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#002-03 突然に下半身不随宣告された息子。すところどっこい疾風記〜息子とともに駆け抜けた23年間の記憶〜これが福祉界のアベンジャーズ(前編)


2024年夏。

猛暑が続く中
ボクのこころは冷たく真っ暗闇だった。

シンはボクとちがう場所に行った。

光が満ち溢れた明るい場所へ。
居心地のいい場所へ。

そう思いたい。
宗教観を一切持たないこのボクが居場所を求めて彷徨う。



2021年9月。
コロナの猛威が止まらない。

深夜1時。

「コーラ、ファンタグレープ、デカビタ、緑茶…
ハリボーのグミ、ココアシガレット、ラムネ、よっちゃんイカ…」

「了解です。ところで今日はどうやった?」

「別に…じゃあこれで今日はおしまい。もう寝る。」

「リハビリしたんやろ?」

「Zzzzz…」

これが毎晩行われる奥さんとシンによるLINEのやりとりだ。

当然ボクは蚊帳の外。


2021年9月。

兵庫県での長い重粒子線治療は1ヶ月で終了。

脊髄に張り付いていた良性腫瘍があっという間に悪性化し
手術が不可能であるため、
重粒子線治療という高度な放射線治療が必要になった。
良性腫瘍摘出手術の予定からわずか1ヶ月ほどでの地獄のおもい。

普通のありふれた日常から一転。
悪い結果が次々とシンに襲いかかった。
わずか1ヶ月のうちに。
それでもシンは静かに戦い続けた。

「現在、MRIで確認できる腫瘍は全部処置できました。
ただ、すでに転移している可能性もあります。
今後はMRI検査は必須となります。」

との報告を受けた。

喜ばしいことなのか?どうかすらよくわからない。
すでに治療によって下半身麻痺になってしまっている。
その影響で痛みを感じないことは不幸中の幸い?いや不幸の連続だ。
この先一生シンは歩くことができない。
シンには直接事実は伝えていないが、
本人はここ1ヶ月で薄々感じているようにみえた。

そして大学病院へ戻ってきた。

そこでシンと争いが起きた。

その当時、コロナの感染力が拡がり、今まで知的障害があるということで
特別な計らいで病室の付き添いを認めて頂いていたのだけれど
今回はかたくなに拒否された。

一人っきりになるのは、今回の入院騒動で初めての出来事だ。
嫌がるシンを説得するが話を聞かない。
ナースステーションの前でもめていると看護師長さんが顔を出し、
「シン君、部屋に行こか。」
優しい声かけの中に有無を言わせぬ態度が。
「……」
何も言わずにシンは病室に連れて行かれた。

今日の朝まで約1ヶ月、兵庫県での治療に付き添っていた奥さんは
ほとんど会話をする暇も無く病室へ消えていくシンを呆然と見つめていた。

どうしても病院の規則で付き添いが認められないということを察したシンは
この日を境に方向性を変えた。

その日の深夜
「退院したい。いつ退院できる?」
「退院!退院!退院!」

こんなLINEが届くのは当然ボクである。
要はボクが先生との交渉担当に任命されたことになる。


ベッドを少し起こし、上半身を楽にし、サイドテーブルを胸元まで寄せ、
テーブルの上はきれいに整理されている。
スマホ、充電器、手帳、ペン、ティッシュ、コップ、……
そして拳銃。それはプラスティック製の子ども用では無く、
重く鈍い光を放つモデルガンだ。
シンにとっては護身用だ。
さらに身体の横、布団の中には刀を忍ばせている。
京都太秦で結構な値段で購入した、いわゆる竹みつ刀である。
上の上ランクの竹みつだ。(そんな物があるの?)

家ではこれにスーパー戦隊の武器や仮面ライダーの変身アイテムが
加わっていた。

さすがにシンも23歳の大人なので(?)なので
それらは病院に持ち込まなかった。

シンにとって仮の姿は入院患者だが、真の姿は「銀河宇宙警察の隊長」なのである。


こうして兵庫県で過ごした1ヶ月でシンのデスク周りは完成した。
さて、今は一人っきりになった病室で
同じようにテーブルを飾っているのかな?

と、ふと考えるが、人に頼まないと荷物を開けることができないシンは
誰にも言えず、鞄の中にそれらのアイテムをしまいっぱなしにしている。
と、今改めて思いを馳せると、切なくて涙が出る。

「500mlのコーヒー牛乳とぺろぺろキャンディ。
ハイ!退院!退院!退院!」
……完全になめられてる。
まっいいか。それなりに楽しんでいるようで。

その後1ヶ月を大学病院で過ごし、急性期を過ぎたとして
また転院することに。この病院でも付き添いは禁止。
しかも面会すらできない。

どうなっているの?コロナ対策。
国や行政、病院が決めた規定。
人それぞれ病状や事情は異なる。
それを全国一斉に統一された対応。
感染拡大を拡げないため?

ではいつから面会・付き添い解除になった?
何を指針に決定した?

昨日までは面会禁止で今日からは面会禁止解除?
おかしい。腹を抱える。

今回の出来事でコロナアレルギーになった。

コロナ対策で理不尽な思いをされた人々は少なくないだろう。
最期のときを一緒に過ごせない。そんな方もいるだろう。

とにかくボクはコロナを一生許さない。
コロナの周りに巣くう諸々も。

コロナが憎い。国の方針が憎い。
病院の対応(一応一部の対応とフォローしておくが)が憎い。
これを言い出すとNOTE何話分になるだろうか。
それも面白いが、ここではこの想いは秘めておくことにしよう。

逢うことができない日々は続くが、以前お話しした駐車場通いは
続けていた。LINEでの会話も毎日続いていて、
退院に向けての要求は果てしなく続いていた。

続く。



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