言いかけた言葉が辺りに散らかって目のやり場さえなくなった部屋

 今までこの部屋で、本当にありとあらゆる言葉を交わして来た。そのどれを持ってしても、今の二人には似合いそうにない。

 水を飲みたくても、テーブルのグラスに手をかけることすら憚れるような、渇いた時間がただ流れていく。

 言葉はときに、なんて無力なんだろう、と感じる時がある。どんな言葉なら今の君と分かり合えるだろうかと、いろんな言葉を言いかけてはみるけれど、やっぱりどれも違う気がして、思い浮かべた言葉たちが心の中で呆然と立ち往生する。僕の口からこの部屋に放たれる言葉たちの、その行く末を想像してみるも、彼らは君の元までたどり着けもせず、その旅の途中で次第に熱を失い、死んでいくイメージが浮かぶだけだ。

それはまるで、昔好きだったけどもう聴かなくなってしまったCD。
もう読み返すことのない本。
めんどくさくなって途中から飲まなくなった風邪薬。
なんだか捨てるわけにもいかなくて、部屋に散らかっている、なんとなく目障りなガラクタたち。言い損なってこれ以上使い道の無くなった言葉たちは、こんな風に部屋の中に横たわり、視界を奪っていく。

 どれくらいの時間が経ったのだろう。ふと見ると、グラスの水が少し減っていた。僕が飲んだのか、君が飲んだのかすら思い出せない。

 重く沈んだこの部屋の空気も、いい加減長く吸いすぎた。あとはこの部屋を出て行くか、口を開くかだ。

言いかけた言葉が辺りに散らかって目のやり場さえなくなった部屋  /  大庭有旗


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93年生まれ。