グリラスストーリーズ
【対談】人から人へ。つながる想いが育んだ徳島大学のコオロギ研究。
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【対談】人から人へ。つながる想いが育んだ徳島大学のコオロギ研究。

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グリラスの歴史と未来を語るメディア「グリラスストーリーズ」

第3弾となる今回は、代表の渡邉と、営業・企画担当の西郷を進行役に迎え、これまで何度も名前の挙がっていたグリラスの立役者で、現徳島大学長の野地澄晴先生をお招きして、お話を伺いました。

グリラスの基盤となっている徳島大学のコオロギ研究ですが、そもそもなぜコオロギに至ったのかや、その魅力について。アカデミックからビジネスに歩みを広げるきっかけになったクラウドファンディングの裏側など、余すことなくお届けします!

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写真左から代表取締役CEO 渡邉崇人、国立大学法人徳島大学長 野地澄晴、営業・企画担当 西郷琢也

野地澄晴
福井大学工学部応用物理学科卒業、広島大学大学院理学研究科物性学専攻博士課程修了。発生・再生生物学が専門。平成28年4月に徳島大学長に就任

渡邉崇人
昆虫の発生·再生メカニズムが専門。コオロギの大規模生産、循環エコシステムの開発を行う。徳島大学大学院社会産業理工学研究部・助教

西郷琢也
徳島大学卒。大手物流系企業を経て2020年9月にジョイン。営業及び商品開発、ロジスティクスを担当

そもそも、なぜコオロギ?

ー野地先生には、グリラスの基盤になっているコオロギの研究について。そもそも、なぜコオロギに特化した研究を始めたのかという所から伺いたいです。(西郷)

野地:徳島大学に赴任する前、岡山大学の歯学部口腔生化学教室で助手をしていたのですが、ある日、私の研究室に岡山大学理学部生物学科を卒業した 服部さんという方が就職してきました。彼女に「何の研究をしていたのか?」と尋ねた時の答えが、「コオロギの研究」。答えを聞いた時に「なぜコオロギなのか?」と不思議に思ったので、その時のことが今でも非常に印象に残っています。

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それからしばらく経って徳島大学の教授となり、「非常におもしろく、誰も研究していないテーマ」を探すことにしました。モデル植物のシロイヌナズナの培養を始めてみたり、ゼブラフィッシュという熱帯魚からもっと綺麗な品種を作ろうとしたり......。いろいろなものに手を出したのですが、もっともっとおもしろいテーマがあるのではないか、といつも考えていました。

ある日、大学生協の食堂に行った帰り、生協の本屋に立ち寄ると「昆虫の擬態」という本がたまたま目に留まりました。表紙の写真はコノハムシ、内容はハナカマキリの擬態について詳しく述べられている本で、とても興味深く夢中になりました。この本との出会いがきっかけとなり、擬態のメカニズムについて研究したいと思うようになったんです。

最初に目を付けたのは、本の中でも触れられていたハナカマキリ。害虫を食すハナカマキリは益虫で、マレーシアから一匹3,000円で輸入ができるとのことで、さっそく取り寄せてみることにしたんです。当時東京都内にはハナカマキリを飼育している動物園があり、勉強のため急いで話を聞きに行きました。餌は蝶々とのことでしたが、とてもじゃないけど蝶まで飼育するというのは無理な話。ではどうしようかと悩んでいたのですが、餌問題はすぐに解決しました。

ハナカマキリの輸入先であるマレーシアの Butterfly Farm に問い合わせると、わざわざ蝶を使用しなくても「日本にはコオロギがいるから大丈夫ですよ。」と言うのです。「いやいや、コオロギは秋だけの生き物だ」と言うと、ペットショップに行けば餌用のコオロギが買えると教えてくれました。

当時はネットなんてないから、「コオロギを売っているペットショップ」を検索することもできず、半信半疑で、電話帳の一番上に出てきたペットショップに電話をすると本当に購入可能みたいで(笑)。 コオロギを餌に用いることを検討し始めたほんの数日のうちに、段ボールに入った300匹のコオロギが研究室に届いたのです。

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西郷:まだこの時点ではコオロギの研究ではなく、ハナカマキリの餌として仕入れたということですね。

野地:そう。でも、ハナカマキリの方が先に死んでしまった。もう一度Butterfly Farm から輸入するにも費用がかさむし、どうしようか......と検討していた時に、元いた岡山大学時代のことを思い出しました。そういえば、コオロギの研究をしていた人がいたな、と。

当時は再生の研究にも興味があり、その点から見るとコオロギはこの上なく適切なモデル生物だったのです。ヨーロッパでは再生の研究にゴキブリを使っているけれど、同じことがコオロギでもできる。これはいけると思いました。

西郷:そこから再生研究に上手い具合に繋がっていって。

野地:そうですね。そこから手探りでコオロギの研究を始めました。そのあとの展開も結構面白いんですよ。

東京農業大学のとある大学院生が、京都大学でイモリの眼のレンズの再生について研究をされていた岡田節人先生に「一緒に研究をさせてほしい」と手紙を出したのが全てのはじまり。岡田先生は当時退職され、研究から離れていたので代わりに私の研究室を紹介してくれたんです。研究室は新しく始まったばかりで、昆虫に詳しい人はいなかったのですが、偶然にも東京農大で昆虫の研究をしていた彼がやってきて、飼育の体制や実験のセットアップも全てしてくれました。それが今も引き継がれています。

西郷:そんなレジェンド的な人が......。

渡邉:いつかお話を聞きたいです。僕も会ったことない。

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研究とビジネス。二つの軸。

野地:そのあとはずっとコオロギの発生と再生の研究をしていました。本当に、面白かった。特に、RNA干渉の発見がコオロギ研究のレベルを世界レベルに上げてくれました。

RNA干渉を発見した研究者は、2006年にノーベル生理学医学賞を受賞しています。この現象は当初、線虫で発見され、当時は線虫だけの現象だろうと思われていたのですが、なんとヒトでも発見されたのです。当然、コオロギにも見られる現象なのですが、それに比べハエや蚕ではあまり顕著ではありませんでした。RNA干渉により、目的の遺伝子の機能をほぼ無くすことができる。機能を調べたい遺伝子に対応するRNAをコオロギのどこに注射すると、いつ打っても効果が出るんです。産卵前のメスに注射すると、産卵される1,000個以上の卵の中で遺伝子が機能しないので、発生への効果が簡単に研究できました。再生の場合も、脚を切る前に注射しておくと、切断後に効果が観察できる。

この方法は、驚くべきポテンシャルを持っていて、画期的な方法だと今も思います。コオロギを研究する前は、有名なモデル昆虫のショウジョウバエと似たようなものだと思っていたのですが、全然違うのです。たとえば、発生のメカニズムが全然違う。コオロギから本当に色々な生物のメカニズムのヒントを得ることができます。

西郷:そんなに画期的なコオロギでも、取り扱って研究している機関は少ないですよね。

野地:研究の世界ではまだまだハエが主流なのです。ハエの研究が始まったのが1900年頃で、コオロギは2000年あたりから。期間の差が100年ある状態で、研究者の数の差があるのは仕方のないことだと思います。ヨーロッパでも米国でも、コオロギに特化して研究をしている研究者はまだ少ない。

西郷:グリラスのラボチームがあれば良いですよね。徳島大学で続けていたコオロギ研究のバックグラウンドを生かして、もっと多くの研究者が研究をアップデートすれば、新しい発見も次々できそうな気がします。

野地:そう思います。ショウジョウバエの5つの研究グループはノーベル賞を受賞しました。次は、コオロギが来る。IT業界なら大学の教授を巻き込んでビジネスを加速させるケースがいくつもあるけれど、昆虫系ではほとんど例がありません。もちろんアカデミアに残りたい人もいるけれど、研究が生かせるのであれば外に出て挑戦してみたいという人もいる。そういう人を仲間にできるよう大学やグリラスで資金を調達して積極的に立ち回ること大切だと思います。両輪で進めるのが今後のグリラスの財産になる。

渡邉:これは今の僕らの頑張り所だと感じています。技術が認められれば資金調達にもつながる。伸ばすためのテックと認めてもらうためのテック。どちらも手を抜くことなく進めることが重要です。

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野地:そういえば、渡邉先生はどうして私の研究室を選んだの?

渡邉:うーん(笑)。実は、昆虫の研究がしたかった訳でも、そもそも研究に熱い思いがあった訳でもなく、純粋に研究室の先輩方の人柄が好きで。どうせ研究をするのなら一番オリジナリティーのあるものをしたいと思った。とはいうものの、学部生の時はそれもよくわからず、それで一番変わったことをやってそうだった野地研究室を選びました。

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野地:私の研究室は評判の良い年と悪い年があり、厳しい研究室との噂もありましたね。生物工学科の研究室は7つあるのですが、ある年なんかは、配属の決まった4年生のほぼ全員が第7志望。最初の研究室の会議が暗かったのを思い出します。

渡邉:先生、僕第1志望ですよ!

ー笑笑(一同)

渡邉:卒論は発生の遺伝子ブラキュリーの機能解析の研究を手伝って、4年の後半からはコオロギの脚の再生についての研究をしていました。ゲノム編集の研究を始めたのは、ドクターになってから。

野地:ゲノム編集でも当時はまだ昨年ノーベル賞を受賞したクリスパー・キャス9の方法は発表されておらず、ジンクフィンガーとターレンを使用していました。この技術は当時は最先端で、上手くいけば世界で唯一無二の研究。「儲かるかも」という話をすると、渡邉さんの目の色が変わって(笑)。

渡邉:そうでしたっけね(笑)。親が博士課程に進むお金を出してくれて。叔父がたまたまアカデミックの人だったので、ドクターに進むことにも理解がありました。実家は店をやっていたから、それは手伝えよ、とは言われたけど。

野地:そうだったんだ。

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渡邉:博士に進んだからどう、という訳でもなく、野地先生に、発生遺伝子のWntホモログのクローニングの研究で、お前は良いデータを持ってこないなぁ、とボヤかれたりもしました(笑)。進学したはいいものの、研究の才能が無いのかもなぁと嘆いたこともあります。

西郷:でも、渡邉さんが博士に進学していなかったらグリラスはできていないんじゃ......?

渡邉:その可能性はあるね。その後のタイミングも良かったんだと思います。野地先生に、最近結果が出ていないけど、こういうもの(ゲノム編集)もやってみないか?と聞いてもらって。そのおかげで今にいたります。

きっかけのクラウドファンディング

ー食用コオロギの研究に至る大きな要因が徳島大学主催のクラウドファンディングだった、というのは前回の対談で話題に上がったのですが、そのクラウドファンディングを徳島大学に提案し実現させたのは野地先生ですよね。

野地:はい。クラウドファンディングを提案したのは、ピーター・ディアマンディスの「BOLD」という本を読んだことがきっかけです。クラウドファンディングやクラウドソーシングが何たるか。その方法や具体例、マインドセットなどについて書かれている本で、お金や知恵の調達を可能にする「クラウド」の一端に触れて、これは良いと惹かれたのが一つ。

他には、広島大学で開かれた講演に当時学術系クラウドファンディングサイト「アカデミスト」を運営している柴藤社長が招待されていて、この講演がきっかけとなり、彼に色々相談させてもらえたことも大きかったですね。

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野地:それで、アカデミストでクラウドファンディングをやってみることにしたのですが、誰もチャレンジしない。なので、渡邉先生と三戸先生に声をかけたんです。柴藤社長は、コオロギの発生学は(クラウドファンディングでは)ウケない、とピシャリ。というか、専門性の高い研究だから、一般に広く理解してもらうことが難しいんですよね。

西郷:だから、食用。

野地:そう。渡邉先生は200万円くらい集めるつもりだったけれど、柴藤社長に50万円程度が限界だと思う、と言われ実際そのとおりでした。100人くらいにメールを送ったけれど、実際に支援をしてくれた人は10%。それ以下かもしれない。でも、このクラウドファンディングがはじまりなんです。

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渡邉:ページの下に、「共同研究をご検討される企業のご連絡お待ちしています。」という一行を入れてもらいました。

そこから少しずつ企業からの連絡があって、グリラスが段々形になっていったんです。のちにコオロギせんべいを共に開発する(株)良品計画もそのサイトをみて連絡してくれたのかもしれません。ピッチに出て、サミットに出て。ゼロベースの所から踏み出せたのは間違いなくクラウドファンディングを始めたおかげだし、その一歩は大きかったですね。

西郷:コオロギに至るまでも、渡邉先生が加わることになったきっかけも、その後も。全部偶然をずっと辿っているような。

渡邉:案外何でもそういうものなんじゃないですかね。巡り合わせというか。

野地:クラウドファンディングを始めることになった時、「食」を選んだのも偶然かもしれない。けれど、それもすごく良かったと思います。医食同源という言葉があるように、僕らは食べたものでできていて、そのビジネス規模がものすごい。

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野地:文化は日々アップデートされているから、新しいフードが中心にある世界もいずれ出来上がっていく。現に、今、昆虫食への風向きも変わってきています。食料問題を解決するテクノロジーに真摯に向き合っているグリラスは、コオロギから新しく始めるフードテック企業に成長している途中。間違いなく、世界を席巻できるベンチャーになると思いますよ。

西郷:やってやるぞ!という気持ちになりますね。営業としてもこれから色々なチャレンジをしていきたいです。

渡邊:野地先生、今日は本当にありがとうございました!

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文・構成:いけだみほ

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