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れもももももももものうち

ペティナイフに力を込めて裁断する
スコン
その果物は凍っているので心地良い音と共に
左右に別れ転がる
その片方をにまたナイフを入れる
スコン
この作業を何回やったことだろう
サワーの氷の代わりに凍った果物を入れるという発想は誰が考えたのだろう
何度もその動作を繰り返すうちに私は何も考えられなくなっていた
幼い頃から私は物覚えが悪く成人してから医者に ADHD と診断されていた
人よりも記憶容量が小さく何事も忘れてしまうような特性らしい
ただ私はそんな自分を悲観することはなかった
周りからは奇特な目で見られていることが多かったがこうして飯を食うために
仕事も手に入っている
ただ私はこれがしたかったわけではない
できる仕事がこれしかなかったのかもしれない
毎晩毎晩来るお客様に言われたドリンクを作り続ける
ドリンクのレシピはカウンターの下に置いてある
普通はレシピなどはすぐに覚えてしまうようなものなんだけど
お客様の注文されて私がパニックにならないように店主が私ように用意してくれたものだ
どうして私は人の親切に寄りかかり障害があろうとも今を生きていた
また今夜も常連のお客さんたくさん足を運ぶ
そして私は言われたもの言われた通りに作り提供する
そんな中一人の中年の男性のお客様が来店した
顔が見たことはないおそらく初見の客だ
「いらっしゃいませ」
「何にしましょうか」
「強いやつをくれ」そうお客様は一言
私は動揺したなぜなら手元に隠してあるレシピに「強いもの」というものは記載されていなかったからだ
パニックになった私は手短にあるアルコール度数の高い酒を全て混ぜ合わせた
「お待たせしました強いやつです」
明らかにアルコールのきつい臭いをはなつそのグラスをその客はなにも言わず口にした
「あんたこれ本気出しているのかい?」
私は更に動揺した思わず差し替えされたそのグラスを私は口にした
その刹那後頭部がじわっと熱くなるような感覚に襲われる
私は気が遠くなった
昔の事が思い出される
小さな子供の時だ祖父と祖母がいる家の庭にいる
祖父はニコニコと私のことを優しい目で見ている
祖母は「あなたはとても優秀だから将来は学者になるんじゃない?」と私をおだてている
もう祖父も祖母もいないが私はあの時期待されていたような人間にはなれなかった
どうなるのかすらわからなかった
おそらくなりたかったのかもしれないが私には私のことが一番わからない


「大丈夫か?」
そう店主の声で私は目を覚ました
どうやら気を失っていたらしい
そんな漫画みたいな話しあるものか
「すみません今日でもうやめます」


もう色々限界なのかもしれない
私は呆然としている店主の目を見ることなく
そそくさと身支度をして店を飛び出した


私が私であるための大事なものそれが思い出せなくて私は苦しんでいる
この何とも言えない心の霧
もやもやとしたようなこのかすみは仙人が来て食べてくれないかと何度も願ったものだ
全て爆発してしまえばいいのに
何度も何度も私もそう願う
全て爆発して消えてしまえばこの悩みもこの苦しみもすべて吹き飛んでしまう
かつて私と同じような悩みを持った青年が今夜を爆破したという話を聞いたことがあるような気がする
彼は爆破することに成功したのだろうかとてもシンパシーを感じずにはいられない
だが共通の経験があったからなんだというのだ
そんなものは馴れ合いでしかない
人と人とは分かり合えない障壁がマリアウォールのようにあって

蜜柑

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