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迷路

夕方、路地裏を散歩する。路上のコンクリートに白墨で描かれた矢印の連続を見つける。→→→だ…。矢印の先を辿ってみると、行き着いた先は稲荷神社だった。

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マーク・マンダースの《調査のため居住(2007年8月15日)》を東京都現代美術館で目にしたとき、懐かしい気分になった。筆記用具でこしらえた部屋の間取り図。

幼い頃、似たような遊びをした気がする。自分だけの妄想の部屋を想像し、その間取りを地面に白墨で書きつける。指先の白い粉塵の感触まで蘇る。

そんな記憶があった。あったような気がして懐かしんだ。しかし実際には、そんなことをした記憶はなかった。偽の思い出だ、と途中で気が付いたが、懐かしい気分はしばらく消えなかった。

夕暮れ近くの日なたと日陰に、石蹴りのチョークの線。
 その遊びは古代、迷路を象徴していた。人が小さな平たい白い石を、すなわちおのれの魂を、出口に向けて蹴る迷路。雲なき空をその消失点として。

チャールズ・シミック(著),柴田元幸(訳)『コーネルの箱』文藝春秋,P.83 

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