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また今度いらしたときは、ぜひごはん食べてってください

夕方までだらりと過ごす。日記を書いたり、申し訳程度に部屋の掃除したり。その後、初めての定食屋で、遅めの昼食を食べる。お店は家族経営らしい。夕方の中途半端な時間帯にも関わらず、調理場を囲むカウンター席はほぼ満員。活気がある。

奥の席に案内される。二人で定食を一人前ずつ注文しようとするが、もうすぐ閉店時間だったためか、お米のごはんがあと一人前しか用意できないという。レバニラ炒め定食と焼きそばを一人前ずつ、小鉢の肉豆腐を一品注文する。

料理を待つ間、ちゃきちゃきした若い店員が、食事の終わった常連客に対し、西瓜食べていきますか?と声を掛ける。大皿の上には、薄目に切られた赤い西瓜が並べてある。常連客は微笑みながら、もうお腹一杯なのでまた今度、と断る。店員は、今度はもうないですよ! と笑顔で返す。常連客は声も出さすに静かに笑って、引き戸を開けて店を出る。この店は明日から一週間、休業の予定。お盆休みか。最後、年配の店主が、去ろうとする常連客の背中に向かって、営業再開したら、また来てくださいね!と威勢よく叫ぶ。

しばらくして、こんもりと盛られたレバニラ炒めの皿が、私たちの目の前にどん、と差し出される。店員はからっとした明るい声で、余った具材使い切りたかったので、二人分作っちゃいました、食べきれなかったら、好きに残してくださいと言う。それと、甘辛い汁がたっぷりしみ込んだ肉豆腐、屋台のように味の濃いソース焼きそば。テーブルの隅には、食べ放題のきゅうりのきゅうちゃんが瓶に詰めてある。奥さんと二人で料理を共有しながら、交互にごはんをかきこむ。箸が止まらない。旨い旨いと呟きながら、むしゃむしゃ食べる。食べて、元気になる。会計時、店主が「ごはんが無くてすみませんね。また今度いらしたときは、ぜひごはん食べてってください」と申し訳なさそうに言うので、いえいえとんでもないです、と返す。私たちが最後の客だった。お盆前の最後の店の営業が終わる。腹ごなしも兼ねて、いつもと異なる道を散歩しながら帰宅した。

夜、ジム。ヴァージニア・ウルフの『波』の続き。登場人物たちの独白が、急に思弁的になる。あまり興が乗らず。頁の上の文字をするすると滑るように追いかけて読む。

ジムから戻ったあと、Amazon Primeで映画『ノクターナル・アニマルズ』を奥さんと一緒に視聴する。

スーザン(エイミー・アダムス)はアートギャラリーのオーナー。夫ハットン(アーミー・ハマー)とともに経済的には恵まれながらも心は満たされない生活を送っていた。ある週末、20年前に離婚した元夫のエドワード(ジェイク・ギレンホール)から、彼が書いた小説「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」が送られてくる。<中略>

彼女に捧げられたその小説は暴力的で衝撃的な内容だった。精神的弱さを軽蔑していたはずの元夫の送ってきた小説の中に、それまで触れたことのない非凡な才能を読み取り、再会を望むようになるスーザン。彼はなぜ小説を送ってきたのか。それはまだ残る愛なのか、それとも復讐なのか――。

公式サイトより抜粋

劇中劇として展開される元夫の小説の内容が本当に暴力的で衝撃的なので、これはフィクションだから大丈夫、フィクションだから本気になるなよ、フィクションだよフィクション! と何度も自分に言い聞かせる。フラナリー・オコナ―の短編小説『善人はなかなかいない』のような話だな、と思うとまさにそのような展開になって、大変に後味が悪い。見渡す限りに広がる荒野を、朝焼けが静かに照らす。主人公の絶望などまるで関知しないテキサスの自然は、無情にも美しい。この映画は、全体的に美しいカットが多くて心憎い。やがて、この暴力的な小説の内容が、元夫と主人公の間で実際におきた過去の出来事を暗示しているらしいことが徐々に分かり、もっと厭な気分になる。素晴らしい。

最初から最後まで緊張感があって、面白い映画だった。私の奥さんは、元夫に対して「全く同情できない」と言う。小説の主人公の男の弱さは、素直に解釈すれば、著者である元夫自身を投影しているのだろうけれど、傍目にはスーザン自身の弱さと重なるところもあって、結局、似た者同士の二人だったのではないかと思ったりした。目の背きたくなる現実を、物語に昇華する。そうやって初めて現実と向き合えるようになる。この映画からは、そういうテーマも読みとることができる。その点は、映画『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』のようでもある。

映画の考察ブログをいくつか読みながら、眠りにつく。

夕方、トップに並んだSmartNewsの記事。

・首なし胴体に続き、脚なし下半身 滋賀、死後数日か(京都新聞)
・ホライゾン航空のQ400、従業員が無許可で離陸させ墜落(Aviation Wire)
・【巨人】延長12回引き分け…広島戦経過(スポーツ報知)

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