Claude Hadasch

ドイツ語の詩を訳しています

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【詩の翻訳】田舎を走る車の中で/エーリヒ・ケストナー

田舎を走る車の中で とびきりすてきな日には 空が言ってみれば 青い磁器でできてるみたいだ。 絹雲は 白い、柔らかにインクで描いたしるしに似ていて、 僕らはまるで雲が皿に乗っているのを見ているかのよう。 全世界が浮き上がるのを感じ、 嬉しそうに斜め上の方へとまばたきして、 自然を讃えている。 父は大胆にも率直にこう叫ぶ、 「素晴らしい上天気じゃないか!」 (やれやれ、父は気持ちよく大げさなことを言ってるだけなんだ。) そして父は完璧に車を走らせる、 丘を越え、谷を抜けて。

    • 【詩の翻訳】重量超過/ヨアヒム・リンゲルナッツ

      重量超過 船が沈没したあとに 郵便物計量器が海底に沈んでいた。 一匹のクジラがそれを不安げに観察し、 それから長いこと嗅ぎまわり、 健康に悪いとみなして、 最大限の注意を払って体から空気を出し、 計量皿の上へと降りていき、 そして——下の方をちらっと見て——訝しげに眺めた。 計量器は百以上を指していた。 Joachim Ringelnatz: „Übergewicht“, In: „Deutsche Gedichte für die Hauptschule”, Hrsg.

      • 【詩の翻訳】ロビンソン/クリスタ・ライニヒ

        ロビンソン ときどき彼は泣く、ことばが じっと喉にあるときに、 しかし彼は学んだ、しかるべき場で 黙って自分をあしらう術を そして昔ながらの事どもを見つけ出す、 半ば必要に迫られて、半ば遊びで、 石を割って刃にし、 柄に縛り付けて斧にして、 貝殻の縁で 自分の名前を岩壁に刻みつける、 とても頻繁に呼ばれていたその名前が 彼にはゆっくりと未知のものになっていく。 Christa Reinig: „Robinson“, In: „Deutsche Gedichte für

        • 【詩の翻訳】謝肉祭/フリードリヒ・ビショフ

          謝肉祭 あの謝肉祭だ——そうだよ、みんな、 川の氷が割れて轟音を立てながら流れ、 冗談と口づけの間に鳴らされた 幽霊じみた鐘の音のように響いていた。 太鼓、フレンチホルン、クラリネット。 飲み屋の中は陽気だった、 川の流れが寝床から 落ち着きなく起きてくるまで。 雪に包まれ、緑の松ぼっくりの歯をして、 水の精の国から来た 一人の男がボートから降りた、 全てが青ざめて見える…… 彼がダンスに誘った人を、 今ではもう誰も知らない、 一つの仮面が沈んでいった、 樹氷を追って

        【詩の翻訳】田舎を走る車の中で/エーリヒ・ケストナー

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        • Heiteres und Nachdenkliches
          2本
        • Werk und Tag/労働と一日
          25本
        • Bruder Mensch/親密な人
          36本
        • Der immerwährende Kalender/万年暦
          27本
        • Wort und Spiel/ 言葉と戯れ
          2本
        • Gott und Mensch/神と人間
          3本

        記事

          【詩の翻訳】暗黒街/オスカー・レルケ

          暗黒街 暗闇の中で私は 自分の街がもうわからない。 黒く汚れたチョークでできた深淵を 街が雲からこちらへ垂らしている。 通りは一層狭苦しくかすめ過ぎる 家々の醜い顔を前に、大きくぐねぐねと。 引っ掻いた傷の跡が、 窓の列で声もなく滴り落ちる。 岩盤が虚ろにガタガタ音を立てる。 私は家の前にいる。 そこでは私の立てる音と影が ドアを入ったり出たりしている。 Osker Loerke: „Unterwelt“, In: „Deutsche Gedichte für die

          【詩の翻訳】暗黒街/オスカー・レルケ

          【詩の翻訳】臆病な考え 不安げな優柔不断/ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ

          臆病な考え 不安げな優柔不断 臆病な考え 不安げな優柔不断、 女々しい怯懦、 気弱な嘆きは 苦しみを転じさせることも お前を自由にすることもない。 あらゆる暴力に逆らって 自身を保ち、 決して屈さず、 力強くいることが 神々の腕を 呼び寄せるのだ。 Johann Wolfgang Goethe: „Feiger Gedanken bängliches Schwanken“, In: „Deutsche Gedichte für die Hauptschule”, Hrs

          【詩の翻訳】臆病な考え 不安げな優柔不断/ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ

          【詩の翻訳】宝を探す人たち/ゴットフリート・アウグスト・ビュルガー

          宝を探す人たち 死の床についたある醸造家が 子供たちを呼んでこう告げた。 「私たちのぶどう畑に宝が埋まっている、 さあ掘り出すのだ!」——「どこに?」 子供たちみんなが大声で父親に叫んだ。 「さあ掘り出せ!」……ああ悲しや!そこで男は死んでしまった。 父親が運ばれるやいなや、 子供たちは全力で掘った。 くわで、唐鍬で、鋤で、 ぶどう畑はそこらじゅう掘り返された。 かき回されていない土くれなどなかった。 大地はすっかりふるいにかけられ、 熊手が十字に、斜めに あらゆる石ころ

          【詩の翻訳】宝を探す人たち/ゴットフリート・アウグスト・ビュルガー

          【詩の翻訳】通りの警備員たちの食事/ハインツ・ピオンテック

          通りの警備員たちの食事 タールの入ったドラム缶の影で彼らは泰然と齧っている 赤みの多いベーコンと白いキャラウェイ入りのパンを そしてナイフを掴むときに唾を吐き、 リムジンの赤に眩しそうに目を細める。 コーヒー瓶はゴボゴボ音を立て、殻が割れ、 老人の髭に黄身がはりつき、 ヤギのチーズは彼らが喋るのを妨げ、 昼はバターの香りのように過ぎ去る。 溝に生えた草の間を汗で濡れた帽子が転がり、 男たちは口についた脂肪を拭い取り、 シャベルの鉄とカモミールの花のそばで 彼らは生活の奇

          【詩の翻訳】通りの警備員たちの食事/ハインツ・ピオンテック

          【詩の翻訳】時代の風景/ゴットフリート・ケラー

          時代の風景 深い谷間に微光を放つ鉄道があり、 橋が谷とレールを はるばると越えていく、それぞれの柱が一つの塔で、 人工の冠を戴いて空中にそびえ立ち、 雲に向かって広い弧を支えている。 古代ローマのもののようだが、新しくて輝いており、 森に覆われた山々を結びつけている。 橋の上には車が走っていない、 というのも水晶のような水が上の方で流れているからで、 その清らな流れを船乗りたちは讃えるのだ。 下の鉄の谷底では 車の長い列がうなりを上げて通り抜ける、 幾百の落ち着かぬ心臓

          【詩の翻訳】時代の風景/ゴットフリート・ケラー

          【詩の翻訳】圧延工場/カール・ブレーガー

          圧延工場 工場と燃え殻の山。その上に いつも同じ雲がかかっている、ふわふわの、煙色の雲が。 白みがかった煙を吐く冷却塔の周りにぎっしりと 煙突また煙突、そして屋根屋根が迫る、煤と煙になじんで。 広々と大口を開けたホール、その中では湯気が立ち、煙が立ち、 油と汗が混ざったもやが調合される。 周囲では沸き立ち、わめき、ドッドッ、ヒューヒューと音を立てる、 煮えくり返った鉄が燃えたつ怒りでシューシューうなっているあいだに。 圧延ローラーの堅い顎に捕われて、 鉄は平らにされて輝

          【詩の翻訳】圧延工場/カール・ブレーガー

          【詩の翻訳】立坑での死/ゲリット・エンゲルケ

          立坑での死 二百人の人々が立坑に落ちた。 母親たちは上の方で群れをなして押し合いへし合いしている。  煙が立坑から上がる。 石炭の山は夜も下で燃え、 原始の太陽の火がほとばしる。  煙が立坑から上がる。 救助隊が降りていき、 戻ってこなかった、彼らはずっと下にいる。  煙が立坑から上がる。 燃え盛る大口が犠牲者を貪り——待ち構えている。 焼けた坑道は壁となって立ち塞がる。  煙が立坑から上がる。 二百人が立坑に落ちてしまった。 母親たちは誰も乗っていない担架にすがっ

          【詩の翻訳】立坑での死/ゲリット・エンゲルケ

          【詩の翻訳】大事/アルフォンス・ペツォールト

          大事 あることが君の心に残っているに違いない、 君は今叩いているのだろうか、旦那、鋼鉄と石で、 槌を掴んで深みへ降りているのだろうか、 火の明るさを制しているのだろうか、 耕地に種子を恵み、 土地と土地を銅線で結び付けているのだろうか—— どこかに仲間の一人がいて 同じものを同じ無口な力で創造しているのだから、 どこかで仲間の一人が君のように 激しい憧れを抱いて太陽の輝く時間を目指しているのだから、 そのときには、全世界で兄弟の契りを交わしながら、 彼が君の手を自分の右手で

          【詩の翻訳】大事/アルフォンス・ペツォールト

          【詩の翻訳】おやすみ/テオドール・シュトルム

          おやすみ 静かな通りに 澄んだ鐘の音が響きょーる。 おやすみ!おめえの心も寝るじゃろ、 明日はまた別の日じゃ。 おめえの子供はゆりかごの中で寝とる。 わしもおめえのそばにおる。 おめえの心配は、おめえの人生は みんな周りに、そばにある。 もっかい言わして、 こんばんは、おやすみ! 夜は屋根みてえ、 神さまがわしらを見とってくださる。 Theodor Storm: „Gode Nacht“, In: „Deutsche Gedichte für die Hauptsch

          【詩の翻訳】おやすみ/テオドール・シュトルム

          【詩の翻訳】帰宅/アグネス・ミーゲル

          帰宅 私たちはもう一度視線を ごく高いところのマイルストーンに向け、 村の方を振り返った、 沈みかけの夕日の中にある村を。 真紅の雲の扉が 森の上でぱっと開き、 墓地は、野は、荒野の沼地は すでに青い黄昏の中にある。 一人の農夫が道を下っていく、 背中に 金髪の小さな娘をおぶって—— 娘は大喜びして叫び笑う。 父親は歌った——夕凪が 二人の笑い声を私たちの耳に運んだ——、 それで父親は子供と一緒に家へと歩んだ、 天の太陽の扉へと向かって。 Agnes Miegel:

          【詩の翻訳】帰宅/アグネス・ミーゲル

          【詩の翻訳】夕方の老農夫/ヨーアヒム・ランゲ

          夕方の老農夫 一人で黙って座っている、 これが彼の夕方の過ごし方だ。 煙がどんよりとして白い髭からたなびく。 激しい日だった。辛い日だった。 一日が終わった。 家は静かに立っている。裏庭はがらんとしている。 草地から 女の子のちいさな笑い声が飛んできて 次第に消え、静かになった。それだけだった。 一番星。 鶏小屋では一匹のニワトリがまだガサゴソしている。 一頭の子馬が怯えていななく。 老人は手を休める。 両手には毎日毎日やることがあるのだ。 一日は長い。 肌はタコだら

          【詩の翻訳】夕方の老農夫/ヨーアヒム・ランゲ

          【詩の翻訳】種蒔く人の辞/コンラート・フェルディナント・マイヤー

          種蒔く人の辞 一歩の距離を測れ!一蒔きの量を測れ! 大地はまだまだ若い! そこに死んで永遠の眠りについた穀粒が落ちている。 眠りは甘美だ。穀粒はそれを十分に感受している。 ここに一つ、土塊を割って出てきた穀粒がある。 穀粒はそれを十分に感受している。甘美なのは光だ。 そしてこの世界からこぼれ落ちるものは誰もおらず、 誰もが神の御心にかなうように死んでいくのだ。 Conrad Ferdinand Meyer: „Säerspruch“, In: „Deutsche Ged

          【詩の翻訳】種蒔く人の辞/コンラート・フェルディナント・マイヤー