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シリーズ・海外おとぼけ体験6〜ペンギンの檻の前で

アントワープ中央駅の裏手にアントワープ動物園がある。そこのペンギンの檻の前で僕はゴミ箱に頭を突っ込み、んげーっとマーライオンしていた。10月の天気のいい休日に響くダークな鳴咽に来園客が振り返った。このアジア人にいったい何があったと言うのだろう⁈

7月に着任してからしばし一人異国の地での生活が続いたが、やっと家族がやって来ることになった。海外赴任の常だが、旦那が先に赴き、生活の基礎を作ってから家族を呼ぶと言うのが現実的なのだ。しかし、僕は家族と一緒に行きたかったので、ベルギー大使館に出向いて手続きを済ませていたにも関わらず、土壇場になって、同僚らに心配され、結局、通例に従うことにした。

この動物園のエピソードの前に家族が来ると言うので一人用のStudioから家族も一緒に住める場所を探した時のドボチョン=おとぼけの体験もあるのだか、それは次回にでも。

やって来た家族はカミさんと3歳になったばかりの息子。Welcome to Antwerpen!と言う感じでジモティ感を出そうとアントワープ運河近くの市庁舎のある広場付近に繰り出した。いまでこそベルギーもチョコレートだけでないポピュラリティーを獲得していると思うけど、1990年頃は誰も行ったことのないマイナーなおとぎの国だったはず。市庁舎、教会(フランダースの犬で知られる絵画がある)、立ち並ぶレストラン、運河、ドック…家族にとっては初のヨーロッパ、見るものすべて新鮮だったと思う。

ベルギーと言えばムール貝。ムール貝のワイン蒸し!付け合わせはフレンチフライ、そして濃いベルギービール。それも強いTripelじゃないと!と先輩風を吹かしながら注文する。カミさんは貝が好きだったからやっぱこれ、食べないと!

ムール貝のワイン蒸しはバケツで出て来る。One for each、ひとりひとバケツ。うんざりするほどの現地仕様。量がすごい。最初に一個食べたらその貝殻をトング代わりにして挟んで食べるのが通だ、とか講釈を垂れながら、ビールを飲みつつ食べ進めた。

もう苦しいと言うくらい食べて、じゃぁ、動物園でも行こうか。なかなかいいんだぜ、となった。入園して、数々の動物に喜ぶ息子。ベルギー人に混じって人生初の大冒険だ。

いろいろ見て回る内に、僕は、なんかトイレに行きたいような、こみ上げて来るようないやな気持ちになって来た。ヤバい。これは。出そうだ。どうしたらいいんだ⁈

カミさんに小声で、気持ち悪い。戻しそうだ…と告白したら、出しちゃえば?と軽い返事をして、息子と一緒にペンギンを見て歓声を上げている。ああ、まったくその通りだと思ったものの、どこに出せばいいのだ⁈⁈

見回すと、ゴミ箱があった!細長い木材を束ねた樽のようなあのタイプだ。これだ。一刻を争う格好になり、いてもたってもいられず、頭から突っ込む!!ん、げぇーっ!!ぐえっぐえっ!!リピート!

出すものを出すとすっきりするものだ。すっかり元気になり気を取り直して動物園を楽しんだ。しかし、ゴキブリを展示してるのにはびっくりした。アフリカの昆虫だかに混じって。

あとで、このズッコケ話を同僚にしたら、そりゃやっちゃいけない食べ合わせだと言われた。どれもヘヴィで胃に負担がかかる。まして着任後の疲れた身体にはご法度だと。のちに、出張者でも同じ目にあった人がいて、その人の場合、夜中にホテルで目が覚めて、ベッドに上半身を起き上がらせたまま、こみ上げる思いをシーツをぐーっと握り締め歯を食い縛り、鎮まるのを待ったらしい。僕はそれ以降、ムール貝がトラウマになってしまった。



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