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池のはたらき

土中の水の動きがイメージできるようになってから、いろんな庭を見て回るのが好きになりました。
「水捌け(みずはけ)」の視点が備わってくると、以前は気づかなかったことが見えてくるからです。

最近気になっているのは、池のはたらきについてです。

池は庭の装飾物じゃない

ほとんどの日本庭園には池があります。鯉がゆったりと泳いでいたり、ししおどしがあったり。ちょっとした贅沢、装飾的なものというイメージをもっていました。
でも、土中の水の動きがわかるようになると、必要があって、その場所に掘られているんだな、と池が掘られた目的が見えてきます。

そもそも、水道がなかった時代は、水を得やすい場所に家を建てています。沢や湧水のある、水の近くです。
当然、そういった場所は大雨や長雨が続くと、水はけが悪くなりやすいです。

大雨、長雨があっても、建物などに水が行かないようにコントロールしたい。だから、昔の建造物は周辺の土中の水の流れをコントロールしていました。古くからある建物は、水はけをよくする工夫が見られます。

平らで水が停滞しやすい場所では、井戸や池によって、土中で水を動かしています。井戸や池は実用以外に「点穴」の効果を兼ねています。
「点穴(てんあな)」とは、穴によってできた高低差が、土中の水を動かすしくみです。点穴を掘ると、水の方向が誘導されて、水はけがよくなるのです。

水平に近い敷地は、水が停滞しやすい。穴を掘ることで高低差が生まれ、土中の水が動く

池は、一見、穴には見えません。でも見かたを変えると、表面積が広い点穴といえます。高低差を作って水を誘導しているので、点穴としてのはたらきがあるのです。
池の広さによって大きな体積の水を誘導できるので、水はけをよくするはたらきも大きいです。

池は敷地の上流側(山側)につくられる。
池に水が引き寄せられることで、建物に水が向かわない。

池はどこにあるのか

それでは、池はどんなところにあるでしょうか。

古くからある大きな寺院などを観察すると、わかりやすいです。
池は、敷地の上流側(山側)か庭の真ん中あたりにあることが多いです。京都のお寺を見てみると、ほとんどが敷地の山側、もしくは建物と同じ高さにあります。

京都・知恩院の略地図。池は、敷地の山側、建物の横にあります


ちなみに川の源流から海を模してデザインされた日本庭園の池は、例外です。それは点穴としての機能を期待していない池です。

ちなみに井戸は、敷地の下流側(谷側)が多いです。

古民家には池がある

ここは奥多摩にある古民家です。代々神事に関する仕事をしている方の家です。

黄色部分が家。敷地をはさむように水脈がある。

近くに沢水の汲み場がある、水が豊富に出る場所です。水が手に入りやすい場所なので、住まいとしては一等地です。池で溜めた水を水平の溝(水路)で敷地外へ流している。

裏は崖(茶色線)になっている。建物から水が離れるように、上流(山側)に池がある。
池によって、建物から離れた方向へと水を動かしている。

メンテナンスは必要

池もメンテナンスが必要です。池の底に泥が堆積すると、泥の粒子が水の浸透をじゃまするので、池の中の水循環がなくなってしまうからです。
池の中でも、ゆっくりと水が循環して入れ替わることが大事です。池の水がしみ込まなくなると、引き寄せるチカラが弱まり、水が誘導されにくくなります。
この古民家のお宅でも、数年おきに水を抜いて泥を掻きだす作業をするそうです。

泥を掻きだすメンテナンスがされないと、水が循環しなくなり、周辺がぬかるんだりしてきます。

忘れられた池の働き

池のはたらきがわからないと、「池はいらない。魚を飼うわけでもないし」「駐車スペースが必要だから」などといって、埋めてしまいやすいです。

でも埋めたとたんに、それまで池に誘導されていた水の行き場がなくなってしまいます。そのために周辺がぐずぐずにしめっぼくなったりします。

先日も、水はけが悪いという古民家を見に行って、「このあたりに池があるといいのにね」と言うと、「ここに昔、池があったんですよ」なんてことがありました。

昔はどこでも普通にやっていたことなんでしょうけどね。ほんとに昔の知恵ってすごいなぁとこんなときに思うのです。

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