隠れオタク女子4人組のデビュー作:「KILLA」で見せる若手チームの挑戦【受賞者ドキュメンタリー第12弾】【後編】
※こちらの記事は『後編』になります。
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■「趣味から本気へ」オタク魂で切り開くインディーゲームの世界
――企画の初期段階でコンセプトが変わったとおっしゃっていましたが、その話をもう少し聞かせてください。実際、推理ゲームを作ると決断されたのは簡単なことではないと思いますが、このコンセプトを最初に提案したのは誰で、開発の過程で皆さんはどんな意見を出されたんですか?
🟨 チェ・ダヨン:私は農場ゲームが好きです。最初にジェウォンさんが私の企画書を見たときは、推理ゲームじゃなくて、牧場で薬を製造して住民に渡すという、かわいらしいゲームのコンセプトでした。でも、開発を進めるうちに、ジェウォンさんと仲良くなって、お互いがオタクだということがわかり、キャラクターや物語が大事だということに気づきました。それで「もっとキャラクターをしっかり作り込もう!」となったんですが、薬作りのコンテンツでは、キャラクターの魅力を十分に見せるのが難しかったんです。ストーリーに重点を置こうともしましたが、それだけではゲームとしての面白さが薄れてしまう。悩んでいたところにセウンさんとダウンさんが加わり、4人で「私たちみんなキャラクターが好きなオタクだし、キャラクターの魅力をうまく見せつつ、ゲームとしても面白くできるものは何だろう?」と話し合いました。そこから「キャラクターたちの物語を解き明かす推理ゲームはどうだろう?」という意見が出て、みんなで「それいいね!それで行こう!」と決めました。
――方向性が大きく変わりましたね。お互いがオタクだと気づいたのはいつだったんですか?
🟦 チャン・ジェウォン:最近どんなゲームをしているかの話をしていたところ、それまでは普通の人を装っていたのに、うっかり「ウマ娘」って言っちゃったんです(笑)。それで「しまった、これで変な人に見られる!」と思ったんですが、ダヨンさんが「え、ジェウォンさんもやってたんですか?」と言ってくれて。そこから趣味を共有するようになりました。
――ばれてしまったんですね(笑)。今もゲーム開発を続けていますが、GYAARConで受賞した後、生活や気持ちの面で変わったことはありますか?
🟥 ユン・セウン:もともとゲーム開発は趣味で始めたものだったんですが、こうして良い結果を出せるようにサポートしていただいているおかげで、今はさらに全力で開発に集中できるようになったと感じています。
🟪 チェ・ダウン:正直なところ、自分が作ったプロジェクトやゲームに対して、そこまで自信がありませんでした。しかし、日本で受賞できたことで、少し自信を持てるようになりました。そして、GYAARConでの受賞をきっかけに、海外の展示会にも参加する機会を得て、海外でも韓国でもさらに認知度が上がってきて、ゲーム業界に対する興味が一層強くなりました。「ここは本当に自分が楽しく働ける場所だ」と将来への確信を持つきっかけになったと思います。
🟨 チェ・ダヨン:受賞後、まずはお金が入ったのが嬉しかったです。毎回会議や開発のときや、チームメンバーにハンバーガーを奢るとき、切なかったんです(笑)。みんな趣味でやっているし、負担をかけたくなかったので。でも、解散するわけにはいかないですし。それが解決したので、とても嬉しかったです。20代のうちに、どうしても1本ゲームを完成させるのが夢でした。ゲームを作れるうえに、支援金までいただけるなんて。これでゲームのクオリティを上げて、もっと自分たちの理想に近づけることができたので、GYAAR Studioには本当に感謝しています。それに、海外、しかも大企業からいただいた賞なので、もともと私たちの小さくて可愛らしいゲームだったものが、今では「ここで賞を取ったんだ」と言われるようになり、もっと広く知ってもらえるチャンスができました。まだどうなるかはわかりませんが、これからも順調に進むための土台を作ってもらえたと思っています。もっと頑張って開発していかなければ、という気持ちでいっぱいです。
🟦 チャン・ジェウォン:ダヨンさんがほとんど言いたいことを言ってくれましたが(笑)、受賞してから、私たちのゲームを好きだと言ってくれる人が増えて、認知度も上がり、とても嬉しいです。さらに、gamescom(※)や東京ゲームショウのような展示会にも参加する機会をいただき、いろいろな面で本当に感謝しています。自分たちで作ったコンテンツを多くの人が遊んでくれることで、もっとゲーム開発に興味が湧いてきました。財政的なサポートもしていただけたおかげで、以前よりも開発速度が上がった気がします(笑)。
――それはとても大事なことですね。確かに、財政的なサポートがないと進行が難しいですよね。お金に関して触れていただきましたが、GYAARConの支援金はどんなところに使われていますか?
🟨 チェ・ダヨン:賞金をいただいてから、まずはこれまでの開発にかかった費用、アセットツールの使用料や年額の支払いなど、細かい費用の借金を全部返済しました。
――やりましたね!
🟨 チェ・ダヨン:その借金を全て返済して、新たな気持ちで開発に取り組めるようになりました。そして、ジェウォンさんが言っていたように、みんな趣味として始めたので、当初は「ゆっくりゲームを作ってみよう」という感じで進めていたんですが、受賞して、結果が見えてきたことでチーム内に信頼感が生まれ、情熱もさらに高まりました。賞金のおかげで、開発費を少しずつ精算しながら進められるので、開発に対する意欲も増しました。予想以上の金額をいただいたおかげで、インディーゲーム開発者として挑戦したいと思っていた分野にも踏み込めました。たとえば、ダウンさんのためにはマーケティング予算を確保できましたし、ジェウォンさんはプログラミング用のアセットやフィルターを購入できるようになりました。そして、セウンさんはサウンドオタクなので、一応夢だった声優の起用に使えるお金ができたということで、チームメンバーの小さな願いが次々と実現していくのが、本当に嬉しいです。
🟦 チャン・ジェウォン:以前は私が一人でプログラミングをしていたので、開発速度がそれほど速くなくて、他のメンバーに申し訳ない気持ちがありました。でも、アセットをたくさん活用すれば、開発のスピードを大幅に短縮できるので、アセット費用を出せるようになったことが一番ありがたかったですね。それに、gamescomなどで私たちを宣伝してくださり、簡単には得られないチャンスや貴重な経験もたくさんさせてもらえて、本当に感謝しています。
――前回のBitSummitや今回の東京ゲームショウで、他のクリエイターと会う機会があったと思いますが、受賞者サポート用のSlackチャンネルがあるとはいえ、交流の機会がもっと増えるといいなと思うことはありますか?
🟪 チェ・ダウン:Slackチャンネルでは言語の壁が少しあって、直接やりとりすることはあまりないんですが、「この人、今こんな準備をしているんだな」とか、「GYAAR Studioで最近もくもく会があるんだ、面白そうだな」など、遠くから見守る楽しさがあります。以前、gamescomが終わった後に、ウィッシュリストを共有し合って、「この人はこんなに成果を出したんだ」という話も見ています。直接のやりとりというよりは、展示会で軽く挨拶をする程度の会話ですが、少し交流はしていますね。私はチームのSNSを管理しているので、他の方々と相互フォローになっていて、時々Xで「日本ではこんなことが話題なんだな」とか、「ゲーム業界ではこんなことがあるんだな」と、ひっそりと見守っています(笑)。
🟥 ユン・セウン:私も日本語ができるとはいえ、あまり外向的な性格ではないので、オンラインで積極的に交流を持ったりはしていません。でも、Slackのランダムチャンネルなどがあって、韓国でこんな展示会があるという情報を投稿したこともあります。投稿はいつも見ていて、答えられるものがあればできるだけ反応するようにしています。もっと交流ができる方法があれば楽しいとは思いますが、Supercellツアー(※)などで公式に集まる場を設けていただけたりもしているので、その場で会えるだけでも嬉しいです。
――Supercellの話が出たのでお聞きしたいですが、Supercellのヘルシンキオフィス訪問の特典は第2回GYAARConから実施されました。オフィスを訪問したことで、個人的にまたはゲーム開発にどんな影響を受けましたか?
🟪 チェ・ダウン:オフィスを訪問して、特にSupercellの雰囲気を感じられたのが良かったです。会議って、そんなに堅苦しい必要はないんだなと思いました。Supercellに所属する各分野のエキスパート達が私たちに講演をしてくれて、特に私の場合、アート担当の方が「コンセプトを考える際に、実際のテーマパークなどを参考にしてインスピレーションを受け、世界観を作り上げたりしていた」と話してくれたのが印象に残っています。「KILLA」の世界観も、あのようにしっかり作り込めたらいいなと、たくさんのヒントを得ました。ヘルシンキを旅しながら、ゲーム開発や展示会の準備で無意識に溜まっていたストレスが少し解消されたのも、とても良い経験でした。
🟥 ユン・セウン:Supercellの中でも豊富な経験を持つ方々が私たちのゲームをテストプレイしてくれたことが、とても有意義でした。私たちのターゲット層とそうじゃない方々含めて、さまざまな意見を聞けたのは大きな収穫でした。どのように改善していくべきか、考えるきっかけになりました。
――印象に残っているフィードバックはありましたか?
🟥 ユン・セウン:私たちのゲームの世界観がターゲットユーザーに合っていて、期待しているというお言葉をいただいたことです。一方で、テキスト量が多い部分に対して厳しい意見をいただいたことも記憶に残っています。
🟨 チェ・ダヨン:私も、ヘルシンキでいただいたフィードバックには本当に感謝しています。これほどの専門家たちが、私たちのゲームを真剣に見て意見をくれるなんて、とても嬉しかったです。またgamescomに参加したとき、正直言うと韓国では「可愛いし、悪くない出来だろう」と思っていたんですが、実際に他のインディーゲームをたくさん見て、まさに「井の中の蛙」だったことに気づかされました。gamescomで出展されているゲームはどれもクオリティが高く、魅力的なアートやストーリーが詰まっていて、このままでは埋もれてしまうんじゃないかという危機感を覚えました。とても良い刺激を受けましたね。
🟦 チャン・ジェウォン:私もSupercellのスタッフが私たちのゲームをプレイしてくれて、特に開発の部分で貴重なアドバイスをいただけたのが印象的でした。また、gamescomでは他のインディーゲームを見て、学ぶことがたくさんありましたし、ダヨンさんが感じたように自分たちももっと成長しなければと思いました。
――今回の東京ゲームショウでも、ユーザーからフィードバックを受けたりアンケートを実施して、分析もされたと思いますが、印象に残っていることや今後の開発に影響を与えた部分はありますか?
🟪 チェ・ダウン:作品を展示すると、ユーザーがどこで離脱し、どこで集中するかを後ろから見ているだけでも多くのことがわかります。どの部分をもっとアピールすべきか、チラシを配るときに、ユーザーがどのイメージに反応し、どの言葉に引かれるのかがよくわかりました。また、現場で翻訳が少し不自然だというフィードバックや、もっと良い演出があれば良かったという意見もいただきました。こうしたフィードバックを元に、ユーザーがどこで離脱するのかをさらに分析し、改善して、より良い体験を提供できるよう開発を進めていきたいと思っています。
――セウンさん、先ほど声優を起用したいとおっしゃっていましたが、誰にお願いしたいとかありますか?
🟥 ユン・セウン:とても夢のような話なんですが、コンテストの最終面談でもお話しした通り、宮野真守さんにお願いしたいと思っています。私たちのゲームで最もカッコいいキャラクターを演じていただきたいです。いつか実現できればいいなと願っています。
――1年前は今の状況を想像できなかったように、その夢もいずれはきっと実現すると思いますよ!今後の「KILLA」のスケジュールはどうですか?
🟪 チェ・ダウン:2025年5月から8月の間にリリースを予定しています。日本市場は非常に重要なので、5月ごろにあるINDIE Live Expo(※1)に出展し、記事がでた後にリリースできればと思っています。また、2025年1月までは展示会に参加し続けて、韓国のG-STAR(※2)、バーニングビーバー(※3)、台北ゲームショウ(※4)などを巡りながら、引き続きプロモーションを行う予定です。まだSteam Nextフェス(※5)には参加していないのですが、2025年6月頃の参加を目指しています。他に、2025年3月頃には韓国内でクラウドファンディング、以降にはグローバルファンディングも考えています。
――Steam以外のプラットフォームも検討されていますか?
🟪 チェ・ダウン: 韓国市場ではビジュアルノベルのようなジャンルが「STOVE Indie(※)」というプラットフォームで需要がありますが、それについてはもう少し考えてみたいです。プラットフォームを分けることで、Steamでの売り上げが減少し、露出が少なくなるんじゃないかという心配があるので、まだ悩んでいるところです。
――韓国のインディーゲーム市場についてどうお考えですか?
🟥 ユン・セウン:私たちもあまり詳しくはありませんが、うちのチームは韓国コンテンツ振興院(以下、韓コン振)というところからも支援を受けています。もしゲームがうまく進めば、もっと良いサポートを受けて、より良いチームとして成長していけるのではないかと、漠然とですが夢見ています。
🟪 チェ・ダウン:日本と比較してどうなのかはわかりませんが、 韓国は政府機関からの支援がとても充実していると思います。私たちも韓コン振から支援を受けていますが、起業準備者からシニア開発者まで幅広くサポートしてくれています。そういった支援のおかげで、インディー開発者が費用の心配をせずにチャンスを掴む機会が多くなっています。展示会や東京ゲームショウでも、さまざまなジャンルのゲームが登場しているのを見て、私たちも刺激を受けています。「KILLA」も、インディーゲーム含むゲーム市場で主流のジャンルではないかもしれませんが、支援のおかげで、私たちの色を失わず、好きなゲームを開発できているのではないかと思います。
――韓コン振の支援は毎年更新されるものですか?選ばれるための基準はありますか?
🟪 チェ・ダウン: はい、そうですね。起業準備者枠では25チームが選ばれ、数千万ウォンの支援を受け、その後、追加支援評価でさらに10チームが選ばれます。内部審査を通じて、支援を受けることができる仕組みです。
――では、支援を受け始めたのはいつからですか?
🟪 チェ・ダウン:GYAARConで受賞した後、起業準備者枠に選ばれたので、たぶん3〜4月頃から支援を受け始めたと思います。
🟨 チェ・ダヨン:韓国には支援事業がたくさんあります。さらに、ゲームに特化した高校や大学もあって、多くの才能が育っています。若い才能や天才が多く出てきて、インディーゲームであってもクオリティの高い作品がたくさん生まれている印象です。私たちもこの流れに乗って、クオリティを上げていかないと、すぐに追い越されてしまうのではないかと思うほど、良い作品や若い開発者が増えています。
🟦 チャン・ジェウォン:学校や政府機関がインディーゲームに関心を持っているだけでなく、大企業もその動きに関心を寄せていて、企業内にインディーゲームスタジオを作るほどです。そのため、インディーゲーム全体のレベルが上がっているように感じます。さらに、大企業がインディーゲームのチームを引き抜こうとする動きもあります。
――では、日本のインディーゲーム市場についてはどう感じていますか?
🟥 ユン・セウン:今回、日本の展示会に参加して感じたのは、インディーゲームならではの独創的なアイデアが光る作品が多いということです。韓国では国からの支援があるので、それが影響しているかもしれませんが、日本では1人開発のゲームが多いこともあって、派手ではないけれど、アイデアが際立っていると感じました。
🟪 チェ・ダウン:セウンさんと同じく、韓国よりも少人数のチームが多いという印象を受けました。私たちは日本のことを深く知っているわけではありませんが、日本にはインディーゲーム関連の展示会や、東京ゲームダンジョンのような開発者同士が交流し、インディーゲームを広める機会がたくさんあると感じました。
🟨 チェ・ダヨン:私は東京ゲームショウでしか日本のインディーゲームを見たことがありませんが、韓国とは違うオーラがあると思います。韓国では、支援を受けて「このゲームでキャリアをしっかり築きたい」という意識が強いゲームが多いと感じますが、日本のインディーゲームはキャリアというよりも「愛情」や「自分の子どもに対する執着」が感じられる作品が多かったです。私はどちらかというと後者のタイプのインディーゲーム開発者なので、日本のインディーゲームにより共感できる部分が多かった気がします。
🟦 チャン・ジェウォン:私もダヨンさんと同じように感じています。韓国では韓コン振の支援を受けるために、それが求めるゲームの基準に合ったゲームを作る傾向があり、特に目立つゲーム以外は、どれも似たような感じがします。でも、日本のインディーゲームは、その基準に縛られることなく、各チームの個性がよく表れていると思いました。3月に吉祥寺で開催されたTOKYO INDIE GAMES SUMMIT(※)でも、それを強く感じ、非常に面白かったです。
――最後に一言ずつお願いします。
🟥 ユン・セウン:今回のコンテストをきっかけに、多くの良い成果を得ることができて、本当に感謝しています。無事に2025年のリリースまでたどり着けるよう、これからも全力で頑張っていきます。
🟪 チェ・ダウン: 私たちのチームは最初、何もないところからスタートしましたが、多くのチャンスを与えてくれたGYAAR Studioには本当に感謝しています。そして、最初から私たちを応援してくださったユーザーの皆さんにも心から感謝を伝えたいです。ありがとうございます。
🟨 チェ・ダヨン:本当にGYAAR Studioとユーザーの皆さんに感謝しています。最後に自分自身に一言話しておきたいです。「いざやってみると、思った以上にやりがいや成果が大きい。未来に何があっても、最後まで耐えてリリースしてね、ダヨン!」。
🟦 チャン・ジェウォン:ここまで来られたのは、GYAAR Studioのサポートのおかげです。本当に感謝しています。そして、展示会やメールなどでいつも応援してくださるユーザーの皆さんにも感謝しています。私たちも最後までしっかりと仕上げて、リリースできるように頑張りたいと思います。