薬を使わない内科医へ
近藤誠氏が亡くなった。
「患者よがんと戦うな」
当時学生か研修医の私には
「なんて事を言う医者なんだ」
という感想しかなかったが、同時に
「なぜわざわざこんなことを言うのだろう?」という微かな疑問も芽生えていた。
その後実際にがん患者の治療に携わり現行の保険医療で治った方、共存している方、残念ながら悪化した方を数多く経験してきた。
同時に「絶対治したい方」「治るなら治したいけど、共存しながらボチボチでいい方」「寿命なので諦める方」と死生観には様々なものがあることも学んだ。
stageⅣで見つかったが手術、化学療法、また手術で大腸癌、肝転移、肺転移を全て取りきって15年後の今も元気にしている方もいるので、近藤氏の著作の題名は極端ではあると思うが、そこはTwitterの文章と同じで行間を含めて受けとるべきであろうと今なら思える。
そしてコロナを通じてはっきりした医者と製薬会社の関係性。若い頃抗癌剤の効果をうたうのは
「無増悪生存期間が平均6ヶ月延びた」などという表現。
そこで疑問に思ったのはそれが患者に取っては幸せな事なのかどうかということ。それは前述の死生観の違いに繋がって行く。それに従って我々医師はそのサポートをしていくのが役目だと思う。
そして現行の保険治療(手術、化学療法、放射線療法)以外に対する多くの医師の姿勢にも疑問はある。
かつて温熱療法をメインとした自費診療のクリニックが出来た時、多くの医師は「金儲けのインチキ」と激しく罵った。
しかしながら現行保険治療で御手上げ状態であればもう我々保険医療の医師が文句を言うところでもなく「何とかしたい」と願う患者家族の死生観に素直に従い希望があれば私は紹介もした。
そしてその罵る理由はただ一つ「エビデンスがない」という点だった。EBM(Evidence Based Medicine)の観点から言えばエビデンスがない治療を患者に施すのは間違いとされてきた。
しかし「絶対治したい」患者がいて、エビデンスのある治療ですでに敗北した方に対して「もう手はない」と言える程の冷酷さを私は持ち合わせてはいなかった。
そしてコロナでより明らかになったエビデンスそのものへの不信感もあいまって、可能性がゼロと言えない治療であれば本人の希望であればトライさせる事は間違いでも何でもないと考えるようになった。だからこそ「デマ」という言葉を安易に使わないようになったのはこのためでもある。
癌の治療以外でも私がいまメインで扱う生活習慣病に関しても同じだ。「血圧は130未満」、「LDLコレステロールはいくつ」のような万人に通用するとは思えないガイドラインが幅を聞かせ。テレビでも「血圧130を超えたら」なんて文句が流れる時代。先程の癌治療と同じで患者が求める医療は様々。「今の生活はそのままが良いから薬を飲む」「とりあえず薬で数値は下げておいて同時に原因対策もしたい」「薬は飲みたくないので徹底的に原因の除去をしたい」
つまり現行の病気→薬、治療という一方通行な医療だけではなく、病気→原因除去(食事やストレスetc)→健康という逆のベクトルで考える医療の方が医療費削減にも繋がり利にかなっていると考えるようになり、どちらにも柔軟に対応出来るバランス感覚を身に付けるべきではないかと思う。
しかしながら手間と時間がかかる上に決まったガイドライン、エビデンスといった指標はないオーダーメイドな対応が求められるためやりたがる医師は少ないだろうとも思っているし、この考えが広まる事には医師会、製薬会社の抵抗は相当なものだろう。
それでもやってみたい。
薬をほとんど使わない内科医師への道は始まったばかりだ。