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【ぐおレビュー】シン・エヴァンゲリヲン劇場版:||

まどろっこしい事は抜きにしてレビューを始めたいと思います。
ネタバレします。視聴済みの方、もしくはネタバレされても気にならないという方のみ読み進めてください。そこそこ批判的な内容になっておりますので、絶賛のみを読みたい人はご注意ください。お願いします。

念のため間を開けておきます。下にスクロールして読んでください。

ではレビューを始めます。

初・シンジ復活

ここは素直に良かった。
大人になったトウジ、ケンスケ、ヒカリが登場。
故意ではなかったとはいえ大変な罪を犯してしまったシンジが『責任感のある大人になった友人』からの『かつてと変わらぬ素朴な友情』によって回復するという流れは"Q"でボコボコにされた僕の心も癒してくれた。
「鬱なんて畑仕事とか釣りとかしてれば治るぞ」という昭和のオッサンの様な安直さは少し感じたが、ニアサードインパクトを生き延びた人々がなんだかんだ力強く生きているという描写はまぶしい。

"そっくりさん"こと黒綾波も非常にかわいらしい。かわいらしく描いた上でシンジの目の前で死なせるというのもわかりやすいトリガーだ。
シンジの成長は常に綾波と共にある。

弐・ヴィレvsネルフ

庵野やりたい放題タイム。
非常に派手でケレン味が溢れ、ジャパニメーションここにありという印象は受ける。しかし同時に心の底からノリきれない自分がいるのも感じた。

その原因は恐らく『何故戦ってるのかわからない』事だろう。
もちろん、ヴィレがネルフの野望を食い止める為に拾参号機をどうにかしようとしている、という大雑把な流れはわかる。しかしその過程があまりに説明不足だ。
決戦の地がどういう場所で迎え撃ってくる敵がどういう奴らなのかよくわからない。事前にエヴァ考察動画を観まくってきた猛者達ですら理解が追い付かない速度でどんどん話が進んでいく。
僕は「こんなにたくさんエヴァを作れるならたった3機で頑張ってたシンジ達はなんだったんだ」とか考えてしまっていた。
すごく大雑把に「なんか敵がめっちゃいてヴィレがめっちゃ突撃してる」事しかわからない。
どうもQの頃から(旧劇の頃から?)どうせファンは何度も見返して考察してくれるから、一回で全部理解出来る作りにしなくてもいいと開き直ってる感じがする。
テレビシリーズの頃はまだ群像劇が主体であり、難解な設定はあくまでエッセンスだった。しかし旧劇とQ、そしてシンは最初から考察班をアテにしている様に見える。
今回ばかりはさすがにもう少し気を使ってくれと思った。初見時の印象も大事である。

戦闘シーンそのものは非常にかっこいいだけに惜しい。

参・シンジとミサト

ここが一番観たかった。
本当に良かった。
待ち望んでいた。
シンジとミサトの和解。
Qからではない。旧劇からずっと待っていた。テレビシリーズから旧劇にかけての二人はずっと互いを心配していたにも関わらず心がきちんと通い合う事はなかった。
シンジは本音を言えず、ミサトは常に空回っていた。当時ガキだった僕は『大人のキス』の意味がわからなかったが、少し後にあのシーンの本当の意味を理解して絶望した。
あの時シンジはもっと普通に激励して欲しかったのだ。
「今までありがとう」「たくさん傷付けてごめん」「アスカを助けてあげて」と言って欲しかったのだ。なのにミサトは大人のキスという搦め手を使ってしまった。旧シリーズにおいて、二人は最後の最後まですれ違ったままだった。

それがようやく、ようやく解消した。
シンジは覚悟を決め、ミサトは全ての責任を自分が持つと言ってくれた。
テレビの第2話でミサトがシンジを自宅に招き入れたあの時からずっと目指していた関係に、ようやくなれたのだ。
感無量である。

四・シンジvsゲンドウ

さて問題の最終決戦である。
先にCGの事に触れておきたい。どうしてもショボいと感じてしまう。
弐号機と8号機の戦闘は暗所かつ派手な空中戦だった事もありほとんど気にならなかったのだが、初号機と拾参号機のCGはどうにもこうにもショボい。
弐号機達の様に空中を飛び回るわけでもないし普通に2Dで描いた方がよほど良かったのではないかと思う。
市街地でミニチュアの様に転がる建物もひどい有り様である。庵野監督は特撮ファンなのでもしかしたらあえてやっているのかとも思ったが、あまりにチープ過ぎて特撮リスペクトというよりは馬鹿にしている様な印象だった。出来ればブルーレイの発売までに手直ししておいて欲しい。

そしてシンジとゲンドウの決着もなんか緊張感の無い印象になってしまった。
まず主人公機である初号機がきちっと活躍しなかった。あくまでも対話を拒むゲンドウが乗る拾参号機をボコボコにやっつけてエントリープラグを引っこ抜いて強引に対面するくらいの展開でもよかったんじゃないか。ゲンドウの性格から考えてもその方が自然な気がする。
居間や教室で戦う演出もやりたい事はわかるのだがシュールさの方が上回ってしまいラスボス戦でやる事ではないと感じた。

そしてゲンドウが自分の本音をモノローグでどんどん吐いてしまったのも簡単過ぎると感じた。
もっとシンジとぶつかり合って欲しかった。
聞いてもいないのに勝手に生い立ちを話し始めたような印象だった。散々人々に迷惑をかけておいてあまりにあっさり口を割ったのだ。
これで和解できるなら序で和解して欲しい。

旧劇をセルフオマージュした巨大綾波の映像もCGがショボい。もう一度書くがショボいCGを出すくらいなら2Dでやれ。
旧劇を見た時はその映像美に圧倒されたが、今回は「素人がエヴァをリスペクトした個人制作動画」と言われても信じてしまいそうなシロモノだった。

終・さよならエヴァンゲリオン

そして結末。
『悪い意味でエヴァらしい』エンディングだったと言わざるを得ない。
締まりの悪い、ぼんやりとした終わり方だった。
ハッピーエンドなんだろうけど、本当に観たかったシーンは無く、旧劇と同じ「現実に向き合え」というメッセージをまろやかに表現しただけの焼き直しだった。

僕達はとっくの昔に大人になっている。
そう。もう大人なんだ。テレビシリーズを観ていたチルドレンではない。
幸福かどうかはともかく、日々現実に立ち向かっている。
アニメは現実逃避先ではなく、明日からまた頑張る為の栄養剤だと割り切っている。
そんな僕が何故今更エヴァを見に行くのか?

僕はただ、シンジの事が心配だったんだ。
レイやアスカやミサトの事が心配だったんだ。
彼らの幸せを願っていたんだ。
アニメキャラクターの人生は現実の人間よりもずっと早く進む事もあれば、めちゃくちゃゆっくり進む事もある。だから僕達が先に大人になってしまっても仕方ない。シンジの物語が決着するのに25年かかったとしても、仕方ない。
ただ見届けたかった。
子供の頃に夢中になったアニメのキャラクター達が紡ぐ物語の結末を観たかっただけ。
難解な設定も人類補完計画の行く末もどうでもいい。
どんなに陳腐でもいいからハッピーエンドが観たかっただけなんだ。
だからシンジとレイとアスカとマリが並んで稲を植える所を、あえて見せて欲しかった。
「現実に向き合え」というメッセージを安っぽいドローンの空撮映像なんかで表現してほしくなかった。
元気になったシンジが仲間と力を合わせて生きている姿を見せてくれればそれで良かった。
仕事の合間にレイとマリがシンジをめぐって争ってるのを見てトウジとケンスケとアスカが「やれやれ」みたいな顔をしてるシーンで終われば良かったんだ。
それだけで僕達は自然と元気になれる。
明日からまた現実に向き合える。
シンジが幸せになってくれたんだから。

もちろんあの結末からして全員無事なのはほぼ確定だし、あとはファンの想像で補う事も出来る。
ハッピーエンドなのは間違い無い。
だけどそこをあえてもっとベタにやって欲しかった。その方がよほど「終わった」という気分になれただろう。

マリがオチを持っていったのも自己満足感がひどい。
唐突感が否めない。
劇中でもシンジとマリはほとんど絡んでない。
マリのおかげでシンジが変わった様な描写なんて無い。
だからエンディングでいきなりシンジとマリがイチャついているのを見せられても理解が追い付かない。

いや、わかるんですよ。
エンディングのシンジはエヴァンゲリオンという作品そのものを代表してレイやアスカやカヲルに別れの挨拶をし、自分自身も卒業して全く新しい人生を始める。
だから最後の相手は新劇から追加された、エヴァという作品に縛られていないマリでなければならない、という事なのでしょう。
シンジがエヴァから卒業して大人になったシンボルがマリなんです。
しかしですよ、前述の通り、僕達ファンはとっくの昔に大人になっていて、シンジ達の行く末を見届ける為に劇場に足を運んだに過ぎない。
身も蓋も無い事を言えば『キャラ愛』を原動力に応援してたわけです。
僕達は否が応でも毎日働いている。否が応でも現実と向き合ってる。

今更「現実に向き合え」とかどうでもいいんだ!
こっちはとっくに大人なんだ!

毎日働いてるんだ!
ただ、シンジが好きだから!
レイやアスカが好きだから!
仕事の合間に!
がんばって時間を作って!
観に来ただけなんだ!
それだけなんだ!!!!!

だからね、監督は「現実に向き合え」というメッセージを観客へのお説教ではなく、あくまでも碇シンジというキャラクターの成長物語の中だけで表現しないといけなかったんです。

そしてエンディングのシンジの相手はアスカかレイのどちらかでないといけなかったんですよ。
テレビシリーズの頃からずっと応援してくれていたファンが泣いて喜べるエンディングを作る。そうする事でしか「今までエヴァンゲリオンを応援してくれてありがとう」という思いを作品に込める事は出来ないのです。
エヴァという作品を庵野監督の自己投影ではなく、ファンに喜ばれる形で終わらせる。
エヴァを庵野秀明から『切り離す』。切り離してファンにプレゼントする。
それは庵野監督にとって文字通り、身を斬られる様に苦しい事かもしれないけど、それでもやる。それこそが『庵野秀明がエヴァから卒業する』って事なんですよ。

自分がどうしたいかではなく、どうすればファンが喜んでくれるかを考えないといけなかったんだよ。
出来てねえよ庵野。一番肝心のあんたがエヴァを卒業出来てねえ。

総評

総評としては『まあまあ良作』とさせていただきます。
シンジはちゃんと復活した。
シンジとミサトの和解も観られた。
レイも復活したという事でいいのだろう。多分。
ミサトは死んでしまったが大人として責任を果たした結果だし、若者達は生き残った。
安易に時間を巻き戻すのではない。今を生きる人間達を尊重してエヴァだけを消すという展開も熱い。
熱いシーン、泣けるシーン、かわいいシーン、いくつかあった。
ハッピーエンド。
なので、満足した部分は確かにある。
しかし一部のCGのチープさや、庵野監督が古い感覚にとらわれたままだという面も見えてしまいモヤった。
一応ハッピーエンドではあるのにファンが求めていたハッピーエンドを素直に見せてくれない庵野監督の幼稚さにも腹が立った。

こんな所です。

余談

髪が長いレイは驚天動地のかわいさでした。

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