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継がなくたって、家業の「もしも」を話しておこう。

家業持ちの皆さんは、親御さんと家業の将来について話し合ったことがありますか?

実は私も、家業のある家庭で育ちました。
だからこそ、家業があることで、親と子の間に気軽には踏み込めない、ある種のコミュニケーションの壁が立ちはだかっているように感じています。

今回は、私の実体験をもとに、継ぐ継がないに関わらず、家業持ちが忘れちゃいけないリスクの側面についてお話しします。

プロフィール
名前:谷野 美絵
年齢:45歳
家業:保険会社の代理店(保険募集人)
代:父親が創業者
事業継承:ない
現在:校閲者、ライター、伊和翻訳者

この記事が皆さんが家業と向き合うキッカケになれば、幸いです。

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─家業は決して良いことばかりではない!?

家業を自分ならではの方法で活かし、輝いているグラフトプレナーたち。でも、家業を持つことは常にリスクと隣り合わせであることも、決して忘れちゃいけません。

たとえば、私が体験した「リスク」は、大きく
 A. 経営に関わっていない親族だからこそ、他人事ではいられないリスク
 B. 家業持ちの自分だけでなく、周囲の人も巻き込むリスク

の2種類に分けられます。

─活字の世界で働いてきた私が、まったく異なる仕事に転職した理由

父が経営しているのは、損害保険および生命保険を扱っている保険会社の代理店。
私が小学生のとき、それまで勤めていた中古の自動車会社を辞めて、保険募集人として独立しました。
一方の私の職業は、その時々で編集者、記者、校閲者、ライター。主に書籍や雑誌、冊子の制作に携わってきました。

保険会社にも保険にもまったく縁がなかった私が、家業と真剣に向き合うようになったのは、父の老いを実感したからでした。

父は「生涯現役でいたい」と家族に宣言するほど、仕事が大好きな人です。
けれども70歳を超えた頃から、年に数回は体調を崩して病院へ担ぎ込まれるようになりました。
しだいに母、そして実家は出ていたのものの、3人兄妹で唯一の独身者である気楽さから、ことあるごとに両親に頼られていた私の危機感が、どんどん膨らんでいきました。
父自身も、自分の体の変化に不安を感じていただろうと思います。

また、父が保有している損害保険募集人という資格は、5年ごとの更新が義務化されています。
何十年も現役の保険募集人をやってきたとはいえ、父にも、ジャンルによって得意・不得意があるでしょう。
記憶力が衰えてきたなかで、何科目もある試験を受検し、それらすべてに高得点で合格しなければいけないというプレッシャーが、父の肩に重くのしかかっていたようです。

両親は口にこそ出しませんでしたが、私は、両親が私に家業を継いでほしいと望んでいることに気づいていました。
気づいていながら、気づかないふりをして、数年をやりすごしました。
そして父が75歳を迎えようという頃、その年で何回目かの検査入院中に、とうとう「私が継ぐ」と父に伝えたのです。

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─準備を進めれば進めるほど、先が見えなくなる

家業を継ぐことにあたって、準備のためにもらった猶予期間は3年
その間に、勤めていた会社は辞めました。
そして、保険業界のことを学ぶために、他社のコールセンターでオペレーターとして働きはじめました。

その一方で、今の夫であり、当時は恋人であった男性とは、結婚後の居住地やライフスタイルについて真剣に話し合いました。
家業を継ぐとなると、私は実家、あるいは実家の近辺で暮らす必要があります。
ところが彼は、私の実家がある町で暮らすことがすぐには難しい状況でした。
そこで私たちが出した結論は、結婚したら、私が実家と彼と暮らす家の2拠点で生活しよう、というものでした。

やがて約束の時期になり、いよいよ家業を手伝うために、実家へ戻りました。
そんな私を待ち受けていたのは、父から告げられた思いがけない事実。
母体である保険会社の体制が変わり、いますぐ父と一緒に働きはじめることが難しい状況になっていたのです。
父には「いま本社に掛け合って何か方法がないか検討してもらっているから、半年待ってほしい」と言われました。

その間にも、私の結婚話は進んでいます。
彼との話し合いの結果、籍を入れる前に一緒に暮らそう。結婚後の生活の予行のつもりで、2拠点生活をしてみよう、と決まりました。

父が私に「保険の仕事を継ぐことは考えなくていい」と言ってくれたのは、
彼が実家へ挨拶に来た時のことでした。

─あの時、もっとよく調べていたら・・・

こうして、私は家業を継がないことになりました。

準備に費やした期間のことを考えると、

「父がもっと早く、状況が変わったことに気づいてさえいれば、私があんな苦労をする必要はなかったのでは・・・・・・」
という思いが、未だに拭いきれません。

というのも、保険会社が現行の体制になったのは3年も前のことなのです。
これは、私が家業を継ごうと決意したのと同時期にあたります。
つまり、両親がいくら望んだところで、私が決意を固めた時にはすでに、家業を継げない状況ができあがっていたのでした。

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─私が想定していた「家業と向き合う」上での課題

家業を継ぐ準備をしていた頃の私が抱えていた課題は、主に次のようなことです。
・家業の業界について知識がない
・家業について業務経験もない

私は、スキルが足りないことを、十分に自覚していました。
家業を継ぐと決めたものの自信が持てず、保険募集人として働いている自分の姿をイメージすることができません。
不安でいっぱいになり、同じような立場の人の声を聴いてみたいと、ネットで情報を検索したりもしました。

そんな中で知ったのが、グラフトプレナーの活動です。
実際に、イベントへも何回か足を運びました。
世の中にはさまざまな家業を持つ人々がいて、私と同じような悩みを抱えつつも真摯に向き合っていることを知り、大いに勇気づけられたものです。

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─家業の「もしも」について話し合っておこう

私の場合、家業を継げなくなりそうになって初めて、「家業持ちにとっての本当のリスクとは何か」に気づきました。

それは、家業について分かったつもりでいることであったり、気づかぬふりをしていることなのかもしれません。

家業持ちとしてリスクを回避するためには、まず第一に“自分(たち)がわからないことが何なのか”をわかっておくことが大切だと思います。


親は、「わが子を心配させたくない」との思いから、実際には悩みや問題を抱えていても隠そうとするものです。疑問に思ったことは、そのままにしておかず、まずは確認することから初めてみてはいかがでしょう。

例えば、この中に思い当たる節はないでしょうか?

家業の経営が手遅れになる前に、何ができる?

家業の借入金、この先誰の責任に?

家業の今後が決まっていない今、親が倒れたら?

突然、家業を継いでくれと言われたら?

家業を取り巻く状況・環境について、日頃から目配りしておくことも必要でしょう。
この機会に「もしも」について、親御さんときちんと話し合ってみてはいかがですか?


最後までご覧いただきありがとうございます😊

本記事の内容・表現は、取材当時の"瞬間"を『家業エイド』視点で切り取らせていただいた、あくまで家業を通して皆様が紡いでいる物語の過程です。皆様にとっての「家業」そして「家業との関係性」は日々変わりゆくもの。だからこそ、かけがえのない一人一人の物語がそれを必要とする誰かに届くことを切に願っております。

運営チーム一同より

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