ノーマル四間飛車の難しさ①
どーもこんばんは,がばなーです。
これから何回かに分けて,「ノーマル四間飛車って難しいよなぁ……」ということについて書いていきたいと思います。将棋の盤面が出てこない記事が連続していましたが,今回はガッツリでてきます。安心してください(何を?)。
ある級位者の棋譜
以下の盤面は,最近,ツイッターで見かけたもので,先手居飛車対後手ノーマル四間飛車の対抗形です。ウォーズ3級同士の戦い。便宜上,振り飛車側を手前にしています。居飛車側は最近流行りのエルモちゃんですね。
エルモ急戦は従来の船囲い急戦と比べてどう違うのか,それがアマチュアの級位者にとって気になるところですね。
この将棋を指した方も「ここから無残に負けたのだけども,エルモ急戦は船囲い急戦と同じように捌いちゃダメなのか……?」というような疑問を呈していました。まずは,その方がどう負けたのか,見ていきましょう。
上図で振り飛車側の候補手は①△54歩,②△64歩,③△12香車,④△43銀などが考えられますが,貴方はどれを選びますか?
この問題,典型的な級位者の方はそこそこの確率で④△43銀を選ぶのではないかと思います。最大の弱点である角頭を斜め棒銀で攻められるのは怖いし,まぁ,自然といえば自然ですよね。わたしも初心者のときはそうしたのではないかと思います。でも,この瞬間,四間飛車側の飛車先が止まるので,四間飛車の切り札「△45歩」の威力が弱まります。なので,この将棋の苦労はここからはじまるのです。△43銀と上がって,下図。
このあと,▲46銀,△32飛車,▲35歩と進んで下図のような陣形となります。これがまた難しい。△同歩は銀が進んでくるので論外なので,他の手を指す必要があります。ここでも振り飛車側の候補手は①△54歩,②△64歩,③△12香車の3つです。
ノーマル四間飛車対右銀急戦の定跡をよく理解している人なら,▲55銀と出られる展開を嫌って①△54歩を選ぶと思うのですが,本譜は③△12香車を選びました。それも一局でしょう。
上図から▲34歩,△同銀,▲38飛車,△45歩,▲33角成,△同飛車までは一直線で進みます。このあと,▲55銀が嫌な手ですが,本譜は▲37銀と進み,盤面は下図のようになりました。
一旦,銀を追い返すことに成功しました。ここで状況を整理してみましょう。振り飛車側は左半面を焦土作戦にして,飛車角銀桂馬をすべて捌くのが理想ですが,現状,捌けた駒は角だけです。ここでは残りの飛車,銀,桂馬のさばきを狙いに行くのが本筋だと思われます。
しかし,27の地点が空いているので,「隙あり!」と見て本譜は△27角と打ち込みました。飛車角交換が狙いですね。これにはお相手も▲22角と打ち込んで下図。
本譜はここで飛車を取ってしまうのですが,これ,何気ないようでちょっと悪い手なんです。△38角成▲同金に,自分は飛車を取られるのは嫌だと△32飛車と飛車を逃げれば,▲55角成と天王山に馬を作るのは自然ですよね。
この局面,飛車角交換にはなりましたが,相手側の飛車は捌けていて,自分の飛車は捌けていません。しかも相手陣には飛車を打ち込む隙がありません(△49飛車には▲39歩の底歩があります)。このやり取りは居飛車が一本取ったようです。
本譜はこのあと,銀を捌くために△25銀としますが,▲65角と飛車取りに打たれます。ここの応手を間違えなければ,まだ粘れたのですが,ここを間違えて桂馬を取られ,完全にゲームセットとなりました。
以下,手数は長いのですが,このあとは一方的な展開で居飛車が勝ちました。ウォーズ3級同士の戦いだったのですが,四間飛車側の方も定跡を頑張って勉強しているのだなぁと感じられる戦いでした(12香車とか飛車回りとか知らないと指せないですし)。しかし,大事なポイントの理解が浅いような気がしました。
初心者と上級者の認識のズレ~適切なアドバイスが受けられない理由~
少し脱線します。お気づきかもしれませんが,私達が知りたかったテーマとこの棋譜の流れって全然違うんですよね。
私達が知りたかったのは,「エルモ急戦は船囲い急戦と同じように捌いていいのか?」ということなんですけども,本譜は居飛車側だけ捌けてしまって,振り飛車側の駒は捌けなかったわけです。
しかし,「エルモ囲いは船囲いよりも強い」という先入観があって,この将棋を指した方はその事実を認識できなかったようなのです。囲いとしての固さはエルモのほうが確かに強いんですけども,残念ながらこのケースではそういう議論まで達していません。
これでは,他の方にアドバイスを求めても,頓珍漢な回答しか得られません。
ある方は,「12香車の1手前で45歩と突くべきだった」とアドバイスをしていましたが,これはこれで駒が捌けないので,居飛車有利500点くらいです。前回の記事と関連しますが,間違っているアドバイスというものあるんですよね。アドバイスをした方も「良かれ」と思って,アドバイスをしていると思うので,指摘しづらいんですけど。
いいアドバイスを受けるためには,問題(興味,関心のある話題と実際の盤面のズレ)を正しく認識する必要があるのではないかと思います。
四間飛車の難しいポイント「プラスの手待ち」
さて,本題に戻って,上記の棋譜から何が学べるか,考えてみましょう。
振り飛車は「捌きが大切」とよく言われるのですが,実は,うまく駒を捌くためにはその直前の「手待ち」が大事なんですよね。
さきほどの4つの候補手 ①△54歩,②△64歩,③△12香車,④△43銀のどれにも一長一短があって,その場面に応じて適切な手を選択する必要があります。
なので,例えば,以下のような形であれば,結論は全く変わってきます。
これなら,△45歩の威力が先程とは段違いですよね。これなら私も振り飛車を持ちたいです。
本譜上図のように④△43銀と上がってしまったのであれば,その次は①△54歩と突きたいところ。これは▲55銀を防ぐ意味でしたね。
△54歩には他にもメリットがあるのですが,この手の良さがちゃんと理解できた(腑に落ちた)のは私も最近のことです。ツイッターでは,「この局面で△54歩もいろいろ難しいよなぁ……」ということを言ったのですが,もうこうなっちゃったら,人間的な感覚では△54歩しかないですよね。
なお,コンピュータで解析すると,この局面で△42金という手も候補に示します。これは角交換を同金と取ろうという狙いです。でも,これは私達には指せないように思います。
良い手待ちと悪い手待ち
「手待ち」が必要になる局面では,完全にプラスの手を指すことは難しいです。ある手にはメリットとデメリットの両方があります。とはいえ,駒を往復させるような意味の乏しい手待ちをしていると,相手だけ陣形が発展していくので作戦負けになってしまいます。
なので,状況に応じて,マイナスの少ない手を選択していく必要があるんですよね。
「良い形で手待ちをし続けなくてはいけない」というのが,ノーマル四間飛車の難しいポイントだと思います。手待ちに失敗して「悪い形」になっちゃうと,あっけなく負けてしまうんですよね……。
今回の記事はここまで。次の記事では伝統的な急戦を題材に,手待ち問題について考えていきます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?