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6月読書感想文:私の家/青山七恵先生

家族だけど、分かりあえないこと。
家族だから、分かってほしかったこと。
家族だから、ゆるせなかったこと。
家族だから、ついしてしまったこと。

誰もが、そんな後悔や苦い痛みをもって今日という毎日を過ごしてるんだろう。

『家』を題材にして、親子3代にわたって描かれるストーリー。
ひとつずつ視点が変わり、家にまつわる思いや思い出について話が掘り下げられている。
(※ここからは軽くネタバレが含まれます)

○○○


祖母の法事で地元に戻った、次女の梓の視点から話はスタートする。
そこから、母や姉や父、そしてその法事で会った大叔母が一人称となった話が続く連作短編集。

Aさんの視点からは、Bさんのことはこういう風に見えていたけど、実際Bさんはどう思っていたのかとか、それを見ていたCさんは…とかがゆるくつながっていくところが面白かった。
だけど、このときの話は娘の梓の視点からだったけど、次の話では世代が変わってたり
時代をいったりきたりするので
最初登場人物を覚えるまでは少し難しかった。

そして、家族の絆やほのぼのファミリー話を求める方にはこの本はオススメできない。
あくまでも人生は、良いことも悪いことも地続きで繋がっているという価値観を好む方には面白いと思う。

梓からみた母の祥子は、とてもパワフルで、お節介。良く言えば情に厚いけど、何事も自分でコントロールしたい(人の行動さえも)んだなと思わせるところがある。

"おかん"と聞いたときにあ~ちょっと鬱陶しいなと思っちゃうようなイメージの人物像。
正しいこと言ってるけど、ちょっと今はほっといて!と言いたくなるような感じの。

梓の視点を借りて祥子をみてると、ポジティブな人で悩みがないかのように思うけど、
祥子の子どものころの話を読むと、
ああっ抱きしめてあげたい!と思う。

そしてそのときの話を、祥子の兄の博和の視点で読み進めるので、実際には祥子がそのときどう考えていたのかが分からない。
だけど次にこの話を読んでみると、きっとこう思っていたんだろうなと想像できるところが、この本の読みどころだと思う。

  ○○○

昔、母は母という人だという認識しかなかった。
幼稚園や小学校から帰ってきた私達を迎えてくれて、おやつを出してくれて、宿題を終わらせなさいと促し、ご飯をつくってくれ、お風呂に入れてくれ、眠るのを見守ってくれる。

母は母親だけしているのではなく、母にも母だけの人生があると気づくことができたのはいつからだろう。

梓は、祖母の法事をきっかけに地元に帰ってきたけど、そのまま家に帰らず実家に居座り続ける。
実家に戻って最初の方はお客様扱いだけど、しばらく経つと娘モードに切り替わり、なんやかんや口うるさくなってくる。

そうすると昔に戻った感じに思えるけど、決してそうじゃない。

私が良いなぁ、共感できるなぁと思ったところは
法事が終わり、娘たちを駅まで送って帰ってきた祥子が、シャワーを浴びたりして一息ついたときに、
ふと、昔みたいにランドセルを背負って娘たちが帰ってくるような気持ちになったところと
その対になる感じで
梓が帰りの電車で、実家にそのままいたい気がするけど今自分が住んでいる家のエアコンをちゃんと消してきているか心配になるところ。(※すごく曖昧な記憶なので間違えている可能性あり)

とても家が懐かしくて昔のあの頃に戻りたいと思うこともあるけど、
今の家や生活を過ごしていくんだろうなぁ、いきたいなぁと冷静に考えるあの気持ち。
それが言語化されてて、すとんと心に入っていった。

  ○○○

家族って、全部分かってほしいと思う気持ちや、家族だからこう思ってるでしょ?と決めつけてしまうこと。
そして、家族なのに何でこんなことしてくるの?と憤る気持ちと、家族だから甘えてしまって傷つけてしまうこと。
そういうことの繰り返しだと思う。

この話は、フィクションだけど、近所のあの家族の話かもしれないし、友達の話かもしれないし、私の家のことかもしれない。
そういうリアルに思える、日常の描写が丁寧に書かれているところが本当に良かった!

青山先生は、穏やかな日常の丁寧な描写を評価されている作家で、この本のインタビュー記事でそのことについての言葉が良かったので、こちらを紹介してこの読書感想文を締めたいと思う。

起承転結で言えば、この世に出現するという圧倒的な『起』のあと、ほとんどの人は『承』が何十年も続く。その間に実は無数のクライマックスがあると思う。散歩したり料理したりぼーっとしたりするときこそ、人生のクライマックスなのかもしれない

https://book.asahi.com/article/12897578
好書好日
「青山七恵さん「私の家」インタビュー
家族はつかれ続ける餅のごとし」より

"その間に実は無数のクライマックスがあると思う"

のあとに、日常の些細な行動や楽しみを例に出されているところが素敵だし共感できる。

シンデレラのように、ガラスの靴を履くことができ王子様に見つけられてめでたしめでたしと、そこがピークで終わるのではなくて
実際にはそのあとも生活が続くわけで
その前後に無数の悲しみや喜びや些細な幸せを感じる出来事が連なって人生があるのだと思う。

昔は一発逆転でその後は一生ハッピーと思えるような人生を望んでいたけど、
今は一つの大きな塊の幸せじゃなくて、小さいけど無数の幸せを拾い上げていきたい。
そしてそれを夫や家族と分けていきたい。

その過程で家族を傷つけてしまったり、傷つけられたりすることもあるだろうけど
そのときそのときで最適だと思える行動が出来たらなと考える。

そういうふうに、読み終えたときに家族について考えられる一冊だった。

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