自立とは自立しないこと。
~はじめに~
児童養護施設にはどんな子ども達が入所しているか知ってますか?
ここには、主に親から虐待を受けた子ども達が保護されています。
よく耳にする「施設あがり」とはこの場所を指し、以前は孤児院と呼ばれていました。
何ヵ所か回っている中で感じたものがあります。
言語化できない何かを求めている。
ある子は、人一倍スキンシップを求めてきます。
ある子は、夜になると寂しくなります。
ある子は、話したいけどうつむいています。
私もまた、言語化できない何かを感じました。
一人でも関心を持っていただければ幸いです。
~児童福祉施設~
全国の子ども約1500万人程のなかに、社会的養護が必要とされている子どもは約45,000人程いると言われています。
この子ども達を保護するのが児童福祉施設です。
児童福祉法に定める児童福祉施設の一つに児童養護施設があります。
その他には、
(助産施設)
経済的理由により、入院助産を受けることができない妊産婦を入所させて、助産を受けさせることを目的とする施設。
(乳児院)
乳児を入院させてこれを養育し、あわせて退院した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設。
(母子生活支援施設)
母子家庭の母と子(児童)を入所させて、これらの者を保護するとともに、これらの者の自立の促進のためにその生活を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設。
(児童厚生施設)
児童遊園、児童館等児童に健全な遊びを与えて、その健康を増進し、又は情繰をゆたかにすることを目的とする施設。
(障害児入所施設)
障害児を入所させて、支援を行うことを目的とする施設。
(児童発達支援センター)
障害児を日々保護者の下から通わせて、支援を提供することを目的とする施設。
(児童心理治療施設)
家庭環境、学校における交友関係その他の環境上の理由により社会生活への適応が困難となった児童を、短期間、入所させ、又は保護者の下から通わせて、社会生活に適応するために必要な心理に関する治療及び生活指導を主として行い、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設。
(児童自立支援施設)
不良行為をし、又はするおそれのある児童などを入所させて、必要な指導を行い、その自立を支援する施設。(旧感化院や教護院)
(児童家庭支援センター)
地域の児童の福祉に関する各般の問題につき、児童、母子家庭その他の家庭、地域住民その他からの相談に応じ、必要な助言、指導を行い、あわせて児童相談所、児童福祉施設等との連絡調整その他厚生労働省令の定める援助を総合的に行うことを目的とする施設。
(児童養護施設)
保護者のない児童、虐待されている児童など、環境上養護を要する児童を入所させ、これを養護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設を指します。
~児童養護施設について~
児童相談所長の判断に基づき、都道府県知事が入所措置を決定し、その後、親代わりとなる養育者(施設職員や里親)のもとで生活をします。
児童養護施設 59%
その他児童福祉施設 26%
里親・ファミリーホーム 15%
(入所対象者)
1歳以上18歳未満の幼児
→満1歳こら小学校就学の始期に達するまでの者
少年
→小学校就学の始期から満18歳に達するまでの者
※場合によっては20歳まで延長。
※乳児(1歳未満の者)は乳児院への入所。
(歴史)
593年 聖徳太子が悲田院を設立。
1879年 東京に福田会育児院の設立。
1887年 石井十次が岡山孤児院を設立。
1947年 児童福祉法の制定(1948年施行)
孤児院という名称を養護施設に改称。
1997年 児童福祉法の改正(1998年施行)
名称を児童養護施設に改称。
(厚生労働省調査報告)
・社会福祉施設等調査 2014年10月1日現在
児童養護施設 590施設
入所定員 33,008人
在所児者数 27,468人(在所率83.2%)
職員数 16,672人(児童指導員や保育士等)
・児童養護施設入所児童等調査 2013年2月1日現在
入所児童平均年齢 11.2歳
平均入所期間 4.9年
2016年度総施設数 615(公立/37 私立/578)
2022年に厚生労働省は原則18歳までとしている自立支援の年齢制限を撤廃する方針を決めました。
つまり、18歳以降も強制退所という決まりはなくなったということです。
~施設取り巻く外部環境~
(相談件数)
2020年度児童虐待相談件数 205,044件
月別相談件数(一番高い月) 24,650件/3月
(相談内容)
心理的虐待 121,344件
身体的虐待 50,035件
ネグレクト 31430件
性的虐待 2,245件
(相談連絡経路)
警察 103,625件
近隣 27,641件
家族 16,765件(親族含む)
学校 14,646件(幼稚園、教育委員会含む)
(死亡報告)
虐待による死亡 78人
・心中以外 57人
→0歳児/49.1%(0か月児/39.3%)
・心中 21人
→「予期しない妊娠/計画していない妊娠
「妊婦健康診査未受診」 35.1%
→「遺棄」 31.6%
→「母子健康手帳の未発行」 26.3%
(行政の経緯)
平成6年 国連「子どもの権利条約」に批准
→世界で158番目
平成12年 「児童虐待防止」制定
平成16年 専門委員会の設置
平成28年 「子どもの権利」が児童福祉法に明記
令和元年 改正(児童権利擁護に関する)
・親権者等による体罰の禁止を法定化
・「介入者」と「保護者支援者」を分離
・児童相談所に医師や保健師を必置
~4つの「子どもの権利」~
平成28年に児童福祉法に明記された「子どもの権利」の詳細についてです。
①生きる権利
すべての子どもの命が守られること
②育つ権利
もって生まれた能力を十分に伸ばして成長できるよう、医療や教育、生活への支援などを受け、友だちと遊んだりすること
③守られる権利
暴力や搾取、有害な労働などから守られること
④参加する権利
自由に意見を表したり、団体を作ったりできること
~巣立ち~
高校卒業後、基本的には施設から退所となります。
年齢制限撤廃の方針は固まりましたが、実際どのような影響があるかは未知数です。
いずれにしても、彼らに実家がないことは事実で、何があっても自分でしなければなりません。
おおよそ6割が就職、3割が進学しますが、その多くが中退や離職をします。
奨学金制度、貸付金制度、児童手当など、ここ数年で補助金は手厚くなりましたが、22歳を超えると、これらの支援の大半がなくなります。
施設には、アフターケアが義務付けられていますが、その質にはかなりのばらつきがあり、子どもたちも施設職員の忙しさを知っているため、なかなか自ら声をあげることができないのです。
つまり、退所後のケアが非常に重要な課題なのです。
~心の傷~
絶えず暴力や暴言を受けるなどの不適切な環境におかれていた子どもたちは、大きなトラウマを抱えています。
多くは、自己肯定感の低さです。
大切な存在として扱われてこなかったため、ありのままの自分を大切に思うことができないのです。
自分の意思や希望を尊重された経験がなければ、自由に将来の夢を描いたり、目標を持ったりすることができなくなります。
子どもたちが受けてきた、暴力や暴言などの理不尽な扱いは、「心」に大きな影響を及ぼします。
自傷行為を繰り返す子、生きることに意味を見出せず自死を選ぶ子、ギャンブルやアルコールに依存する子、お金で優しくしてくれる異性を求める子などがいます。
心の傷が癒されなければ、その後の人生まで支配されてしまうのです。
~何ができるのか~
こうして現状を整理しながら、私にできることは何かあるのかなと考えていました。
この子達の人生はおおよそ以下のように説明できるかと思われます。
①虐待を受けている時期。(とにかく辛い)
②施設で保護されている時期。(自己肯定を育む)
③巣立つ時期。(支援のある準備期間)
④一人立ちする時期。(支援が少なくなり自立)
一貫して言えることは、愛情の有無、愛情の形、そういったものなのかなと感じています。
そう考えた時に、ボウルビィの愛着理論がこの子達にかなり遅れて訪れている感覚なのかなって思いました。
つまり、スタートが少し遅れてしまったんです。
ボウルビィ愛着理論について
だから、大切なことは、
・この子達は、いまどこに位置しているのか。
・この子達は、どうしたら階段をのぼれるか。
・この子達は、ゴールを急がなくていい。
重要なことは、
・大人は、話をきくこと。
・大人は、一緒に階段をのぼること。
・大人は、手を引っ張らないこと。
私にできることは、多分、愛情という名の階段を与えることなんだと思います。
その階段となるのが、体験であったり、関係性であったり、そこから得る成功や失敗、そういった苦楽をともにできるイベントを大人と子どもで一緒につくることなんだと思います。
そうやって、この子達に夢や希望を持ってもらいたいんです。
そして何より①をそもそも減らさなければならないと感じています。
極論、児童福祉施設など不要になる世界が世の中の本来のヴィジョンだと思います。
そこの解決策は、まだ私自身が未熟なので分からないけど、じっくり時間をかけて見つけていきたいと思います。
~最後に~
正直、世の中は理不尽だと思います。
正直、世の中は不公平だと思います。
正直、大人は偽善者だと思います。
正直、憧れる大人なんかいません。
他人に嫉妬し、他人を妬み、承認されないと誹謗し、中傷し、隠蔽し、事無かれ主義です。
臭いものには蓋をします。
出る杭は打たれます。
世間は、大切なことは「人」「人間性」といいます。
でも、私はそうは思いません。
大切なことはそれらの摩擦、つまり、人と人との間にある「関係性」なんだと思います。
その関係性が人格形成に一番必要なんだと。
そして、重要なことは、その間に何をしかけるかだと思います。
世の中をよくしたいのなら、爆弾しかけたらダメですよね。
愛情とか思いやりとか寄り添いとか、いつか感動に繋がりそうなものをしかけたいと思います。
それをそっと置いていける人、子ども達にとって、そんな大人でありたいと、強く感じています。
そんな思いがあり、この業界に踏み込むことにしたわけです。
そして、聞かれます。
あなたが目指す「子ども達にとっての自立」とは何ですか?
それは、つきつめると、
ある意味「自立しないこと」ではないでしょうか?
周りに支えてもらいながら立つこと、周りを支えて立たせること、そういった自助共助公助、そうゆうものなのかなと。
つまり、「助けて」と言えることなんじゃないのかなって思うんです。
まだまだ答えは分からないけど、そんな関係性を子ども達と築き上げていけたら、世の中少しは良くなるんじゃないかな、そう思います。
そして、どうか気づいてほしい。
『世の中は捨てたもんじゃない。』
『人生は誰でもいつでもやり直せる。』
『可能不可能ではない、するかしないかだ。』
これからも、皆様の変わらぬご支援を何卒お願いいたします。
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