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一枚の自分史:今、あなたができることは何ですか?

2015年9月、65歳、残暑の中を就労支援事業所の4階の研修室での出来事でした。

医療事務クラス仲間たち、私を除いてみんな若いです。
6年前のことなのでさほどに変わることもないのですが、随分と時が経った気がしてなりません。クラスの様子などを事業所のブログに掲載するために時々こんな風に訓練生を撮影したりしていました。
※写真は、他年度の別のクラスでのもので、かなり加工してます。

就職支援の講座を担当していました。みんなが就職のためにできることに懸命に取り組んでいました。クラスのムードメーカーになっていたA子さんももちろんそうでした。
質問を熱心にして来るのですが、少し追い込まれているような雰囲気がありました。

訓練生の中には、少なからず前職の職場で傷ついたり、ちょっとしたトラウマを抱えたりしている人は少なくありませんでした。
就職支援では自己分析が必須となり、どうしても過去と対峙する場面があります。特に、A子さんは、ご自身が統合失調症の診断を受けていることを打ち明けてくれていたので、気をつけていました。

自分の特性を掘り下げていくワークの途中でした。A子さんが気分が悪いと言ってきました。
改善を求めていたのですが、この事業所には、気分の悪い時などに横になって休むスペースを設けていませんでした。

教室の横、階段の踊り場に小さな長椅子があったのでそこで休ませました。
様子を見ていると気分の昂りが見て取れましたので、4階から1階まで保護ネットがないこの場所に一人で居させるのはまずい。目を離せませんでした。1階にある事務所まで援けを求めたのですが、要領を得ません。
そのままパニック状態のA子さんを看ながら、講座も進めないといけない状況にありました。

A子さんと教室を行き来しながら自主的なワークの指示を出す。他の訓練生は理解してくれて、続けてくれました。

少し落ち着いたところで話し始めました。まず聴いてあげることからでした。
前々職の職場で上司と不倫の交際をして妊娠したこと。そのことが原因で退職せざるを得なかったこと。一人で堕胎をしたこと。
前職の職場では、女性の身重の上司が周りから配慮され大切にされている。それを毎日見るのが辛かった。心が突然ポキッと折れて薬を飲んで自殺を図った。
母親が通報して未遂に終わったが、その後、母親に無理やり入院させられた。そこで統合失調症という病名がついた。

私は統合失調症ではないと思う。だが、自ら赤ちゃんを葬った。どんなに勉強を頑張っても、仕事を頑張っても、そのことからは逃れることはできない。これからも自分を許すことはできない。話すうちに、また気分が昂ぶっていくのが見て取れる。

どうにかしなければならない。今、この人には私しかいない。何ができるのだろう。講座の最中でもある。

胎内記憶、池川明先生の講演を聞いていた、本も読んだ。
半信半疑でいたら、4歳の孫が胎内記憶を語るのを実際にこの目で見て、この耳で聞いた。そして深い癒しをもらった。

池川先生の講演で胎内記憶を語る子供たちが一定数いること。そのことで、医療者として救えなかった命の前で一番救われていると話されていたことを思い出した。

とっさに、話していた。
「違うよ、自分を責めるのは違うよ!あなたの赤ちゃんは、今、生まれたらお母さんが困ると判断したの。だから自分で今じゃないって判断したの。赤ちゃんが自分で決めた。中絶という形をとったのは忘れないで覚えてもらっていたいから、赤ちゃんがそうしてくれたことなの。あなたのせいじゃないの」

A子さんは、最初は驚いていたけれど、胎内記憶のことを話すと、落ち着きを取り戻してくれた。

「赤ちゃんは親を援けるために生まれてくるの。赤ちゃんは、いつかあなたの所にいくって決めてくれている。その日のためにA子さんが今できることは何だと思う?」

A子さんは、自分が今できることは、しっかりと勉強して資格を取って就職して自立した自分になることしかないと話し、少し休んだ後、教室に戻りました。
その後、無事、訓練を修了し、病院の医療事務職につきました。

このことは、後に私がその事業所を去ることを決めたひとつの出来事となりました。

お寺で仕事をしながら時間はかかりましたが、心理カウンセラーとしての資格を取得しました。 それ以外にも心理の学びは続けていました。

ちょうどその頃ベストセラーになっていた嫌われる勇気を読んで、アドラー心理学の問題の分離に感応したことが、「今できることは何?」とこの時の質問になりました。

これまでの人生での学びは何一つ無駄にはならない。

これらの経験を書いておく。どこかに置いておく。
必要な人が必要な時に受け取ることができるように。
私の経験がお手本にはならなくても、何かの見本になるように。

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