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2D同人ゲームキャラデザ決定入門

ゲームキャラにどんな風に衣装を設定していくか、気になったことはないでしょうか?
ファッション本の中に載っていると、果てしなくゲーム制作の実用コラム臭い内容で本当にいいか疑いたくなりますが、ここ数年同人ゲーム制作をしている経験を無駄に活かそうという目的を兼ねてのコラムです。
 
2Dゲームを制作している場合、服装以前にキャラ絵としての大前提がひとつあります。
『シルエット、色をかぶらせない』もちろん意図してかぶらせる場合もありますし、学園、軍事などの制服を着ている設定のキャラが大量に出る作品の場合、服を同じにする必要がありますが、基本はこれです。
ポーズ差分を大量に持つ作品の場合は、あまり気にする必要がない時もありますが、そうでない場合は特に理由がない限り、全部の立ち絵を違うポーズにすることになります。一見して似ているポーズを使用する場合は、色を変えるべきです。
何故変える必要があるのかは、すごく似たようなキャラばかり集めてゲーム画面をでっち上げてみるとすぐ理解できると思います。
「気力と根性で何とかなるかと思ったら……予想以上に区別つかねーわ」
いやもう、同じタイプ四人くらい並べてでたらめに会話させたら、本当に区別つかないですよ。会話中の口パクが入るタイプなら、話している途中のキャラの区別はつきます。ボイスありなら尚更区別はつけやすいですが、基本は『喋る前にキャラの色とシルエットのみで個別認識させる』必要があります。
よくできたゲームキャラクターは、シルエットを塗りつぶしただけの状態でも、どのキャラクターか簡単に判別できます。
たくさん登場人物のいる人気ゲームを選んで、片っ端からシルエットのみにしてみると区別のつかないキャラがほとんどいないことに納得できると思います。
もちろん双子などのように、わざと区別がつけられないようにデザインするキャラクターもありますが、その場合もっと細心の注意を払ってデザインされています。(姉妹の私服デザインやポーズをかぶらないように設定しながら、必ず両方区別のつかないポーズ差分を用意して、入れ替わりイベントに対応するなど)
ゲームの立ち絵は、そういうハードルが存在するタイプの絵です。特定の用途のために使うので、綺麗、可愛いだけで立ち絵を設定すると、大変使い勝手のよろしくない代物に仕上がります。
 
もちろん見栄えをおろそかにしていいかというと、全く違います。ただ館山は原画家ではないので、綺麗に作れるという技術やカリスマについて語ってしまうと蓄積がなくて死にたくなってくるのでディレクションする側として押さえておくといいかなという箇所について説明します。
キャラクターの衣装というのは、現実の『その外見で、その性格の女の子』が着ているものより、数段誇張されたものです。特定の伏線、イベントなどが用意されていない限り、キャラの性格を裏切る服を着せてはいけません。
そして、服をデザインする時にはエロゲやお色気要素のあるゲームの場合には必ず『どう脱がすか』を考えておきましょう。実際にそう脱がせるかどうかはともかく着脱パーツの設定を用意します。特に婦人服については、これでもかと着脱について考えたり、打ち合わせたりしておくのが吉です。それだけで後でものすごく、ものすごーく楽になります。
特に半脱ぎ状態だとこの設定を用意しているかいないかで執筆難易度がアホほど変わります。特に萌え絵は『めちゃくちゃ可愛いけど何をどうやっても脱げない服』というのが割とあるので、成人向けやお色気シーンを設定する人は服の着脱については本気で考えておきましょう。でないと執筆中に死にます。しかも基本的に絵描きさんは『お願いしていないギミック』については考えてくれていないので、他の絵描きさんに発注する時にはこの部分も打ち合わせ、自分でキャラデザを用意する時には(特に成人向けでは絶対)着脱を考えておきましょう。本当に死にます。
話がやや脱線しました。本来は衣装の色設定について語る予定だったのです。
服の色を設定する時、いくつかの方法があります。
 
1.特定の設定に合わせた服を着用
2.キャラが着そうな服を着せる
3.キャラ立てから服を逆算する

 
1は制服、軍服、魔法少女コスチュームなど、設定上特定の服装をしているのが大前提としているので、ある意味とても難しいです。一部では「初心者は学園物を作れ」というアドバイスがあるようですが、キャラクターデザインにおいて学園物は地味にハードルが高いのです。
これは実際の制服デザイナーさんも同じことを思っているはずですが、学校の制服は小柄でも大柄でも痩せていても太っていてもある程度似合わないといけません。建前論としてはそうです。でも、架空の制服の場合はある程度は(作品によっては)目立ってキャッチーでさえあったら『メインキャラ以外が恰好よく見えないこと』は無視しても大丈夫です。
美形キャラや主役がではなく、大きな見せ場のあるキャラクターが着た時に違和感のあるデザインでなければいいのです。
例えば『学園・北斗の拳』があったとしてケンシロウとハート様が同じ学園に在籍していた時にハート様に派手な見せ場がある場合、ケンシロウだけではなく、ハート様が着ていても大丈夫な制服になっていなければいけないということです。
あと、同じ団体に男女が属していて制服が違う場合、それぞれの制服にも多少の共通性を入れておく必要があります。デザインに共通性を持たせられない場合は布地の色を同じ色、または同系色の濃淡にしましょう。それも無理なら同じエンブレムなどを着けるとそれだけで共通性が出るのでブーイングの嵐は避けられます。
それを1からデザインするということなので、みんなに着せておける制服は結構ガチで難しいです。
 
2はストーリーやキャラ設定を作る時に大抵の人が『引っかかる』部分です。もちろん「そうしてはいけない」訳ではありません。人間は大抵の場合、自分が着たい服を着ているものなので、人物のキャラ立てとして『それが正しい』と思うのは当然です。でも、これはゲームのキャラデザとしては割と高難易度の話だったりします。
何故高難易度か?
キャラの内面や背後関係に関わる独自設定というのは、最初の時点ではプレイヤーに公開されていません。その部分を『先に』出しても違和感があるのでプレイヤーが食いつかないのです。
ちなみに昔は――とかあまり言いたくないんですが、ゲームのプレイ姿勢が変わってしまったので、敢えて昔と言うことにします――もう少しキャラを判断するまでに時間をかけてくれたのですが、今はそうでもないので、後半に関する仕掛けを外見に入れ込んだ時に違和感を抱いてそのキャラを「駄目」と思って捨ててしまう人が早めに出ます。
ストーリー最優先のガジェット、パーツ以外は後半の要素より、キャラシナリオの序盤から中盤くらいをイメージしたデザインにする方が安全だと思います。
(もちろんここも例外は存在します。序盤から『ここに謎がある』とアピールしていて、それが圧倒的に成功している場合、多少の難があっても問題にならないほど絵柄、絵のうまさ、カリスマが優れている場合などの、他が至らなくても「もう少しだけ見ちゃおうかな」という要素がある場合です。そうじゃない場合は情状酌量してもらえると思うと後で自分が号泣します)
まあ、要するに「それが面白い」とあらかじめ知ってでもいない限り、序盤からイメージできることでしかプレイヤーは面白さの片鱗を気にしたりしないということです。訴えたいことの伏線を突っ込む時には、これでもかと解りやすくしても、まだ解りやすくもなかったなんてことは日常茶飯事です。
あと、絵柄によっては実在する衣装をゲームのキャラデザとして使う場合には、ほんの少しでいいので自分の作品であると認識できるアレンジを入れておくと後で大変楽になります。カッティングやシルエットで独自性を持たせるのが難しい場合、色を少し変える、独自のパーツをつけるなどを心がけるあたりから始めるといい感じです。
でも着脱はできるようにしておきましょう。
 
キャラの着たそうな服の資料を用意して、実際に着せてみた時に我に返る人がいるかも知れません。
「……何だかすごく地味に見える」
この方法で着せた時に割と出る問題はこれです。でも、実在する服を着せて地味になる理由は、端的にはひとつです。『現実の色やシルエットなどと自分の絵柄、画面とのすり合わせがされてない状態で着せてしまった』からです。
服のデザインがキャッチーでないとか色が地味とか、そういう認識より先にその服が自分のデフォルメ感覚や脳内カラーパレットに合うように調整しないといけないのです。
それ抜きでリアルな服を着せると、本当に地獄を見ます。アメコミのキャラに何も調整しないで萌え絵の服をコラージュしても、アメコミの衣装にならないのと同じです。ここをおろそかにすると地獄を見ます。地獄を見ている本人が言うのですから割と間違いないです。(現在、自分でキャラクターデザイン・原画を担当するゲームを制作中。リアルタイムで地獄を見てます)
 
そして残った項目は3の『キャラ立てから服を逆算する』のみですが、普通ゲームのキャラデザと言われて想像するのはこれだと思います。これを最後に置いたのは、言うまでもなく一番難しくてめんどくさいからですが、この発展系からしかデザインできないタイプの衣装もあるので、真面目に説明します。ちなみに発展系の方はデザインを一切やったことがないジャンルなので触れませんが、ファンタジィや、ヴィジュアル的に史実度の低い歴史物などです。あれは別のセンス、ノウハウが必要なのですが、ワタシはそっち方面をデザインする予定が一切ないのでここで終わりです。
という訳で『キャラ立てから服を逆算する』に戻ります。
まずそのキャラがどんな性格でどんな行動をするのかイメージしましょ
う。おとなしい子は事情がなければスポーティな服を身にまとうことはないですし、デコラティブな服が好きな子なら靴その他もそれに合ったデザインです。
一度その性格、その行動、その好みのキャラクターを脳内テンプレで描いてみましょう。奇をてらわなくていいので、まずはその設定のキャラのテンプレを、自分の絵柄で作るつもりでいきましょう。
キャラデザに馴染んでいないと、これが終わるだけで一苦労です。脳みそが絞りつくされた感満載です。
 
次にやることが、これまた脳みそ酷使しまくります。
デザインした全部のキャラクターを並べてみましょう。人物のデザインと服装デザインを思いきり見まくってください。他人の設定をあら探しするつもりで気合い入れて見ましょう。同じ画像ファイルに全キャラを貼って確認するのもいい感じです。
ずらっと並べて衣装デザインの統一感を見ます。この場合は、みんなスポーティにとかそういう統一感ではなく『同じ世界に存在してても大丈夫そうな』という意味の統一感です。もちろんそこを敢えて幾分か無視する必要のあるキャラクターもいますが、普通にその世界で生活するキャラの場合はあまり浮くと悲惨です。
そのへんの平凡な学生が一般人と特撮ヒーローくらい違っていたり、大河ドラマに戦国バトル系ゲームの衣装で登場した時の衝撃がないかどうかは確認しておいた方がいいです。もちろん現代日本に特撮ヒーローが出てくるという設定の話なら、ある程度浮いている必要が作品上生じますし、キャラクターデザイン担当の絵描きさんの絵柄にも左右されますが、その人の絵柄の中でシルエット、色、世界観とのバランスを調整しておいた方が絶対いいです。
もっといいのは、背景として使われる絵の中に立たせてみることです。それを確認して調整するだけで、工程の後の方でいきなり立ち絵を立たせてみて悶絶しなくて済みます。
この時点でついでにゲーム画面に立たせた時の身長差について確認、調整をしておくと後で大泣きしなくて済むのでおすすめです。
たまにキャッチーだったり可愛かったりするパーツが何故か背景と合わせた時に絶妙のギャグになってしまう時がないでもありません。笑ってしまった後で死にたくなるので、この全キャラの調整をある程度早いうちに済ませておくのは重要です。
 
あと、平均的なノベルゲームの立ち絵仕様の場合、油断すると横側、後ろ側の設定がおろそかになりがちですが、パーツがどう付いているかを最初に考えておかないと、前側だけ凝っていて残りが寂しいという、わびしさ満点の服になります。最低でも独自パーツや裾、袖口、襟くらいは全方向でイメージしましょう。
 
このくらいのことを気をつけて設定すれば、2Dゲームのキャラクターデザイン・立ち絵担当としては大丈夫のはずです。
「一枚絵(スチル・イベグラ)を描く時にはどうするの!?」「色のセンスをよくするためにはどうしろと?」「魅力的なキャラデザの仕方は!?」と、いろんな部分で書かれていない箇所はありますが、多分そのへんはシナリオライター兼何故か一作だけキャラデザ・原画をやってみた人には荷が重いので、そのへんは絵描きスキル、デザインスキルの高い人に質問してみてください。
キャラデザをやってみようという人以外には全く役立たない内容ですが、2Dゲームをプレイする時には少し違う視点で見られて楽しいかも知れません……楽しいことを祈ります。もし、同人ゲームのハイセンスな衣装デザインの評論を期待していた人がいらしたら、とりあえず走って逃げることにします。

初出 unrealyouth『ニジフク』vol.1
『2D同人ゲームキャラデザ入門』

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