小学一年生
小学一年生の秋
実家の二階で兄がドラクエ3をやっていたので、それを横で見ていた
ちょうどのその時、勇者だとか戦士とか僧侶とか、パーティーを決めているところだった
決め終わり、ぞろぞろと勇者御一行が歩き始めたその瞬間
家の屋根がぱかー!っと開いたような感覚がして、もちろん実際に開いてはないんだけど
透けて見えるような感覚で
空にデカい、男の上半身が
リモコン片手にサングラスをかけたスガシカオ風な男が浮かんでいた
彼はほくそ笑みながら僕を見下ろしている
その瞬間の事は数十年経った今も鮮明に覚えているけど
なんと言葉で表現して良いか本当にわからない
伝言というか?イメージというか?理解というか?
それらどの表現も的確ではない
悟りというと嘘っぽく聞こえるけど
自分が導きだしたわけじゃない
人から教えてもらったわけでもないけど
間違いない真実であるということがなんの根拠もないのに腑に落ちてしまう感覚というか
そうなんだ!とか、そうに違いない!
とかじゃなくて
「ああそうだった」って
今まで経験したことの無い事を、思い出すように断定するという
不思議な事ってたまにあるんですが、この時が覚えている限り初めての体験でした
そうか…このスガシカオがドラクエみたいに僕をリモコンで操っていて、自分が何をしようとそれは彼がやったことに違いないんだと
朝食にウィンナーが二本あって一本残そうと思う事も、やっぱり二本とも食べてしまおうと決断することも
食欲の問題ではなく彼がやっていることなんだ
朝起きて親にどやされる覚悟で二度寝するか、どやされたくないから起きようとするかも
さも自分で考えているようでいて
本当は全て彼が決めていたんだと
思考も意識も身体もすべて借り物で
自分のものなんて一つも無かった
という、ものすごいインパクトの
逃れようの無い真実を目の当たりにして
絶望とか落ち込むを通り越して、しばらく無になったのを覚えてる
今まで生きてきた数年も、これから生きるであろう何十年も
そこで自分がどう生き、何を感じようとも
それには 自分の人生には
何の意味も無いんだと 断定した
小学一年生の秋
つづく