ゲームを完成させるための秘訣は…好きの言語化にあり!?【受賞者ドキュメンタリー第10弾】【後編】
※こちらの記事は『後編』になります。
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■「自走するチーム」を理想とし、組織作りを進める
――受賞者サポートの中で印象的なものはありましたか?
🔶わけん:gamescom 2024(※)への出展と、Supercell(※)のスタジオツアーですね。他の受賞クリエイターの方々と異国の地に行って特別な体験をするというのは、非常に素敵なものでした。普段はGYAAR Studioさんが主催する懇親会や試遊会で受賞者の方とお話はするんですが、やっぱり仲良くなるには辛い体験や特別な体験を共有する必要があると思っていましたから。僕はすごく人見知りなんですが、今回はとても仲良くなれましたね。
――Supercellのクリエイターと話をしてみていかがでしたか?
🔶わけん:最近自分は「いいチームを作る」ということを意識しているんですが、Supercellのスタッフさんも同じ事を仰っていてすごく嬉しかったです。「Jelly Troops」もプレイしていただいたんですが、「Pretty cool!」とか「Very unique! Excellent!」と褒めてもらえたので自信になりました。
――それはなかなかできない経験ですよね。では、わけんさんが考えるいいチームというのはどういうものでしょうか?
🔶わけん:理想としているのは「自走するチーム」です。メンバーの一人一人がゲーム全体のことを考え、自分で選択して行動が取れるチームということですね。
上から仕様が降りてくるのを待つだけではなく、ゲーム全体を面白くするために提案する。例えばグラフィックを作る人なら「ここは仕様書だと何のエフェクトもないけれど、それでは分かりにくくないか」といった疑問を提示するといった感じですね。そのためには、チーム内に心理的安全性が保たれている必要はありますから、「いつでも提案OKですよ」という空気感を作っています。思った通りにできているかどうかは分かりませんが、とりあえず意識はしているということですね。
――なるほど。皆が職種に関わらずゲーム全体に対するビジョンを持ち、それぞれの視点から提案を行う……というのはゲーム作りにおける理想の一つですね。「Jelly Troops」においては、どんな提案があったのでしょう?
🔶わけん:大小色んなところに関して提案をもらえていますね。例えばUIなんかはほとんど任せていますし、最近ではサウンドについて「スライムが動く際に声があった方がいいから、わけんさんのお子さんの声を入れてみましょう」という提案が出ました。いざ録音しようとしたところ、1歳の子どもに声を出してもらうのはなかなか難しかったので、今は妻の声を入れていますね。
――先ほどのお話ではマーケッター兼広報の方もおられるということでしたし、インディーゲームとしては珍しい組織作りなんじゃないでしょうか。
🔶わけん:面白いゲームを作って売って、ある程度ヒットさせたい……ということを考えていった結果、そうした仕事もやらないと難しいということになったということですね。ゲームデザインの仕事に注力したいという気持ちがありつつ、新しいことは面白いですから、プロデューサー的な仕事もしているということです。
■自らが求める理想のゲームを目指し、まずは1本を完成させることが大事
――GYAAR Studioの試遊会にはどのようにして参加されているのでしょう?
🔶わけん:「Gather」という、ドット絵の世界でアバターになってオンラインミーティングできるアプリを使い、他の方が作ったゲームをネット越しに見ながらお話しするという感じですね。ただ、やはり直接会って話をする方がいいですし、オンラインミーティングですと雑談がしづらいというところはあるかも知れません。
――今後GYAAR Studioに求めていきたいサポートはありますか?
🔶わけん:基本的にはGYAAR Studioさんのサポートに満足していて、熱望するというほどのことではないんですが……クリエイターさんとマンツーマンで話す機会が欲しいですね。大勢の人がいると密な話はしづらいところはあります。例えば、プログラムで使っているプラグインや、プロジェクトのヒエラルキー構造といった細かいところを聞く機会はなかなかありませんから。
あとは、GYAAR Studioの方々に「Jelly Troops」をすごくやり込んでもらえたら一番嬉しいかも知れませんね。自分たちでもプレイする時間をできるだけ割くようにはしていますが、ゲームで採りうる色々な作戦について突っ込んだ話ができると、ゲームが良くなってくるとは思います。
――まずはサポートとしてマンツーマンで話をする機会を作り、その後はそれぞれが親しくなっていくということですね。ゲームのやり込みについても、思っても見なかった作戦が出てくるかも知れませんし。
では、最後にインディーゲームを作っているクリエイターに向けてアドバイスをお願いできますか?作品を作り続けて完成させられないという方も多いですが、ゲームを完成させるのが得意というわけんさんから、完成させるコツをうかがえればと思います。
🔶わけん:「1つ作品を完成させるまでは、大きな風呂敷は広げてはいけない」ということですね。
ゲームシステムは他の作品を参考にしても良いのでシンプルなものとし、1つ作品を完成させる経験をすることで、迷走する確率は下がっていくんじゃないかと思います。
その理由は「自分がどれくらいの速度でどの程度の作業ができるか」の見積もりができるようになるからです。開発において常に細かくマイルストーンを建てて計画を作ることは重要ですし、そこで見積もりができるとできないとでは大きく違います。だから、最初は完成させることを最優先した方がいいんじゃないでしょうか。
――特に1本目のゲーム開発ではやりたいことを全部盛り込みたくなりなかなか完成しないという話を聞くことがあります。
🔶わけん:完成させられない理由としては「自分の理想ではないつまらないゲームができてしまい、人に見せるのが恥ずかしい」というところもあるんじゃないでしょうか。初めて作るゲームなんて面白くならないのが普通です。だから、まずは1つ完成品として出してしまい、次の作品で改善していく方がいいんじゃないでしょうか。
――確かに、他のあらゆる創作と同様、いきなり傑作を作れるわけでもないですしね。
🔶わけん:最初の1本を作るとしても、自分の作りたいものでないとモチベーションを保てないと思います。ですから、自分の作りたいものの中から一番完成しやすいものを作るのがいいでしょうね。
――自分の作りたいものが本当は何であるかを見つけていくことも重要なんですね。
🔶わけん:初めてのプロジェクトだと、自分は何が好きなのか分からないことが多いと思うんですよ。「『ドラゴンクエスト』のようなゲームを作りたい」「『バイオハザード』のようなゲームを作りたい」……という感じの漠然としたビジョンはあっても、これらの作品のどこが好きなのかを理解していないんです。
――確かに、いきなり好きなゲームのどこが良いのかを聞かれて即答できる人は少ないと思います。
🔶わけん:そこで、より細かく見て、これを言語化することは重要だと思います。
例えば「バイオハザード」なら、どこが好きなのか→ホラー的なところが好き→それなら人を驚かせることに特化したホラーを作ろう→自分には長編のゲームはまだ難しいから、怖さを5分で味わえるものにしよう→それなら短い期間で作れそうだ……という感じで、より完成させやすいゲームの案を出せるんじゃないかと思いますね。
――なるほど。ゴールが明確であることは重要だし、そのためには自分は何が好きかを言語化していけばいい。
🔶わけん:イチゴのショートケーキで例えるなら、「どういった要件を満たしていればイチゴのショートケーキたり得るか」を考えるということです。どこが残っていればイチゴのショートケーキであるかを考えつつ、大きなケーキを削っていく。そうすれば「イチゴの載っている部分とスポンジさえあれば、イチゴのショートケーキだよね」というところに気付けるはずですから。その過程では、もしかすると「ケーキを食べたいのではなく、イチゴを使ったお菓子ならなんでもいい」ことに気付くかも知れません。また、「甘ければなんでもいい」「実は赤いものが欲しかったんだ」ということもあるでしょう。
自分が欲しいものを明確にしてコンパクトなゲームを作っていけば、自分の作業スピードや、欲しいものを追求していく上でどうすればいいかも分かっていきます。そうすれば次はもっと効率よく自分の欲しいものを作れるようになっていきますから。
――自分が何を求めているのか、何を作りたいのかは自分でしっかり見極めるしかない。
🔶わけん:インディーゲーム作りは自分の欲しいゲームを作ることであるけれど、最初の1回でいきなりそうしたものを作れるわけではないと僕は思います。最初に作ったものは、自分が作りたいものを完成させる礎に過ぎません。だから人に見せても恥ずかしくないと考えれば、フィードバックももらいやすくなりますし、その後の創作もやりやすくなるんじゃないかと思います。
――何度も繰り返してゲームを作っていき、少しずつ自分の理想に近づいていくことがインディーゲーム作りなわけですね。ありがとうございました。