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連載『オスカルな女たち』

《 すったもんだで 》・・・16

「あ、いや…」
 その目の前には泰英も、夫婦の営みの間で交わされる「ごめんなさい」をいう時の表情で返した。
「で、でも、だって。羽子(わこ)ちゃんは僕の娘なのに…! あいつにとられるなんてっ!」
「そんなこと!?」
 おどおどと子どものような言い訳をする夫を振り返り、
「だったら婿養子にすることだってできるでしょう」
「だ、だけど…」
「おだまりなさいっ!」
「はい…!」
 玲(あきら)の一括で直立不動の泰英。
「もう…。こっちよ」
 仕方ないわね…と言った様子で階下を目指す。
「羽子の病室は2階の奥よ」
 さてどうしてくれよう…と、考えあぐねて階段を昇る。と、なにやらかすかにすすり泣く声がする。
「え?」
 階段を昇り切ったところで振り返ると、泰英が子どものように顔をぐしゃぐしゃにして、すすり泣いているではないか。
「ちょ…ちょっと、なに? こんなところでやめてよ、」
 鞭持ってないのに…と言いかけて止めた。
「だって…ぼく」
「ぼく…じゃないわよ」
 階段を昇り切ったところにはナースステーションが構えている。ちんたらとやってくる泰英の手を引いて、すぐさま病室の方に折り返す玲。急いでショルダーバッグから、シルクの上品なハンカチーフを取り出して泰英の手に持たせた。

*初めから読み返したい方はこちらからどうぞ( *´艸`)

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