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侍少女とギターな夜

「もう一度掻き鳴らせ。拙者が聞いててやる」

胡散臭い侍言葉を使う少女が、俺に言った。

前髪をちょこんと上げて、パジャマで、くたくたのぬいぐるみを脇に抱えていた。

「ねんねの時間ちゃうの? お嬢ちゃん」

言ってから、気持ち悪いな、と思った。

子供と接するのは慣れていない。

33歳にもなって結婚を見据えた恋愛もしてこなかった。

そして今、駅のロータリーに座り込み1人淋しくギターを弾いていたわけだ。

ただのストレス発散。

少女は濁りなき眼でこちらを捉えて離さない。

「まだ夜は更けぬ。明日から夏休みぞ」

「そうなんや。父ちゃん母ちゃんは?」

「おらぬ」

「……そうなんや。俺とおそろいやな」

「そうなのか?」

少女の表情が一瞬変わった、気がした。

「せや。でもみんないつかそうなるんやし、特別悲しくもないで。俺にはこれがあるさかいな」

中古のダブルネック・ギター。

中学生時代、中島らもの影響で買った。

「お主は何の為に弾くのだ?」

「何やろな。別に意味なんてないんちゃう」

「さすればなぜ家で弾かぬ?」

「痛いとこつくな」

「誰かに見つけてほしいんじゃ、皆」

「たまらんで、このガキゃあ生意気なやっちゃのお」

これだから子供は好きになれない。

予測不能な言動をして芯をついてきやがる。

「何かリクエストあるんか?」

「希望の歌を聞きたもう」

「ほぉん。小さいくせに苦労してきたんやな」

「同情するなら……」

「もうもうもう、皆まで言いな。聞かしたらあ」

なんて変な夜。

二度と巡ってこない夜。

俺は目の前の少女に、希望を託した。

ハマショーの『MONEY』がすきです。