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#002-04 突然に下半身不随宣告された息子。すところどっこい疾風記〜息子とともに駆け抜けた23年間の記憶〜これが福祉界のアベンジャーズ(後編)

さて、退院にあたって問題が生じた。
我が家は賃貸の2階である。
今後、車椅子での生活を考えると何かと不都合なのだ。
引っ越しを考えねば。

さらに下半身麻痺となると障害者認定を受けなければならない。
まずは病院内にある「地域連携室」へはなしを聞きに行く。
するとまずは市役所の障害福祉課へ相談しに行くこととなった。
今は11月上旬。シンが最大に譲歩する退院の目安は誕生日の11月22日。
病院からの退院許可はまだ出ていないが、シンの病状を元に、
今続いている微熱が落ち着いたら、家での療養を考えてくれている。
この半年、誰にも文句を言わず耐え抜いたシンが初めて訴えた「退院」を
叶えてあげたい。

それまでにボクたちは受け入れ体制を整えるため、
障害者認定を取り、退院後生活に必要な物を手配しなければ。
あと引っ越し先も。

と、そんなにうまくいかないのが最近の我が家。

市役所で障害者認定が下りる日にちを確認すると、1〜2ヶ月かかるという。
そこからケアマネージャーを通して、シンの生活をサポートしてくれる方々にお願いしていてはとてもではないが希望の誕生日どころか年をまたぎかねない。
「月1回の認定会議で稟議を通すため、書類提出のタイミングによっては2ヶ月はかかります。」
「…退院許可がでるまでに認定をとっておきたいのですが。どうすれば」
「大体、障害者認定が出てから退院手続きをしていますが。」

…そもそも認定会議が月に1回って。その都度、稟議を通せないのか。
納得がいかず、考えを巡らせていると、
ボクの心の中の悪魔があるアイディアをひらめかせた。
後日、担当医に確認する。
「市役所で立場のある方に相談することで解決できますか?」
「是非そのコネは使ってください。」
同席した看護師長に至っては
「それは必ず効果がありますわよ。」
と言われた。

悪魔になったボクは
(いままでシンのことに関しては真っ向勝負で挑んできたじゃ無いか。
頭を下げ、切実な想いを伝えお願いしてきただろ?
何も誰かを蹴落として認定の権利を奪うわけじゃないぞ。)
その悪魔のささやきに心が動いた。

シンのささやかの希望を叶えてやりたいとの一心である人物に電話をかけた。

結果はあっけなく出た。

次の日市役所に出向くと
「書類は提出しました。できるだけ早く認定が下りるよう稟議を回しました。」

2週間後認定が出た。

何じゃそりゃ。

2ヶ月が2週間って。
これがいわゆる政治的解決ってやつか。
大人って。恐ろしや、恐ろしや。

このことシンには言われへんな。絶対に怒られるわ。

その後、病院の地域連携室の職員さんを中心に
サポートメンバーの候補が決まった。
そして病院内の休憩スペースで退院後の段取りを詰めることとなった。
そのタイミングで担当医から、なんと退院の日程まで決定した!
シンの状態が良ければ2週間後なら許可が出るらしい。


力技でことを進めなければ間に合わない。
早速、検討していた何件かの物件を検討する。
その間にサポートメンバーとお会いすることに。

メンバーは…
病院の地域連携室の職員さん、ケアマネージャー、訪問看護、
デイケアサービス、福祉用品の事業所。

まずは何が必要で、日々どのくらいのサポートが必要なのかを検討する。
市役所からはみなし認定ということで話が進められた。

ではこの日のプロフェッショナル、「福祉のアベンジャーズ!」の紹介だ!

アベンジャーズその1
病院の地域連携室の職員さん
各事業所のメンバーを選定していただき、この日の打ち合わせでは、
座長的な役割をしていただいた。彼がこの物語のニック・フューリー。


アベンジャーズその2
市役所障害福祉課の職員さん。
障害者認定が出る前だったのだが、みなし認定ということで各サポートメンバーに状況を伝え現実的なプランを考えやすくして頂いた。融通の聞かない例の窓口業務であはなく、これぞ上級職員といった感じの男女ペア。

アベンジャーズその3
訪問看護ステーションの代表
日々のバイタル管理。排便の介護、褥瘡の処理などを行っていただく。
24時間対応で一日に2回の訪問看護。
後にサポートの中心になり、我が家にとっては信頼できるボスとなる。

アベンジャーズその4
ケアサービスの代表
シンの生活介助。若いスタッフはシンと同世代で、弾む会話を織り交ぜ、心のケアまで手助けしていただいた。また、またベテランは車椅子移動の練習を根気よくお付き合いいただく。

アベンジャーズその5
福祉用品の事業所代表
とにかく素早い対応。豊富な知識と経験で何も分からないボクたちに介護用品につてアドバイスしていただいた。この方で無ければ退院と引っ越しのタイミングに間に合わなかった。明るく元気な女性社長。

この日のメンバーと初めて会ったシンは、退院するためにはこんなにサポートが必要なことに恐縮をしながらも、退院が現実になり嬉しそうだった。

シンの事情を打ち合わせの冒頭で説明し、協力をお願いした。
そしてその日の集まったメンバーが偶然にも代表の方ばかりで、
話がどんどん進む。旧知の仲の方もいるようで和気藹々と会話が弾み、
シンにも声かけをたくさんしてもらった。

今年の7月から
ジェットコースターに乗らされているように、自分の意思とはかけ離れた現実に戸惑っていたシンは、みんなに希望を聞かれて鼻を膨らせ返事をしている。希望が叶えられるのが素直に嬉しいのだ。その様子を見てアベンジャーズ達はシンを気に入ってくれたようだった。

打ち合わせの最後の方で誰かが
「市役所も認定を早く進めること、やれば出来るやん。(笑)」
これには全員が大笑い。職員さんまでも照れ笑いだった。

他に本来は全体を仕切るはずのケアマネジャーもいたが、あまり経験が無いようでアベンジャーズ入りは果たせなかった。結果、全体を仕切るのは訪問看護の代表が尽力していただいた。

結果、アベンジャーズの紹介で、訪問診察の内科医や歯科医、より手厚くするために第二のケアサービス、リハビリ専門の整体師など総勢20名ほどの福祉のエキスパートが集結した。

その後の鬼のようなスケジュール。

11月28日 引っ越し先との契約
12月1日  引っ越し業者との契約
12月5日  引っ越し
12月7日  介護ベッド着納
12月8日  シン退院

こう書き留めるとスムーズな感じがするが
実際はめまぐるしく、余り記憶に残っていない。

引っ越しの選定に時間がかかり、引っ越し業者に連絡を入れたのが
退院の1週間前。介護ベッドに至っては、在庫がなく介護用品の女性社長さんが力技で退院の前日に納品していただいた。

11月22日の誕生日には間に合わなかったけれども、
やっと我が家の新たなスタートを年内に切ることが出来た。

下半身麻痺がなんだ。
と言いたいほどテンションは上がるが、やはりしんどい。
シンはこれから1年間は引きこもると宣言。
車椅子には乗らないっという。

リビングの横にある部屋をシン仕様にアレンジして
ベッドの周りにはお気に入りの物を並べ、すべてが見渡せる。
目の入るところにはリビングがあり、常に人の気配を感じるようにした。

そして初日からベッドに寝る我が家の王様が。
ズッとそこにいたかのように見えた。

次からは本編から少し離れアベンジャーズのエピソードを短編で届けたいと思っております。





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