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このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない その15.

『増価主義』

城先生との契約期間は、過ぎた。
第一回目の記念すべき事業計画書は実現することなく今も 私のデスクのなかに眠っている。
城先生とは、それ以来20年間、一度もお会いしていないが、 先生に教えていただいて今も大切にしている言葉に 「増価主義」というのがある。

あれはたしか、建築家やホテル経営者など何人かで ヨーロッパのホテルクリニックツアーに 出かけたときのことだったと思う。
「サンジャンキャップフェラ」などコートダジュールのホテルを ジャパンマネーがまだ買い占めていた頃だった。
「サンマルタン」という瀟洒なホテルのレストランでの ツアー最後の講演のなかで先生が話された。

「富士屋ホテルの山口祐司社長が 最近、こういうことを言われています。 ホテルは、開業したときが会計学上は最も価値のある時で、 年々、その価値は減価されていくと考えられていますが、 これからの日本のホテル経営者は そのように考えてはいけません。 年を経るに従って、 価値を増すようなホテルを造らなくてはなりませんし、 その方向への努力をしなければいけません。 今回、ツアーで拝見したホテルは古い施設が多かったのですが、 山口社長の言われているような努力を それぞれのオーナーがなされているのだと思います。 どうか皆さんもそれぞれのお立場で、 この言葉を吟味いただければと思います」

私は、このツアーで歓待してくださった ホテルオーナーたちの姿が今でも目に焼き付いている。
時を経るにしたがって価値を増してきたなと思える風景のひとつに 邪宗門の窓外の景色がある。
東シナ海に向かって開かれた 五足のくつのヴィラABの個室レストランである。
窓外の景色を緑いっぱいにするのに10年かかった。  
五足のくつのメインの建物、コレジオ。
山の中の一軒家の風情にするのに10年かかった。
オープンして13年目の今年、やっと自分が思い描いていた姿になりつつある。    

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