6/8分 第37作 お守り

お守り。俺にとっては、高校の部活引退時に後輩から貰った単語カードがそれだった。
大切な後輩たちが1人1枚、
びっしりと惜別の思いを書き留めてくれたものだった。

うちは中高一貫校で6年間を過ごすから、部活への入れ込み具合、同僚との関係性の強さは、他の高校と比べ物にならない。

しかもうちは、全国制覇を果たす名門バスケ部で、俺はキャプテンを務めていたから、部活への想いは格別、
俺の青春そのものだった。

そんな部活の思い出と、甘酸っぱい恋の思い出を含んだ単語カードは、俺にとって、紛れもないお守りだった。

あの頃を思い出せば、きっとどんなことでも乗り越えられる。そんな気がするのだった。

怪我をして二度とバスケができない体になって絶望した時も、それからやけになって酒に溺れ、借金にまみれた時も、終いに自殺しようと思った時も、
常に俺のポケットの中にあり、ここまで俺を生き延びさせてくれたんだ。

そんなお守りが、血まみれになった。

持ち主の俺が暴走車両に轢かれて、
全身血塗れ、瀕死状態になったのだ。

独りぼっちで生活し、孤独に入院する俺を
見舞いに来てくれたのは、
あの日同じ窯の飯を食った仲間たちだった。

俺は思い切って、血まみれの思い出を棄てた。

いいさ、きっと平気だ。

本当に大切で、俺を守ってくれるものは、
思い出という形で、今でも胸の中にあるんだから。

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