黒衣の主と虹色の従者

 敗れた。


 そう自覚する前に黒衣の男は喀血して、よろめいた。
 まだだと膝を屈さずに目の前の敵を……黄金瞳の男を睨む。
 だが、敵は既に次の行動に移っていた。


 その手の甲に埋め込まれた魔術武器が力を開放し、その腕はアカシャ色に染まっていた。第五元素アカシャ、空の色、つまり暗紫色に。
 男はまずいと歯を食いしばり腕を持ち上げクロスさせ、その一撃に耐えようとした。
 途端、全てを吹き飛ばす力の奔流が男を襲い、垂れ流す血も涎も奔流に吹き飛ばされた。
 それでも堪えた男の胸をクロスした腕ごと強烈な一撃が打ち抜く。
 奔流に紛れて襲いかかってきた衝撃に一瞬止まった心臓。


 男は堪えきれず奔流に吹き飛ばされ、砕けた腕や鮮血と共に奈落に続く大穴へと落ちていく。
 何処までも続く奈落の底へと落ちながら、肘の先から噴き出た鮮血は落ちる男の軌跡のよう。

「これが最後か……」

 男が意識を失う前に見た物は、深淵に蟠る七色に輝く泥土であった。

【続く】

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