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「史上最悪のインフルエンザ」を読んでみた

先週から表題の本を読んでいる。

歴史学者であるアルフレッド・W.クロスビーという人が書いた本。

1918年に猛威を振るったスパニッシュインフルエンザに関して、様々な記録を元に検証している。

元々この本を知ったのは、「科学の栞」(瀬名秀明/著)を読んだ事がきっかけ。

「科学の栞」は科学や生物学に関するオススメ本を主に小中学生、高校生に紹介していて、「史上最悪のインフルエンザ」もここに含まれていた。
瀬名さんのお父様はインフルエンザの研究者であることから、情熱をもって本を紹介しているように思えたので、図書館で借りてみることにした。

図書館で本を受け取ったとき、「これは下手したら、大人でも読み切れないよな」と思わせる本の分厚さにくらっときた。ただし幸いなことに期限延長ができたので、約1ヶ月ほどかけて何とか読み終える事ができた。

ここからは個人的なポイントを挙げていく。


人の移動により、スパニッシュインフルエンザの感染が広がってしまう

1918年頃は第一次世界大戦の最中。軍による敵地への移動だけでなく、訓練を目的とした集団生活を送る中で感染者が続出する。さらに民間レベルでも家族間感染などが発生し、さらにどんどん範囲を広げていく現実が書かれている。この本を読むと「GO TOキャンペーンほんとに大丈夫かな?」と思ってしまう。経済を早く建て直さなければいけない現実は理解しているけど。


世界各国で感染が広がっていく。

この本では主にアメリカを中心に、スパニッシュインフルエンザが爆発的に全世界に広がっている様が記載されている。アメリカ全土、ヨーロッパ、ロシア、アラスカ、オセアニア、もちろん日本も例外ではない。地理的、文化的に閉じられている国を除いて、瞬く間にウィルスが広がっていくさまは恐怖を感じざるを得ない。特に犠牲者となった方々の埋葬が間に合わないエピソードが繰り返し出てくると、重症化した場合のリスクを考えてしまう。


スパニッシュインフルエンザはコンディションに影響を与え、更に政治的判断も変える?

本の中ではアメリカの当時の大統領、ウィルソン大統領がパリ講和条約に向けて、各国、そして自身の側近たちと意見を戦わせていた。しかし、ウィルドン大統領が、スパニッシュインフルエンザに感染したことを機に、異変が生じてしまうエピソードが書かれている。断言はできなけれど、重篤な病気がリーダーの判断に影響を与えうる事があるんだな、と感じたシーン。


適切なリーダーシップの有無によって明暗が分かれる事もある

第12章に同じ国内でも地域によっては、感染が爆発的に広がってしまうか、抑えられるかが分かれるケースかに分かれる事が書かれている。

その地域のリーダーが適切な指示を適切なタイミングで出した場合は、感染が抑えられた事が述べられている。特に行政が機能しなくなった場合にその傾向は強くなり、スパニッシュインフルエンザの感染が防げなかったとしても大きな被害を防ぐ事ができるようだ。これって感染症だけでなく、社会一般、特に会社社会でも同様かもしれない。


何がスパニッシュインフルエンザを引き起こしたか、検証には困難を極めた

今でこそワクチンが作られたりできるようになったが、このスパニッシュインフルエンザを引き起こした原因がなかなか解明されず、困難を極めた事が終盤に書かれている。有力な説はたくさん出たものの、決定打にかけてしまい、最終的な結論は出ていないようだ。でもここでの奮闘が少なからず未来につながっていくという事も、ちゃんと書かれている。


沢山の人の命を奪った病気なのに、別の大きな出来事があると埋もれてしまう

先に述べたとおり、スパニッシュインフルエンザの流行期は、第一次世界大戦と重なっている。また、当時の正確な記録が残されていないケースが見られたせいか、スパニッシュインフルエンザの全容が完全に明らかになっていない。

しかし一方で、この病気の犠牲者は、まとめられた統計値より多い可能性が示唆されており、また第一次世界大戦の戦死者より多い。感染者や死者の数を思うと、多く騒がれるべき出来事なのに、スパニッシュインフルエンザについて、深く考察された本は少なく、またこの時期を描いた小説などにも、スパニッシュインフルエンザの記載はほとんど出てこない。筆者はこのことを「忘却」と読んで嘆いている。



最後に:こんな時期だからこそ読んで欲しい。

コロナの流行が下り坂、と言われつつあるが、まだまだ感染者は出ているし、これからさらに寒くなると、インフルエンザシーズンに突入する。

気をつけるべきポイントはこれからも変わらないけれど、過去の歴史にはこんなこともあるんだ、と再確認することには価値があると思うので、興味がある方は是非読んで欲しい。

因みに、この本は、先日出かけた大手町の丸善で平積みされて売られていた。「ペスト」がバカ売れしている話は聞いた事があるけれど、この本に注目している人もやっぱりいるんだな。




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