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番外編: 英国家庭医療学会指導医養成講習会 Part 1

これは「大学院で学ぶ」ではなく、「英語を使って学ぶ」という番外編エントリーである。

参加の経緯

2019年11月18日から20日において、東京のフラクシア晴海にて英国家庭医療学会指導医養成講習会が開催され、この講習会に参加する機会に恵まれた。医師14年目にして、医学教育について悩ましく思うことが増えていた。特に悩ましく思っていたのは”patient-centredness”をどのように学習者に学んでもらえばよいか、ということである。現在、北海道家庭医療学センターのネットワークを通じて診療所家庭医向けのフェローシップを福岡で提供している。フェローシップには家庭医療専門医取得後の医師が学ぶものだが、そこ頃には医師の診療スタイルはほぼ一定の形に落ち着いている。例えば、病院を中心に働いてきた場合であれば、学習者の診療スタイルはそうした環境に最も順応するものに落ち着いているはずである。しかし、働く場所によって診療スタイルを変えることを求められるのが家庭医療である。診療所ではより”patient-centredness”が、患者のwell-beingを目指す上で重要になる場面が増えてくる。一度確立した診療スタイルに変更を加えるのは、なかなか難しい作業なのである。なぜ診療所でpatinet-centrednessがより重要になるかについては、下記のThe origins of Family Medicineをご覧いただきたい。

また、私が英国の家庭医療に関心をもつようになったきっかけは2つあった。1つは英国General Practitioner (GP)のlegendと呼ばれるRoger Neighbourの著作である”The Inner Consultation”というの書籍の監訳作業に関わったことである。本書は家庭医の外来診療モデルを提案するもので、私はその内容にすっかり魅了されてしまった。もう1つは英国の家庭医療専攻医の受け入れである。2018年に日本プライマリ・ケア連合学会の交流事業の一環で、1週間ほど英国家庭医療専攻医の受け入れを行った。彼にいろいろ聞いてみると、英国の家庭医療専攻医の研修評価システムはかなりしっかりしていることが感じられた。こうして私は英国の家庭医療のことをもっと知りたいという想いを募らせていった。こうした学習上のニーズと、英国家庭医療を知りたいという気持ちから、このコースに申し込むことを決めた。

英国家庭医療学会(Royal College of General Practitioner: RCGP)とは

1952年に設立された。英国ではNational Health Service(NHS)が公的保険医療を提供しており、患者はまず家庭医に受診する仕組みになっている。英国では家庭医の質の管理は国の医療全体の質の管理に直結するため、そのトレーニングも系統だっている。そうしたトレーニングの管理を行っているのが英国家庭医療学会である。英国の家庭医療制度やトレーニングの詳細は文献1に概要がまとめられているので、ぜひご参照いただきたい。

Introduction to Training the Trainers course

RCGPは海外の家庭医療指導医向けに指導医養成コースを提供しており、それが今回日本初開催となった本コースである。RCGPからは2名の講師と1名のファシリテーター兼通訳が本コースに派遣されおり、それぞれDr. Ahmed Rashid、Dr. Clare Hurle、澤憲明先生であった。澤先生は日本プライマリ・ケア学会の様々イベントでご登壇くださっていることもあり既に面識があった。このコースは原則として英語で行われるとされていたため、参加のハードルがやや高いようにも感じられたが、澤先生が通訳も兼ねて参加してくださるということだったので、一参加者として非常に心強いものがあった。

このコースから得られる効果、タイムスケジュールは以下のようなものであった。

【得られる学習成果】
1. 成人学習のプロセス、そしてファシリテーターとしての教育者の役割についての理解を深めます。
2. 学習者のニーズを理解し、創造的に教育し、専門能力開発を促進していく能力に対する、技能、知識および自信を養います。
3. 地域の教育者の自立と質の向上を目的とした、地域での教育プログラム開発を支援するための戦略が明確になります。
4. 成人学習の原則、そして、学習者と指導医自身がいかに自己省察して自己主導型の学習を展開するかについての理解を深めます。
5. 教育能力を探求し洗練させるための外来教育指導セッション(micro-teaching session)にて、フィードバックを与えかつ得ることができます。

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1日目:学習環境の構築

コース初日は英国の医療システムの概要から始まった。医療システムを知ることは、そこで必要とされる医師のあり方を知ることに繋がるため、コース全般の理解を深めるためのよいイントロダクションだったように感じた。午後から学習環境の構築(講師Dr. Hurle)について学んだ。以下、私が印象的だった項目のいくつかを簡単に紹介する。

Communication Style
指導医にも学習者にもコミュニケーションのスタイルがあり、それを意識した方が学習が促進されやすいという内容だった。後に文献3で復習したが、”the Behavioural Style Identification Matrix”とも呼ばれているようだ。コミュニケーションのスタイルはresponsiveness(理性的か感情的か)とassertiveness(言うか尋ねるか)の2軸によって、Analytical、Driver、Expressive、Amiableという4つのスタイルに大別されるとのことである。指導医が学習者のコミュニケーションスタイルに合わせることで、学習はより効率的になるとのことであった。これは自分にとって非常にしっくりくる内容であり、自施設にフェローが2名在籍しているが全く異なるコミュニケーションスタイルだったので、どのようなコミュニケーションを通じて学習を促すか振り返るきっかけとなった。この内容の詳細は文献4から得ることができるので、よかったら見てみてほしい。

Teaching Style
教え方には4つのスタイルがある。それがAuthoritarian(一方向的に教える)、Socratic(質問を通じて考えさせる)、Heuristic(答えを調べさせる)、Counseling(経験への意味付けを助ける)である。これらを学習者の熟達度やシチュエーションに応じて使い分ける必要性について学ぶことができた。

1日目を終えての感想

まず熱意ある指導医の数に圧倒された。参加者は30名ほどいたと思うが、みなより良い教育につよい関心を持っていた。そして、互いに経験のある教育者同士であることから、グループディスカッションを通じて得られる学びが非常に深いものだった。講師のDr. RashidとDr. Hurleも非常にインタラクティブにクラス運営をしており、その姿を見るだけでも学ぶことが非常にたくさんあり感動した。

さて、自分が課題に感じていたことについての一つの答えが早速見えて来た。どうやら学習者のコミュニケーションスタイルおよび自分のティーチングスタイルをマッチさせなければならないということが分かった。自分はSocratic styleを多用していたが、それは学習者の段階やコミュニケーションスタイルとあまりマッチしていないように思えたため、こちらの教え方のスタイルを変えてみようと思えるようになった。極めて大きな収穫であった。

〜Part 2 へつづく〜

参考文献
1. Roger Neighbour, 武田 裕子, 澤 憲明, 井伊 雅子, 武内 和久, 葛西 龍樹, 草場 鉄周, 丸山 泉. メインシンポジウム 英国の家庭医療制度を知り日本の家庭医療の未来を模索する. 日本プライマリ・ケア連合学会誌. 2013;36(3): 198-206.
2. R.M. Harden, Joy Crosby.AMEE Guide No 20: The good teacher is more than a lecturer - the twelve roles of the teacher, Medical Teacher. 2000;22(4):334-347, DOI: 10.1080/014215900409429
3. Mehay, R.. The Essential Handbook for GP Training and Education. London, CRC Press, 2012, p.536.
4. Chapter11. Learning & Personality Style in Practice. The Essential Handbook for GP Training and Education. [online] Available at: https://www.essentialgptrainingbook.com/ch11/ [Accessed 31 Dec. 2019].

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