『サマーロード』憧れを再び:ガムシャラなゲーム作りと面白さの『リビルド』【受賞者ドキュメンタリー第11弾】【後編】
※こちらの記事は『後編』になります。
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■信念は「一点突破」!
――ゲームデザインが独特ですよね。基本はオートで進み、装備の変更やルートの選択をするだけなので、気楽に遊べる。懐かしさを感じさせる世界観に、オート進行という新しい仕組みがあるのが面白いです。
🔷浅羽:リビルドゲームスという社名には、昔体験した面白さをリビルド(Rebuild:再構築)したいという願いが込められていますから。足し算や引き算を使い、新しいゲームメカニクス、我々にしかできない、自分たちがやりたいゲームを作りたい。仕事でゲームを作る際に書いても通らないような企画でゲームを作りたいんです。
――折角、インディーゲームとして開発するのだから、自分たちがやりたい、趣味性の高いものとしたい。その趣味性の高さこそが個性であるということですね。
🔷浅羽:だから「サマーロード」はただのハックアンドスラッシュではないわけです。
ゲームをするのが面倒に思えることもあるから、片手のマウスだけで遊べるものにしたい。アイテムを集めて付け替えるところだけでも遊べないかな……ということで現在の形となりました。
コクヨさんの「カドケシ」みたいなものですね。1つの消しゴムに28個もの角があるから、細かいところも簡単に消せる。こんな一点突破の機能を持つようなゲームがあってもいいんじゃないかと思ったんです。
――ゲーム好きであるからこそ、従来の作品を踏襲しつつ複雑さが増したものになりそうです。普通に操作するRPGにしなかったのはなぜでしょう?
保坂:我々がインディー開発者だからです。大手メーカーがやるような、あらゆる要素をリッチにした作品は作れません。どこかにフォーカスするのであれば、自分たちが好きなところを対象にしたい。本作の場合は装備品を付け替える部分だったということです。
🔷浅羽:とはいえ、ゲームとして成立させるのは難しかったです。普通のRPGを作った方が楽でしたね(笑)。「装備を変えるだけで面白く、手触りの良いものにしなければならない」点は、「サマーロード」の開発で最も難しいミッションでした。特に難しいのがキャラクターたちを動かすAIで、今もまだ四苦八苦しているところです。
――装備品を付け替えるだけなのに面白い。この“面白さ”はどうやって醸し出されているのでしょう?
🔷浅羽:マストとして実現しなければならなかったのは、数値が成長する面白さ、装備品を付け替える際に使うUIの気持ちよさでした。そこに意外性として、効果が異なる装備品やシナジーを発揮する装備品の組み合わせを発見する遊びを入れています。
組み合わせの遊びについては、特殊効果がどれくらいの強さになるのか、どのタイミングで特殊効果を持つ装備品を排出するのかという部分を、それこそ1個ずつ地道に作っていきました。
――ハックアンドスラッシュの常として、特殊効果は多ければ多いほどいいですし、組み合わせは膨大なものになります。「1プレイ10分」を謳っている以上、こうした発見が10分以内になされなければならない。作るのは大変ですが、密度は高いですよね。今回のコンテストに応募した際の苦労話はありますか?
🔶保坂:応募を決めてから、提出までがギリギリでしたね。「絶対に通らなければならない」というよりは、「とにかくできる限りのことをやって、あとは運を天に任せる」感じでした。
🔷浅羽:もともとは、一定の完成度になるまでコンテスト応募は控えるつもりでしたが、BitSummitで「ビジュアルデザイン賞」にノミネートされ自信がついたんですよ。
――やはり、自分が作ったものを公の場に出して他人に見てもらうというのは大事なのでしょうか?
🔷浅羽:大事です。出した回数が多い人はそれだけ力がついていきますから。
――コンテストのサポートでありがたかったものはありますか?
🔶保坂:毎月の試遊会ですね。各方面からのゲストが毎回おられるので、初見の方がどういう反応を示すかを見られるのがありがたいです。普通なら、こうした反応を調べるにはイベントに参加しなければいけないですからね。
🔷浅羽:試遊会にはプロの目線を持ったゲーム業界の方もいらっしゃるのも助かります。
――2024年8月には受賞者サポートとして、gamescom(※)への出展とSupercell(※)のオフィスツアーが行われましたが、ご感想はいかがですか?
🔷浅羽:日本とは違うゲームが主役になっていたり、日本のゲームを全然見なかったりと、価値観が大きく変わりました。同時に、世界のマーケットは想像よりも大きかった……ということに気づき、どうすればこの人たちに届けられるかを現実的な尺度で意識するようになりましたね。
――ショウにもお国柄が出ているわけですね。Supercellのオフィスツアーはいかがでしたか?
🔶保坂:すごいオフィスでしたね。「サマーロード」も5組それぞれに15分ずつくらい遊んでいただき、通訳さんを介してフィードバックをいただきました。かなり鋭い指摘だったので、さっそくゲームに反映させていただきましたよ。
🔷浅羽:フィードバックをくださるのも、現役のスタッフさんなんですよ。「ブロスタ」(※)を開発初期段階に作っていたゲームプログラマーに「発売されたらチェックするよ!」なんて言っていただけて、本当にうれしかったです。
――どういったフィードバックがあったのでしょう?
🔷浅羽:装備品の効果を記したテキストについてご指摘いただきました。「ドラゴンクエスト」など日本のRPGのテイストを取り入れたテキストでしたが、翻訳する際にこうした機微がスポイルされているところがあったようです。そこで、最新バージョンでは装備品の効果を画面下のアイコンとして表示し、マウスオーバーすることで詳細が表示される形式にしています。おかげで、テンポ良くプレイできるようにもなりました。
――受賞者サポートとして、2024年7月のBitSummit、8月のgamescom、9月の東京ゲームショウではGYAAR Studioブースで受賞作を出展できましたが、こうしたサポートがあるとないとでは手間が違ってくるのでしょうか?
🔷浅羽:こうしたサポートがあるのはありがたいですね。自分たちでイベント出展するのは大変で、開発にかけられる時間もそれだけ減ることになります。特に今年は国内と海外で3か月連続でイベントがありましたから、その全てに個人で参加するのはほぼ無理だったと思います。
――これから欲しいサポートなどはありますか?
🔷浅羽:イベント向けのROMをデバッグしてくれるサービスがあるとすごくありがたいですね。
🔶保坂:不具合のレポートをもらえるだけで助かります。あとはイベントで試遊されている様子を録画していただけたら、ゲームのどこで詰まっているかといった部分まで分析したり、不具合が起こった条件を特定できるのでうれしいです。
――他の受賞チームと交流してみていかがですか?
🔷浅羽:他のゲームコンテストだと、入賞パーティーがあってそのあとは……というパターンが多いんです。でもGYAAR Studioインディーゲームコンテストだと、入賞後も継続したサポートが続いている。同じゴールを目指す仲間ができて困りごとを共有できたりしたのがありがたいですね。実は「サマーロード」の体験版もBitSummit、gamescom、東京ゲームショウのそれぞれで仕様が異なっているんですが、これも他のチームから受けた刺激があってこそ実現できたことですし。
――「GYAAR Studio Base」という物理的な拠点があり、試遊会やコミュニティ形成のサポートがあるからこそ他のチームとも交流でき、刺激になるということですね。どんどん新しいチームが入ってくると更に刺激が得られると思いますが、仮に次のインディーゲームコンテストが開かれたとしたら、応募を考えるであろう仲間たちに向けてアドバイスはありますか?
🔷浅羽:自分のゲームを見てもらう機会があるなら、そこにどんどん参加することが一番力になると思います。コンテストは「当たって砕けろ!」という感じで、なるべくポジティブに応募するくらいでいいのではないでしょうか。他の人の一点突破のゲームが見たいです。
🔶保坂:ゲームを完成させるという経験をたくさん積むのがいいんじゃないでしょうか。ゲームを完成させるのは本当に大変で、その経験があるとないとではだいぶ違いますから。最近は一週間でゲームを完成させるゲームジャムやUnityroomのようなコミュニティもあります。自分も友人たちとゲームジャムの真似事をし、ゲームを量産した時期がありますが、これですごく力が付きました。
――最後に、メッセージをお願いできますか?
🔷浅羽:「自分たちが楽しければいい」というところからスタートした「サマーロード」ですが、今はGYAAR Studioインディーゲームコンテストの方をはじめとした、関わる方みんなをハッピーにできるゲームにしたいと思っていますので、よろしくお願いします。
🔶保坂:入賞させていただいた以上、コンテストに恥じないクオリティに仕上げなければいけないと感じています。精一杯がんばります!
――ありがとうございました。