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スリル・ミー 心の闇とちょっとしたツッコミな感想(ネタバレしかないです)

2018.12.15  成河x福士誠治

 ひたすら福士彼がきれいでまるで幻の男だった。成河私の記憶の中の実体を持たない存在のように見えた。私と彼はどこまでも平行線だった。
 私が君とは特別な存在だと言っていると言うよりも縋っているような状態で、それでいて彼からの反応はどこか虚ろで私の方には向かってこなかった。私は彼にタバコの煙を吹きかけられたり、殺したい相手に「僕?」と反応するけれどただそれだけに見えた。

 そのため、「私」は独占欲の強さが目立ち、「彼」をただ自分のものにするために社会から切り離すことを企んだ怖さを感じた。「私」をサイコパスと見るには、倫理性があるので少し違うと思う。友達も少ないということは、頭はいいけれど社会性が足りないのかもしれない。

 それにしても福士彼はクラシックな三組スーツが似合う。クールな表情も絵になるし優しく言葉をかける声はずるいくらい良いので、それだけで自分だけのものにしたいと思う欲望の原点になる。背の高さも成河私との差が階段を使った場面等でちょうど良い絵になる。声も彼が低めで演じている分、私の高音としっかりハモるのも美しい。

 「スポーツカー」の時誘拐する少年を車に誘う、暖かくてやさしい声で歌うさまは時々無表情を見せる分まるで悪魔だった。マイムで相手の関心を引いて話しかけるのが、そこに子供が居るようなのでさすがの演技だった。あぁ引っかかってしまったと、こちらを闇に引きずり込んでくる。
 もう一つ判決の出る前に拘置所で「死にたくない」と歌うのか、絶叫するのか心の弱さを出すところなんて、流石だとしか言いようがない。
 怖さや辛さがダイレクトに伝わるので、共感できてしまう。

 その後私が仕掛けたことを知るところで、ただ困惑するというよりも理解しようとして、飲み込んだように見えた分、私に君は孤独だと告げるのも納得できる。ただ私との間の感情の交流はここにも見えなかった。釈放が決まって自由とつぶやく私のじゆうは記号でしかなくて、彼から「レイ」と声が発せられても彼は失われてしまっている。互いを結びつけるはずだった「共犯者」もそこに意味は残っていたのだろうか。

 成河私の34年を飛び越えて19歳に一瞬で変わる姿はすごかった。「戻れない道」なんて、オペラのアリアみたいだと思いながら聞いていた。
 また目を見開いで只者じゃない感じも出してきて、彼に対する喜びの表情と壊れたあとの焦燥感が、執着心なのか愛のような感情があるのかがよくわからなくてそこが謎のまま終わった。

2018.12.22 成河×福士誠治

 この回の二人の関係が前回と変わっているのに気がついた。
なんだろう、見ているこちらの感情を壊しに来ているような感じで、お互いに感情をぶつけ合う形だった。
 彼は記号や幻想ではなく「私」と向き合う存在に変わっていた。特に二人で歌うところ掛け合うところは感情が盛り上がるとその盛り上がりをストレートに伝えてきて、エモいとしか言えない。

 子供に対して誘拐殺人・身代金目的は未遂という状況での「超人たち」から「99年」までのナンバーで完全に壊れた、涙腺崩壊。私の彼への独占欲・執着心、マウンテング、彼の心の闇と中二病的な幼さ等暗いところがたくさんあるのも全部引き受けた!そういう感情が出てきた。

 前回見てたときは証拠のメガネの件から主導権は「私」に移っているのにそれに気づかない「彼」は裸の王様じゃないかとか。刑務所が一緒になることが不自然な前に、取調べ中に容疑者を会わせること自体ないよ、とか突っ込んでいたんですけれど、全て吹き飛ばされた。
 それだけこの2人の表現に圧倒された。カーテンコールで体があまりにも震えているので、立ちたいけれど中々立てなくてやっと立ち上がって、福士くんのほっとした表情を見たら、思わず手をふったら下がるときに手を振り返してくれたの嬉しかった。

2019.1.5 成河x福士誠治

 この年末年始にやったことは前回公演のCDを聞いたことだった。選んだのは演劇的な方でしかもオーソドックスな感じがするんじゃないかと思った尾上松也私と柿澤勇人彼。

 成福ペアはセリフも変えているところもあるし、それぞれ表現に特徴的なところがあるのもわかった気がする。成福ペアは基本的に会話場面ははお互いに畳み掛ける事が多いので、私の印象も強く激しくなるような気がする。
 これは歌の場面でも出ていて、テンションの高まりのままテンポが上がるので、観客としても感情が引っ張られる気がする。特に「超人たち」「僕のメガネ~おとなしくしろ」は歌うようにセリフを言い、話すように歌う。そして感情の高まりは歌のテンションを上げて、聞いているこちらもどこまでも高まっていきそうになる感覚は初めてだった。
 福士誠治くんの声の出し方もいつもより低めで、19歳の成河さんの高めの声をしっかりと支えていて本当にこの二人のハーモニーは素晴らしかったのも下地としてあるんだなぁと思った。

 その上でこの回での印象は、彼が私の方を見ているのがわかる変化があったので、掛け合う場面が私からの一方的な押しつけじゃなくなっていたことが大きかった。彼のレイと呼ぶ声の多彩さも出てきて、優しく言うときのずるさはさすが福士誠治と思ってしまった。

 もう一つ気をつけてみていたことは、私がどんな感じで彼を絡め取ることになっていったか、ポイントを探すことだった。まず1つ目は、契約書の対等な関係とかお互いの要請をきくことなど「私」にとって嬉しい言葉が散りばめられていたし、法律的にも結ばれるって最もやばい餌をまいておいて、「彼」は前にもやったことがあるって(それはバツイチということなのか)はちょっと心折れる場面。そしてその契約を必ずしも守ろうとしない「スリル・ミー」の辺りのやり取り、もっともポキっと音がした気がしたのは、メガネを落として事情聴取された「私」に「彼」がお前だけだというところ。ここから「私」は明らかに「彼」を見なくなる。

 「俺と組んで」と彼が仕掛けてくるときも彼と視線を合わせようとしない代わりに、心の葛藤を表現しているのか舞台の手に当たる角を指で削っていた。例えはちょっと違うけれど、和室で説教を受けているときに畳の剥がれているところをコリコリ指で弄んで気をそらそうとしているのに似ているなと思った。

 そしていつも痛々しく感じてしまう「死にたくない」は歌もセリフも表現の手段に過ぎないとばかりに、感じている恐怖をシャウトというか絶叫というかなんとも言い難い形で表現していた。「死にたくない」が激しかった分「99年」のところで、「私」の種明かしを聞いて一つ一つ落とし込めていて頷き、憑き物が落ちた「彼」がいて「ああいう弁護士になりたかった」という気持ちもわかった。
 その分計画通りに進んだ「私」の「彼」だけをほしがった怖さがはっきりしてきた。「彼」の「イカれている」という気持ち、引いてしまうところ「君は孤独だ」もくっきりしてわかりやすかった。最期の彼の呼びかけの「レイ」が優しかった分失ったものの大きさを「私」は気がついているんだろうなと思った。

 個人的には自分の心の闇を見せつけられるようで、「彼」に心情的に引っ張られてしまった。中二病をこじらせていたし、親との折り合いも妹との関係も微妙だったところもあった。「彼」の求める状況と、「私」の思いのギャップ、「私」が「彼」しか見えない状況になっていたことが問題だったのではないかと思う。どこかで「彼」が、心の隙間を埋めることに必死になっていたのに、気がつく何かがあれば変わったのかもしれない。メフィストフェレスは確かに「私」の方だった。

 プロクラムに福士くんが「彼は中二病」と言っていたのはたしかにそうだなぁと思ったのは、自分は彼らとは逆に法学部に行ったおかげで犯罪がどれだけ割に合わないものか学んだので、「彼」には法学の社会の現状維持な考えかたよりも、ニーチェの言葉のほうがつまらない社会に打ち勝つきらびやかなものと惹かれてしまったのだろうな。もう一つ契約書のところで、確かに自由に契約を結ぶことはできるのだけれど、だから結婚に代わるパートナー契約(結婚も契約の一つだし)はいいとしても、犯罪のパートナー契約は公序良俗違反なので法律に則ったのもにならないよ(今の日本ではかな)と突っ込みたくなるもう一つのことだったりする。

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