和歌山、ひと夏の記憶 その12
見出し画像

和歌山、ひと夏の記憶 その12

深夜を過ぎても戻らない寮のルームメイトのリナ。私は心配しながらも疲労でうとうとし、気づいたら朝になっていた。すると、リナがいつの間にか横ですやすやと眠っている。何時に帰ってきたのだろう、、、。よっぽど疲れているのか、私が家を出るまで起きず、昨日は何をしていたのか聞くことができなかった。

私はその日も、朝食の配膳、チェックアウト後の客室の備品補充、客室案内、日の入りイベント対応に従事した。途中、客から大浴場の場所を聞かれたので、案内することに。前にも説明したが、物理的には地下1階に温泉の湧き出る大浴場があるのだが、地下に水場を置くのは縁起が悪いため、地下1階を1階とし、地上を2階~というふうに表記していた。それが客の混乱を招いたのだった。

大浴場は、地下に降りてから渡り廊下を歩いた、離れのようなところにある。途中、見覚えのない若い男性スタッフとすれ違った。支配人(いかりや長介似の性格悪いホテル責任者)や、チーフ(永沢くん似のパチプロ兼フロント責任者)も着ている、昔のプロボウラーのようなダサいホテルのユニフォーム姿だったので、スタッフだとわかった。

客を浴場に案内してから、もと来た道を帰っていると、さっきすれ違った男性スタッフが待ち伏せをしていた。「ケツあご」。私は陰で彼をそう呼んだ。容姿をネタにするのは良くないが、時効ということにしてほしい。もちろん名前の由来は、あごが割れていたからだ。

ケツあごは私を待っていたようで、気安くしゃべりかけてくる。いわゆるナンパ。当時の私はかなりの男性嫌いで、特にぐいぐいと来るヤツには虫ずが走った。何より、チンピラがつけているような金のネックレスを首からぶら下げているのが、なんかイキっててムカついて、引きちぎりたくなった。ネックレスに雷が落ちたらいいのに、とも思ったものだ。

聞くと、というか無理やり聞かされた話では、そいつは大阪○○大学のラグビー部2年生(アメフト部だったかも)で、毎年数人が部からこのホテルに派遣されるらしい。いやいやいや、顧問は何を考えとる。夏休みこそ練習せーよ。そういうところもムカついた。

画像1

ジョジョの奇妙な冒険のポルナレフ

そのうち同じラグビー部枠のバイト男子がもう3人わらわらと集まってきて、私は絡まれつつ直進する形になった。が、ジョジョのポルナレフみたいな一人が私の負のオーラを察知したようで、「ごめんな。おい、もう行こうぜ」と言ってケツあごらを連れ去ってくれた。その子だけは最後までジェントルマンだったのを覚えているが、腐ってもポルナレフだ。好きになるはずがない。

後でチーフに教えてもらったところによると、彼らは大浴場の清掃や、内庭にあるプールの監視員などを行っているという。屈強な若い男子を派遣してもらえるとあって、大学との関係を大切にする支配人は彼らを優遇し、どう考えてもサボっているのに見て見ぬふりをした。その上、大浴場に入り放題。セコい。

一度、チーフにそそのかされて、こっそり大浴場の温泉につかったことがある。離れまで行くのが面倒でそれきりになったが、寮では光の速さでシャワーを浴びるだけだったので、久しぶりに気持ち良かった。

さて、すべての勤務を終えて寮に戻ると、やっぱり部屋にリナはいない。そして、その日も私が眠ってから帰寮したのだ。そんな日が1週間ほど続いた後、とうとうリナは帰ってこなくなった。荷物はすべて置いたままで、朝になっても隣にリナが眠っていることはなくなった。

私はちょうどその頃、新しいミッションを任されるなどして疲れていて、リナのことまで考える余裕がなくなっていた。当初は帰ってきていたのだから、事件に巻き込まれている可能性はないだろう。ほぼ一人部屋でのびのびと過ごせて、そのほうが都合が良かったし。

それに、たまに日中に帰宅しているような形跡があった。部屋干しされていた彼女の下着がなくなっていたり、私のドライヤーが動かされていたり。部屋に入ってすぐ右手にある小さな下駄箱の上に、彼女の手帳が置いてあったこともある。8月のところでページが開かれていて、見てくださいと言わんばかりだったので、見た。

何の変哲もない手帳。特に多くは書き込まれていないが、8月○日、8月×日、8月△日にハートマークが書き込まれてある。そして私は、そのハートに一つの意味を見いだしたのだった、、、。

(つづく)

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
グゥちゃん

人間には、不可解なところがたくさんありますよね。

シェイシェイ!ウォーアイニー!
ライター。これまで医療、健康、子育て、ファッション、求人などさまざまなジャンルを手がけてきました。