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おいしい給食を求めて。

最近、急な空き時間ができてしまうことが多い。
こんなご時世で人と会う約束もキャンセルになってしまったり。
それもあって、本やら映画やらドラマやらに時間をつぎ込んでいる。

せっかくならいい作品に出会いたい。そう思いすぎるとスマホをスクロールするだけで多くの時間を費やしてしまう。
だから、これにしよ。とサクッと決めることを意識して最近は見始めるようにしている。

その効果もあってか1月2月はとくに私のなかで当たり作品とたくさん出会えたなと思う。

特に良かったのが、『おいしい給食』という市原隼人さん主演のドラマだった。

当時から人気だったようだけど、Amazonプライムでたまたま見つけるまでその存在自体知らなかった。
映画化もされていて、つい最近までシーズン2が放送されていたことも。悔やまれる。

これをつい先日から見始めた結果、めちゃくちゃファンになってしまった。
2月にして早くも今年のベストワンではないか!?という程の映像作品に出会ってしまった。
私はいまこういう作品を求めてたー!と思った。

というわけで、熱量が高いうちに給食をテーマにしたこの作品の魅力を私なりに深掘りしてみようと思う。

ネタバレは極力控えます。
あくまで、シーズン1と劇場版 Final Battleまでを観た私の勝手な感想。

✳︎

グルメものは特に面白い作品が多くて人気が高い。

視聴者の五感を刺激するような演出に加え、目の前の料理に情熱を注ぐ登場人物たちから発せられる言葉には、「食」という私たちの日常に彩りを与えてくれるロマンがある。

見た直後は決まってお腹が空いてくるし、ああ同じものが食べたいという気持ちになる。

ただ『おいしい給食』に関しては、そのような部類のドラマに入るのか?という疑問が湧いてくる。

まず、五感を刺激されるような演出はとくにない。
だって、給食だもの。
味気ないアルミの食器に、統一感という概念が完全に無視された食材の組み合わせ。

時代背景が80年代のため、献立には鯨肉があったり、脇を固めているのが白米でなくパサついたコッペパンであったりする。

栄養バランスを第一に考えられた一品一品は、食す側に重きを置きつつ、現代のおいしい料理とは別次元にある稀有な存在だ。

「私は給食が好きだ。私は給食のために学校に来ていると言っても過言ではない。」

という毎度おなじみの主人公のセリフから物語がはじまる。

まずポイントとして、私はこのような「なぜそこ?」とか「なぜそこまで?」と思わせる人物が出てくる作品がすこぶる好きだ。
ステレオタイプを打ち破る趣味嗜好を持ち合わせた人間がそこにいるだけでワクワクしてくる。

市原隼人さん演じる主人公、甘利田(あまりだ)先生は中学教師で給食をこよなく愛している。

そして給食を愛するもう一人の人物、神野ゴウという男子生徒の存在。

給食の時間、ふたりは目の前の給食をどれだけおいしく食べられるか、という密かなバトルを繰り広げる…

と、文章にするとなんのこっちゃという内容だけれど、素直に面白いし、本当に良く作り込まれている。

「一見カオスのような様相を見せながら、その奥底で秩序のようなものが垣間見える。カオスとは、ただの乱雑な混沌ではない。その中に秩序は確かに内包されているのだ。給食は、それを私に教えてくれる。」
(by甘利田幸男)
『おいしい給食』/シーズン1第7話

純文学かな?と思わせるような語り口。
なのに最後が給食で締めくくられるもんだから私は一体いま何を観ているんだろうという可笑しみが湧いてくる。
ちなみにこれは焼きそばが出た日の甘利田先生の心の声。
その回のタイトル『ヤキソバ・パンデミック』

教師という立場でありながら、あくまで生徒や学校を給食のおまけ程度にしか語らない先生の異質さも潔い。

おいしいものをおいしく食べるという料理をメインにした姿勢の作品でなく、あくまで給食を愛する「人」を描いた作品だ。

私は最近ここまで食事に対して関心を持てていたかな、と思わず考えてしまう。おいしいものを食べるときは意識していても、当たり前にあるものに対しては無意識に咀嚼して流し込むという一連の行為として染み付いてしまっている。

なんてそんなことを真面目に考えつつも、2分後には甘利田先生の狂気に飲み込まれ、ただただ笑ってしまうのだ。

✳︎

新しい価値観に触れるとき、エンタメ作品というものの重要性を改めて考えさせられる。
適度に笑いがあることで、可能な限り敵を作ることなく効果的にその切実さを届けることが出来るからだ。

少し前に読んだ本の中で
コミュニケーションとは相手の心に橋を架ける行為。とあった。
革新的な視点ではないけれど、その大切さを説いたエピソードが印象的だったので心に残っている。

そんなこともあって、エンタメ作品に触れるときも、その橋の存在を考えるようになった。

登場人物の気持ちが伝わるということ、ちゃんと笑えて泣けるということは、橋を架けるべく努めたある人たちの仕事が実ったということなんだなって。

人の心に届ける、なんて言うけれど、実際に届けるにはひと工夫もふた工夫も必要なのだ。
現代は情報過多で受け取る側はいろんな橋を経験しているからとくにそうだ。
相手の心理をおもんばかって、社会性を意識しつつ、でも半分無視しつつ、愛を持っていろいろやった化学反応によってこのような作品は出来上がるように思う。

映像作品は本とは違い多くの人が関わる分、そんな化学反応を垣間見れるところが面白い。

モチーフの独自性によっては、その橋を建設する難易度は確実に上がるはずだ。

『おいしい給食』に関しても、きっとそんな部分で試行錯誤あったのではないかと想像する。挑戦を感じるから。
だからグッとくるんだと思う。

80年代の雰囲気漂うノスタルジックな音楽。

お決まりのパターンがてんこ盛りにも関わらず視聴者を飽きさせない細かなストーリー展開。

変わり者同士が脇目も振らずただ一途に給食を愛し心を通わせていくさま。

ハチャメチャなようで食と人というテーマが一貫して貫かれているところ。

何より、市原隼人さんのちょっと心配になるくらいの振り切った演技がどハマりしてて魅力的。

これからシーズン2を見るのが楽しみすぎる。
そして5月にはラストとなる劇場版が公開予定。
ああ、ワクワクと楽しみをありがとう。


人と会えなかった日も、こんな作品に出会えるのなら最高じゃないか。
と、思えた今日この頃なのでした。

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