」っと思わず声を上げ、後ろを振り返りましたが、女はいません。

その時、インカムの中で田中さんが大きな笑い声を上げました。

「ひゃはははは~。びっくりしたか。『ひいえ』って可笑しかったぞ。ははは」

「からかうのは止めてくださいよ!」

私は怒りながら、4カメの前を離れました。すると・・・

「お、おい。今お前がいたところ、お前の陰になってたところに誰かいるぞ」

「もうその手は食いませんからね。早く終わらせて帰りましょうよ!」

私は眠さも手伝って少し声を荒げてしまいました。

「ふざけてるんじゃないよ。
今、黄色い幼稚園の服着た女の子が、こっち見てるんだよ。
見てみろよ。カメラの右端。台の陰だよ」

「しつこいですよ。そんな女の子なんか、いるはずないじゃないですか」

「いるんだって。カメラに向かって歩いているよ。どんどん近づいてくる。
ヤバいぞ。凄い怒った顔をしてる。うわわわ~。両目が、両目が。うわ~~~」

「いい加減にして下さいよ! いくら先輩でも怒りますよ!」

我慢できなくなった私はインカムに怒鳴ってしまいました。
田中さんが怒っちゃうかな、と少し不安になったのですが、インカムからは
何の声も聞こえてきませんでした。

「田中さん。田中さん。聞こえてますか?」

2,3分呼びかけましたが、インカムに返事はありません。
変だな、と思い、私はスタジオを出てサブコンに向かいました。

サブコンのドアを開けて中に入ると
田中さんが椅子の背もたれに力なく寄りかかり、
天井を見つめてよだれを流しながら、ぶつぶつと訳のわからない言葉を
呟いていました。

「目が無いのに目がある、目が無いのに・・・」

私は急いで救急車を呼び、翌日の撮影は中止になりました。

田中さんはその後しばらくして、社に戻ってきましたが、
以前とは人が変わったように臆病になり、
小さな物陰を見ると奇声を上げて逃げ出す様になってしまい、
一月もしないうちに会社を辞めてしまいました。

それ以来、田中さんとは連絡が取れなくなり、
数年後にはそのスタジオも閉鎖されてしまったのです。

         おわり




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夢乃玉堂
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