もしかしたら誰かを救うかもしれない。という0.0数%の可能性を信じ始めたこと。
こんにちは、グランドデザイン・代表ディレクターの西克徳です。
僕の小学校の友人で消防士をしてる『しょーちゃん』という男がいます。
2年前の同窓会に久しぶりに参加した僕は、僕の小学校の同級生には珍しい『デザイナー』という職業をやっている事もあって、しょーちゃんを始め懐かしの同級生から多少の興味を持って質問されていました。
『デザインって何やってるの』とか
『かっちゃん変なもん好きやったもんなぁ』とか、
絶妙な関心とからかいの渦中にいました。
僕の話が一段落した後で、会話は(多少自虐的に)みんなの仕事の話へ移り始めました。そんな中で僕はふと、前に座ってるしょーちゃんが消防士をしていた事を思い出し、
『しょーちゃんって消防士やってたよな?
ひょっとして、人の命を救ったことあるの?』と聞くと、
しょーちゃんは一旦黙り込んで、真顔で『…4人やな』とつぶやきました。
しょーちゃんのいつもの絶妙なボケを期待していた僕は、息を飲みました。
『え?……それほんま??
ほんまやったら凄いで…
まじで、しょーちゃんのおかげで4人が命を取り留めたの?』
などと、多少冗談めかして聞くと、
しょーちゃんは真顔のまま、いやむしろ一層曇った表情で、
『でもなぁ、、、その何倍もの人を助けてやれへんかったんや。
もっと、、』と言ったっまま黙ってしまいました。
僕はその、さっきまでふざけていたしょーちゃんの曇った表情に、
言葉にできない辛い記憶を噛み締めているのを感じ取りました。
そんな旧友を見ながら、僕の心はガタガタに崩れていたのです。
少し経って、僕は言いました。
『オレ今までそんな立派な事してきてないわ。
しょうちゃん、むっちゃカッコええ。最高や』
旧友のカッコよさに落ち込むほど憧れた。
この同窓会から僕は深い内省が始まりました。
僕が子供の頃、デザイナーは一部のセンスの良い人だけが出来るカッコいい仕事と言われてました。誰もが知る有名な商品をデザインしたり、有名な企業のCMや広告を作ったり。一時期、広告代理店はドラマの主人公の職業になったほどの人気っぷりでした。
僕はそんなのに憧れて目指したわけではないものの、未だにデザインは社会イノベーションの起点になる技術として数えられ、悪くない仕事の一つではあるものの、それは誰を助けたのか?が非常に曖昧な、極めて抽象的な仕事でもあります。
それに引き換え日本中の、いや世界中の消防士は、今日も日本中の誰かの命を救っている。エッセンシャルワーカーとしての「しょーちゃん」を始めとした『人を実際に救っている人達』に強烈に憧れを持ち始めました。
デザイナーって人の命の前では、なんと無力なことか。これは阪神淡路大震災や東日本大震災の時も、近年では台風などによる歴史的なまでの被害が起こるたびに、突きつけられる『事実』でした。
だったら被災地に出向きボランティアをすればいい、ともいえます。実際どの災害においても被災した友人のサポートは精一杯やってきたつもりです。それでも何かが起こるたび、真綿で締め付けられるような無力感は繰り返すばかりです。
警視庁警備部災害対策課Twitterがきっかけ
いつのことだったか、普段は開かないTwitterを見ていた時に警視庁警備部災害対策課が発信している防災に役立つ知恵を知りました。
あーなるほど…日本は災害大国だし、いつ次の災害が来るとも知れないし、こういうのってあったほうがいいよね、警視庁さすが!とフォローした瞬間、『これは日本だけじゃなく世界中の人を救う可能性が、0.0何%かはある!』と気づいたのです。
何と言っても日本は災害大国です。悲しいかなそんな国に暮らす僕らは災害時の知恵のようなものを蓄えています。こんな知恵は不幸にも災害に見舞われた人が、もし知っていたら助かるかもしれないような知恵まで含んでいるかもしれない。これは日本だけに留めておくべきじゃないのではないか?もっと広く知ってもらった方がいいのではないか?と思い立ったのです。
多くの人を救うならまず、日本語だけじゃダメです。基本はむしろ英語がいい。でも言葉に依存せず、見れば分かる簡潔さが大事。Twitteは言葉で説明するから長くなりがちで、一瞬で『何がをどうすればいいか』分かりにくい。これは大変だけど映像の方が数段良いはず。
さらに言えば、Twitterはアーカイブ機能が弱いから、アーカイブ性を優先するならインスタの方がいいのではないか。インスタなら一旦フォロしていけば、探しに行くのが簡単だし、映像は英語で作っても、説明は日本語や各国語でも追加できる。すぐにインスタで類似を調べてみたものの、防災に関するアカウントはあるものの、防災の知恵をまとめたものは見当たらない。だとしたらこれは僕らの仕事かも知れない…しょーちゃんの様に直接的ではないものの、僕らが自分の特技を生かして誰かを救える知恵を映像としてSNSに蓄積していく。そんなコンテンツがいつか誰かの助けになれば、それで十分ではないか。
思いついた翌日、社内で話したらデザイナーのSamが『それ僕もやりたいです』と申し出てくれました。Samが手を挙げたならもう決定です。そのほかに若手のメンバーを集めて『どこから手をつけるか?会議』が始まりました。その頃この警視庁警備部災害対策課Twitterの人気を背景に本が出版されました。ちょうどよかった、警視庁のTwitterを最初から見直す必要がなくなりました。僕らはこの本も参考にさせてもらいました。
我々の製作方針は以下のようにまとまりました。
1:映像内に長い文章をだらだら書くことはできません。
僕らは様々な防災の知恵を英語で簡潔に『〇〇は〇〇に代用できる』『〇〇の仕方』などと数種類のパターンに分けました。
2:普段から『防災』には備えなければいけませんが、普段から怯えて暮らすことは避けたいです。だから各種知恵を『ビビットに楽しく』伝えることにしました。
3:途中で学生時代に音楽をやっていた弊社デザイナー尾崎さんが加入してくれ音楽つきで編集していくことにしました。
4:警視庁警備部災害対策課で発表されているモノだけでなく、良いネタは広くから拾ったり、フォロワーからのオーダーに応える方針に変更しました。
5:製作を始めた直後、新型コロナのパンデミックが起きました。そこで感染症から身を守る知恵も追加していくことにしました。
他にも
『タオルで簡単に赤ちゃんの抱っこ紐を作る方法』
『解けにくい「本結び」の方法』
『食器の重ね方の工夫で、簡単に落下を予防できる方法』
『ツナ缶がひと工夫でキャンドルに変える方法』
『冬の避難所で新聞紙とポリ袋を使って簡易膝掛けを作る方法』
『火災の時有害な煙を吸わず、目を開けたまま避難できる方法』
などがあります。
もしよかったら、フォローしておいてください。
何の偶然か知りませんが、今日は『防災の日』だったんですね。僕らは昨年からこのBousai プロジェクトを始めていて、8月末時点で66個の映像をアップし、年内には100を目指しています。もしよかったらこの機会にフォローしておいてください。まさかとは思いますが、役に立つことがあるかもしれません。映像ができたらインスタグラムにあげて、Twitterでご報告しています。もしよかったらTwitterもフォローしておいてください。
https://www.instagram.com/bousai_project/
これらの映像制作は弊社グランドデザインの以下若手有志と、インターンで作っています。このまま生きていっても「しょーちゃん」のように誰かの命を救うことがほぼ無いメンバーでもあります。でもこれを続けることでその確率が少しでも上がったなら十分だと思っています。
Director:Sam
Designer:尾崎那由多、青木奈津子、亀田佳乃、李 茜
MOVIE:藤井花(インターン)
インターン参加:福邉美波、栗本勇詩、菊地伊織、大崎一郎、森澤敦史
最後になりましたが、出典が警視庁警備部災害対策課のものはそれを記し、映像制作のご報告をTwitterでしましたが、返事はいただけずのままであります。もしこのnoteをご覧の災害対策課の方がいらしたら、出典の許諾をいただきたく思っています。よろしくお願いいたします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?