
『BANDIT KNIGHT』盗賊は「声」を集めて進化する!? ~大活劇の舞台裏~【受賞者ドキュメンタリー第13弾】【前編】

■Ameo (写真右)
幼少期の最も古い記憶は、家族や親のことではなく、友達の家で初めてスーパーファミコンを目にした瞬間。大学では情報工学を専攻し、プログラミングを学ぶ。その後、システムエンジニアとして就職し、さらに個人事業主としてプログラミング講師を務めながら、趣味で約10年間ゲーム開発に取り組んでいる。
■もふもふひつじ (写真左)
子供の頃はあまりゲームをすることがなかったが、旦那であるAmeoがプレイしているのをきっかけにゲームを遊ぶようになった。もともとは漫画家として活動していたが、Ameoのサポートとしてゲームのイラストやキャラクターデザインを手掛けるようになり、次第に本格的にドット絵の作成やゲームのストーリー制作にも関わるようになった。
ファンタジーの世界で、正義の盗賊が大活躍。悪いお金持ちからアイテムを盗み出す、義賊系アクションゲームが「BANDIT KNIGHT」だ。
正義の盗賊が主人公というのもユニークなら、16ビット時代の雰囲気が漂うドット絵と3Dグラフィックを組み合わせた公称「2.5Dドット」という手法も面白い。
ステージでは、陳列されている貴重品から通行人の所持品など、ありとあらゆる場所からアイテムを盗める。その手段もショーケースを壊しての強奪や、相手の隙を突いたスリ、背後からのステルスや投げナイフといった攻撃で気絶させて身ぐるみを剥いだりと多彩である。無数のアイテムがザクザク手に入る様には、本作ならではのカタルシスがあるのだ。
ゲーム作りを夢見た少年が大人になり、一度はゲームと無関係な職に就いたものの、昔の夢が再燃し、コンテストで受賞するまでになった。そこでは徹底したプレイヤーファーストの姿勢があったのだ。
Game FloatのAmeo氏、もふもふひつじ氏に、「BANDIT KNIGHT」の開発秘話を聞いた。

――受賞おめでとうございます。まずは「BANDIT KNIGHT」における担当を教えてください。
🔸Ameo:Game FloatのAmeoです。プログラムからグラフィック、レベルデザインなど「BANDIT KNIGHT」の開発全般を担当しています。
🔹もふもふひつじ:もふもふひつじです。キャラクターのドット絵を描いてます。
――「GYAAR Studioインディーゲームコンテスト」に応募されたきっかけはどういったものでしたか?
🔸Ameo:僕はかつて「ニコニコ自作ゲームフェス」などコンテストに応募し、そこで知り合った方々とのコミュニティに属していました。10年ほどが過ぎた現在「あの頃みたいに、コミュニティへ入って開発できればいいな」と思ったんです。
――確かに、近年はインディーゲームのコンテストも増えています。その中でGYAAR Studioインディーゲームコンテストを選んだ理由はなんでしょう?
🔸Ameo:他のコンテストにも応募はしていたんですが、GYAAR Studioインディーゲームコンテストで受賞すれば、受賞者専用のコミュニティに所属することができるので、コミュニティを重視する自分に合っているんじゃないかと思ったんです。既に第1回の結果が出ていて、雰囲気をつかめたのも大きいですね。

――インディーゲームのコンテストを選ぶ時代になっているというのは、かつてからすると隔世の感がありますね。では、お二人のゲーム原体験を教えていただけますか?
🔸Ameo:僕が覚えている一番古い記憶は、家族との思い出ではなく、ゲームをしていたことでした。初めて同い年の男の子の家に遊びに行った際、「スーパーマリオワールド」に衝撃を受けたんです。その子はトイレに立つ際「絶対触るなよ」と僕に釘を刺していたんですが、それを無視して最初のステージをプレイして、ミスして怒られたんですよね。
🔹もふもふひつじ:私は兄がゲームしているのを横から見る感じでした。自分では遊ばなかったんですが、知識だけはあるという感じでしたね。
🔸Ameo:僕らの世代だと「ポケットモンスター」が大きいですね。団地や公園、学校の校庭に通信ケーブルを持っていき、交換や対戦をしてました。あとは「デジモン(デジタルモンスター)」や「たまごっち」といった携帯機が世に出たので、外でもゲームをしてた感じです。家にはスーパーファミコンもありましたし、ドット絵のゲームに慣れ親しんだ世代ですね。
🔹もふもふひつじ:携帯ゲームはあったんですが、外でドッジボールやキックベースをしてたことの方が多かったですね(笑)。
――子供時代「ゲームを開発する」ことを意識されていましたか?
🔸Ameo:意識していたと同時に、ゲームはゲーム会社に入って作るものだから、自分でのゲーム開発は実現しないだろうとも思っていました。就職もゲーム関係ではなく、システムエンジニアの道を選びましたし。その後、仕事を辞めて「ゲームを作りたい」と思うようになり、Unityを勉強してゲームのプログラミングを教える講師になったんです。
🔹もふもふひつじ:私は専門学校を出て、その後漫画家さんのアシスタントをしてました。ですから、ゲーム開発を意識することはなかったですね。
――Ameoさんは講師になった後、ご自身の創作活動はされていたのでしょうか?
🔸Ameo:はい。ニコニコ自作ゲームフェスやふりーむ!、Unityroomといった場所に自作ゲームを投稿しました。やがてゲーム開発のお仕事をもらえるようになり、本格的に仕事としていこうということでGame Floatを立ち上げました。
――やはり、自作ゲームを投稿して世に出すというのは創作活動に影響を及ぼすのでしょうか?
🔸Ameo:そうですね。知り合った人たちと勉強会や交流会を通してコミュニティを作れましたし、妻のもふもふひつじともそうした場で出会うことができました。コミュニティの中には学生なのにゲームを作っている人もいて、自分もモチベーションが上がりました。

――「BANDIT KNIGHT」はドット絵風のグラフィックスと少年漫画を思わせるキャラクター性、戦うのではなく盗むというひねりの効いたゲームシステムが面白いと感じられました。世界観が現在のものになったいきさつを教えてください。
🔸Ameo:10年ほど前にRPGツクールで作っていた「ものを集める」ゲームが原型です。今の自分が持つ技術ならもっといろいろなことができるということで制作を決断しました。
世界観については、ものを集める主人公なら盗賊がいいだろう。でもあまりシリアスだと犯罪を描くことになってしまうので、コミカルにしよう……ということで現在の形になりました。そこに「ルパン三世」やもふもふひつじから教えてもらった「王ドロボウJING」といった盗賊ものの漫画を参考にした感じです。
世界観をコミカルにするのにドット絵は相性が良かったですね。「ドラゴンクエストIII」のようなドット絵RPGだと、他人の家にあるタンスを勝手に開けても怒られたりしませんが、こうしたユルい感じを目指したかったんです。
――キャラクターやアイテムがスーパーファミコン時代を思わせるドット絵であるのも印象深いです。グラフィックづくりで苦労されたことはありますか?
🔹もふもふひつじ:ドット絵を描いたのは初めてです。資料を見ながらポチポチと真似していきつつ、雰囲気を「BANDIT KNIGHT」に合わせていった感じです。
🔸Ameo:ドット絵制作のために「クロノトリガー」をプレイしてもらったりもしています。例えばフィールドとダンジョンの雰囲気の違いなど、見ただけでは学べないものもありますから。
――少年漫画やドット絵のRPG的なテイストでまとめられているので、全体的に明るさがありますよね。主人公は快活な少年だし、敵のお金持ちから服を引っぺがして裸になっても、プレイヤーはギャグとして笑っていられる。アイテムを集めるのも根源的な面白さがあります。
🔸Ameo:アイテムを集めるのは楽しいんですよ。「ドラゴンクエスト」でアイテムを集めるのも、「塊魂」で周囲のアイテムを巻き込んで巨大化していくのも楽しい。けれど、この楽しさにフィーチャーした作品がないんですよね。それなら楽しさに気づいた僕が作れば、ユニークなものになるだろうということです。

――単にアイテムを集めるだけでなく、こっそりスリ取ったり、相手を攻撃で倒してから奪ったり、掃除機のように周囲の品物を吸い込む特殊能力があったりと、いろんなバリエーションがあるのが面白かったです。
🔸Ameo:実は、こうした要素は後付けなんです。2022年の時点だと、本当にボタンを押してアイテムを拾うだけのゲームでした。
――どういったきっかけでバリエーションが増えたのでしょう?
🔸Ameo:イベントに出展して、プレイヤーさんの「スリもしたい」「攻撃もしたい」。といったリアクションを見たことです。プレイヤーさんがやりたいことをやれるゲームにしたいので、いろいろなアクションを追加していったんですね。
ゲームシステムが変わると、お話やステージ構成も変わっていきました。スリや攻撃といったフィーチャーがあるなら、お話もより活劇風なものにしたいと思うようになりました。
「賑やかなシーンで悪い敵と対峙し、そいつが攻撃を仕掛けてくるところを盗賊らしく倒す」という現在の形になったのは2023年の秋ごろになってからでした。なんといっても類似作がないので、手探り的に進めているところはあります。
――プレイヤーの声を取り入れたことが、かなり大きな転換点になっているわけですね。
ここで注目すべきは、プレイヤーの声が「アイテムを盗む」ゲームとしての純粋性を揺るがしかねなかったのに、Ameoさんがその声を取り入れたことにあると思います。戦って奪ってしまえば、盗賊主人公としての差別化が難しいことにもなりかねません。
🔸Ameo:アイテムを集めることだけでゲームを成立させることもできたと思います。ただ、僕は自分のゲームにもう少しストーリー性やアクション性も入れたかったので、自分の中の視点をこじつけ、盗賊というところにフォーカスしたんです。僕らはインディー開発者ですし、そのころは「BANDIT KNIGHT」の発売について外部に何か約束をしていたわけではない。攻撃やスリの要素を取り入れたとして、プレイヤーさんの反応が悪かったら止めればいいや、というスタンスでした。
――入賞以前、イベントに「BANDIT KNIGHT」を何回出展されましたか?
🔸Ameo:入賞するまでに3回、2024年は個人で4回出展しています。
――そのたびにフィードバックを受けて仕様を変えているのでしょうか?
🔸Ameo:変えています。当初はナイフも制限されていて、使い切った後はマップ上の補充ポイントへ赴く必要がありました。展示品のショーケースを壊すのと敵への攻撃、どちらにナイフを使うのか悩んで欲しかったんです。また、アイテムにも重量があり、手持ちが重すぎると移動にペナルティが課せられていたこともありました。
――どちらもゲーム性を高めるために作り手としてやりたくなるところですよね。第1回コンテストでは「スゴイツヨイトウフ」で入賞したトモぞヴPさんも、「豆腐っぽさを追求するあまり“フルチャージしないと敵を倒せない”とか“1回1回のジャンプの責任を重くするため、空中で制御できないようにする”など変にややこしくしていた時期がありました」と語っておられますし。
ただ、プレイヤーの視点からすると、ゲーム性と同時に負担も高まったと感じられるフィーチャーだと思います。普通は作り手としての考えが優先されてしまうんですが、「スゴイツヨイトウフ」「BANDIT KNIGHT」では、ちゃんとプレイヤーファーストの方向性を貫けている。
🔸Ameo:我々がゲーム作りについてまだまだ未熟で、頭の中でちゃんとゲームを作り切れていないんだと思います。「この形でいいんだ」という形が全くなかったから、本当の手探りを続けつつ、今の形にたどり着いた感じです。とはいえ、今も完成したわけではありません。イベント出展やGYAAR Studioさんが開催する試遊会などで皆さんの反応を見て改善を続けている状態です。
(後編へ続く…)
※『後編』では、「受賞後のサポートで良かったこと」「gamescom初出展の感想」等をお話いただきました!
▼BANDIT KNIGHT
BANDIT KNIGHTはピクセル調で描かれた2.5Dの世界を駆け回る盗賊アクションゲームです。
盗賊ギルドの一員となり、悪い商人や貴族たちからオタカラを盗み出そう!
集めたアイテムを使用してキャラクター強化も可能!
盗み特化してどんどん盗むもよし、ステルス特化してこっそり盗むもよし、バトル特化して衛兵とガンガン戦うもよし。
あなたの盗賊スタイルに合わせて採って、獲って、盗りまくろう!

steamストア:BANDIT KNIGHT
©2025 Valve Corporation. Steam及びSteamロゴは、米国及びまたはその他の国のValve Corporationの商標及びまたは登録商標です。