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徳島の酒屋さんを家業に持つ、大坂楽さん

家業があって、それを自分に合った形でサポートしたり、進化させたりしている人のことを、僕らはグラフトプレナーと呼んでいる。いったいみんな、どんな活動をして、どんな毎日を送っているんだろう。今回は、ITベンチャー企業に勤めながら、本職で培ったスキルを使って家業の酒屋さんをサポートしようと模索している、大坂楽(おおさか・らく)さんにお話を伺いました。

プロフィール
お名前 :大坂楽(おおさか・らく)
家業:徳島の酒屋さん
現在 :継がずに無理のない範囲でサポート中


小さい頃から家業が誇らしかった

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徳島県徳島市にある、全国の地酒を取り扱う酒屋さんを家業に持つ大坂さん。三代目であるお父様は、自分で育てた酒米でオリジナルの日本酒をつくるなど、小売業に止まらず幅広く活動されています。小さい頃から田植えを手伝ったり、全国の蔵元の人たちを招いたイベント『酒の会』を手伝ったりする中で、大坂さんは家業を誇らしく感じていました。

「全国でも割と有名な酒屋で、新聞や雑誌などの取材を受けることも多かったんです。そういう姿をみているとやっぱり嬉しかったですね。蔵元の人たちから『お前が継ぐんだよな』と当たり前のように言われてましたし、父親も継いで欲しいと思っているような感じがあって。高校生くらいまでは当たり前に『僕が継ぐんだろうな』と考えていました」

大学進学を機に、外の世界へ

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気持ちが変わったのは、高校生になって将来を考え始めたとき。東京の大学への進学を目指して受験勉強する中で、自分の進むべき未来がわからなくなったと言います。

「もし大学卒業後に酒屋を継ぐために徳島に戻ってくるとしたら、両親にわざわざお金を出してもらって東京の大学に行く必要あるのかなと思ってしまって。家業を継ぐことが自分にとって本当にベストなのかわからなくなってしまったんです。結局、両親も僕の選択を受け入れてくれて、その頃から自然に後継者という感じではなくなりました」

思わぬタイミングで家業と向き合うことに

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大学在学中に長期インターンとして参加した会社と縁があり、現在は新規事業部に所属しながら、プロダクトオーナーとしてキャリアを積んでいる大坂さん。やりがいを持って東京で働いているものの、新型コロナウイルス感染症の影響でご実家の酒屋さんが大変な状況になり、お父様と家業についてコミュニケーションを取るようになりました。

「顧客の9割以上が来店してお酒を購入してくださる方だったので、新型コロナウイルス感染症の影響で外出を控える方が多い今、劇的に売り上げを棄損していて。自社のオンラインショップもあるんですが、データ構造やUI、UXにかなり問題があって、SEO対策も自分たちでやるには難しい。父親も従業員の方々もインターネットに詳しくないので、売り上げが下がっていく日々を目の前にして、誰も何もできない状態だったんです。そんな状況を知って、やっぱり傍観者ではいられなくて、無理のない範囲でサポートを始めました」

ITで解決できること、できないこと

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大坂さんがまず最初に取り掛かったのは、コスト改善の提言。過去5年分の損益計算書をチェックし、経営方針を確認しながらアドバイスを行いました。その他、利酒が得意なお父様の能力を活かした定期便など、新しい取り組みの準備も進めていて、ご両親も喜んでくれていますが、東京と徳島間の物理的な距離がハードルになっているとも言います。

「オンラインサイトを早急に改善する必要があったので、Shopifyを使ってオンラインサイトを立ち上げようとしたんですが、運用を任せられる人が現地にいなくて、結局頓挫してしまって。今はただ家族を助けたいという気持ちだけで動いていますが、本職もあるので、僕が運用までやってしまうといつか絶対に無理が出てきてしまう。だからそこはやはり従業員の方に任せないといけないけれど、彼らからしてみたら、社長の息子とはいえ、急に外野から口出しされるのは心地よくないですよね。僕が彼らとコミュニケーションをほとんど取れていないことが、ネックになっています。本職をリモートに切り替えて、まとまった期間帰省してコミュニケーションを取ったり、現地でデジタルに強い方を採用するといった動きが今後必要になるかなと思います」

思わぬタイミングで家業と向き合うようになった大坂さんですが、困っている人を助けたいという想いは家業に止まらず、過去には地域の飲食店支援にも動きました。

「徳島の飲食店を支援したくて、テイクアウト可能な市内の店舗が一覧で見られるアプリをつくったんです。簡単なものだったんですけど、店舗情報をまとめたスプレッドシートをデータベースにして立ち上げて、地元の友達に拡散して使ってもらっていました。小売り業など、新型コロナウイルス感染症の影響で打撃を受けている業界に対しての当事者意識が芽生えたことは、自分の中でもおおきかったですね」

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持続可能な形で支援を続けたい

本職を大事にしながらも、自分の素直な気持ちに従って行動している大坂さん。思い描いている、これからの家業との関わり方とは?

「家業を継ぐとなれば徳島に帰らざるを得ないのですが、そうしてまた何かに縛られてしまうことが、今の自分には許容できないんです。なので、現在は酒屋を本業にしようとは思っていなくて、自分のキャリアと家業のサポート、どちらも大事にして無理のない形で続けたいと考えています。ふたつを自分の中で共存させることが第一目標で、今はその前提で何ができるかを模索しています。持続可能な形で家業を手伝えて、それが売り上げや利益の改善になるのであればすごく幸せですね」

何かを諦めたり犠牲にしたりするのではなく、あくまでも冷静に未来を見据えて、必要な支援を行っていく。誰もがかつてない規模の経済危機に直面している今、大坂さんのように持続可能な形を模索することこそ、必要とされている姿勢なのかもしれません。じっくり発酵させて長く愛される味を目指すように、焦らず、未来に視点を置いて動いてみる。そうすることで開ける扉がきっとあるはずです。

(執筆:梅本智子 / 取材・構成:出川 光)
写真提供:大坂楽様



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