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日陰色の天使

お母さん、私、天使を見たことがあるんだよ。

天使さまは踊りが大好きで。バスケットボールみたいなおしりをゆらゆら。カンガルーの楽しいステップ。手をたたいて。お腹のなかから踊りが湧き出てくるんだよ。

天使さまはいつもお歌を歌っているの。とっても温かい声がお歌に乗っかっているんだよ。お母さんのおなかにいた頃に聞いた優しい声でお歌を歌うんだ。

天使さまのおててにはいっぱい絵が描いてあるんだよ。大切なことを忘れないために体に描いておくんだって。

天使さまはね、いつもお勉強しているの。いつも本を持っているんだよ。お勉強は天使さまを賢くしてくれるんだって。お勉強は人の役にたつんだって。お勉強はみんなの役に立つんだって。

天使さまはね、いつも笑っているんだよ。小さなことに怒ったり、悲しんだりしないんだ。広い草っぱらに寝転んで、燕がゆらゆら飛んでいるのを見るだけでいいんだって。朝起きて、たっぷり太陽の光を浴びるだけで、なんだかいいことがありそうだ、って思うんだって。天使さまと一緒にいると、いいお顔になるんだ。天使さまがいいお顔だから私もいいお顔になるのかな。みんな天使さまが大好き。みんな天使さまが大好きだからいいお顔になるのかな。

天使さまはね、お腹が空いて歩けないひとに、パンとミルクを買ってあげるんだ。それからね、天使さまはみんなのものなんだって。天使さまは誰かの役に立つことが嬉しいんだって。天使さまは、悲しんでいる人の横に一緒に座ってくれるんだ。傷ついているひとの側にいて、手をつないでくれるんだ。天使さまは私たちの心がそっくりわかるんだ。

天使さまはね、大きなリュックサックを背負っているんだよ。リュックサックにはいろんなものが入っているんだよ。コンピューター、カメラ、ゲームにドーナツ。着替えと携帯電話。絵具にねんど。天使さまは私が道に迷っていたとき、大きなリュックサックの中から地図とたべものを引っ張りだして、私にくれたんだ。それから、歩くこと。立ち上がること。きっと私は歩けると信じること。もくれたんだ。

天使さまはね、鍵を持っているんだよ。私が倉庫に閉じ込められたとき、鍵を使って出してくれたんだ。だって私は旅をしなくちゃいけないからだって。それからね、私に飛べって言ってくれたんだ。

天使さまはね、勇気があって立ち上がるんだ。天使さまはいつも笑っているけれど、かわいいこどもたちのためなら、剣をとって戦うんだ。誰も傷つけない方法で。だれかに押さえつけられても、かわいいこどもたちのためなら何度でも戦うんだ。とっても強いんだよ。何度捕まっても子供たちのためなら、戦うんだよ。みんなに笑われても、立ち上がるんだ。大事なリュックサックを取られても、みんなに蹴られても、絶対に立ち上がるんだ。それが天使さまが約束したお仕事なんだって。

それからね。

天使さまはね、カラス色の髪の毛がくるくるしているの。

天使さまはね、夜色の目をしているの。お星さまがお目目の中にあるの。

天使さまはね、日陰色をしているの。

あら。それは天使さまとは言わないわ。天使さまの髪の毛は麦の穂色でしょう。天使さまのお目目はお空色でしょう。あなたは夢をみていたのよ。

でもね、お母さん。私はほんとうに天使さまをみたんだよ。この目で天使さまをみたんだよ。この天使さまが神様がどこにいるかを教えてくれたんだ。天使さまは生きているよ。


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