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徒然草とスティーブ・ジョブズ

13年前(2011-08-26)に故スティーブ・ジョブズがアップルのCEOを退任したときのブログエントリーの再掲です。これは昭和の批評家である小林秀雄の「徒然草」をもとにスティーブ・ジョブズのについて綴った随筆となります。


「よき細工は、少し鈍き刀を使ふといふ。妙観が刀はいたく立たず。」

彼は利きすぎる腕と鈍い刀の必要とを痛感している自分のことを言っているのである。物が見えすぎる眼をいかに御したらいいか、これが徒然草の文体の精髄(せいずい)である。

(小林秀雄著・「徒然草」より)

これは小林秀雄が、あの吉田兼好を評した文章の引用である。

この兼好のような利き過ぎる目を持った、インターネット産業界に最も影響力のあるカリスマ・アントレプレナーが昨日第一線を退いた。

彼はこの30年あまり常に革命的な製品で新たなる世界を創り続けた。ここ30年多くのテクノロジー・ブレークスルーを乗り越えて成長を続けてきたコンシューマー・エレクトロニクスとインターネット産業、その時々の成長過程で起こりうる環境の変化と実現できる世界が常に彼には見えていた。いや、見えすぎていたのである。

その見えすぎる目を御することができず、若い頃には失敗もし一時第一線を退いたが。復帰後は見えすぎる目を御することのできる鈍い刀を利用する方法を覚えたのだろう。世に送り出す製品のほとんどが大ヒットしたのである。

世界はどう変わるのか? いや、どう変えるか?

おそらく彼の頭の中はつねにそのテーマで一杯だったのではないか。考えに考え抜き、それを時間をかけて実現し、ここぞというタイミングで世に送り出したのである。しかも、だれもが驚くような芸術的なプロダクトに仕立て上げて。

メディアなどでは彼を評するときエバンジェリストというコンテキスト共に語られることが多いが、5年後、10年後の世界のビジョンや世界観を語ったビジョナリストやエバンジェリストではない。彼は正真正銘の革命家であった。

ミスター スティーブ・ジョブズ。もうあなたの作品を手にできないと思うと本当に寂しい。

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