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夏の日の1998

同志Aからのお題:My favorite movie


あれから40年-。ドラえもん映画の第1作「のび太の恐竜」を同級生と連れ立って公開初日に見たのは小3の3月だった。時は流れて2020年夏、シリーズ最新作「のび太の新恐竜」を小1の娘と鑑賞した。現代の科学的な視点を盛り込みつつの原点回帰。いい作品だった。でもタイムマシンで1980年当時に戻って、半ズボン少年に「君は40年後にシリーズ通算40作目のドラえもん映画を見るんだよ。しかもマスク着用、間引き席で」と言っても信じてくれないだろう。

新恐竜ならぬ新日常の映画館では、よそ様と社会的な距離を取りつつ、そそそ、さささ、と動くのがよろしかろう。その対極にあるのが、1998年夏の「ムトゥ 踊るマハラジャ」の熱い波だ。

今はなき“ミニシアターの聖地”渋谷のシネマライズは、天竺渡来のありがたき「マサラムービー」の御開帳に連日、満員御礼&立ち見御免が続いていた。

噂を聞きつけて、私も夏休みで上京。巡礼の旅である。どうにか座れたのは、2階席の最後方だった。待合から持ってきたような背もたれなしのソファ。そんなヘンテコな席を、何人かの見知らぬお客さんと妙な連帯感を持ってシェアしながら、初めて見る南インドの絢爛で痛快な映画に没入した。

濃い味付けが癖になり、サントラCD、関連本、DVDと買い漁った。通販の「ムトウ」が「ムトゥ」に見えるほどハマった。2018年公開の4K&5.1chデジタルリマスター版も、しかと堪能した。

機微の移ろいが絶妙な「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」や、大仰な愛のテーマ「アクロス・ザ・スターズ」が耳から離れない「スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃」などを抑え、「ムトゥ」はわが心のベスト10、第1位に輝くのである。

しかし残念ながら、マサラムービーのブームは束の間の瞬きに過ぎなかった。日本印度化計画は真夏の夜の夢のごとし。

もし何かの拍子に巨万の富を手にし、AI俳優で時空を超えて日本版リメイク「ムトゥ」をつくるとしたら…と、しばしば妄想にふける。

ラジニカーント御大の「スーパースター」の称号&オープニングが似合いそうなのは植木等さんだが、主演女優ミーナ嬢を弦楽器に見立ててかき鳴らすような艶かしいミュージカルシーンや、怒り爆発のアクションシーンの目力を考えると、ここはハナ肇さんに白羽の矢を立てたい。笑いも重い芝居もスケベも、ハナさんならば。そうすると、植木さんにはムトゥが仕える大地主の役を。ミーナはクレージーキャッツとの共演も多い、ボンドガールの浜美枝さん、おちゃらけ使用人は谷啓さんで決まり。

群舞は「ムトゥ」に負けず劣らずキンキラキンのギンギラギンな「マツケンサンバⅡ」の真島茂樹さん振り付けで、若き日の仲本工事さん、風見しんごさんをツートップに鶴翼の陣で臨みたい。ホリプロタレントスカウトキャラバンの「ジャズダンス」が笑撃的な伝説となっている井森美幸さんは、隠れキャラとして潜ませておこう。

プチ鹿島さんの「夏が終わればもう大晦日」の名言通り、自宅近くのスーパーでは、おせちの「早割」予約が始まっていた。だが、こちとら絶賛妄想中で「おせちもいいけどカレーもね!」の心境なのである。


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