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デザイン思考などで一生懸命つくった新規事業の企画なのに社内稟議を通らない理由

昨今、デザイン思考や人間中心設計、リーンキャンバスなどを通じて、新規事業アイデアを作り、育てることが一般的になってきていると感じます。

我々もそういったコンセプト立案フェーズをご支援することが多く、講演などでお話をさせていただくケースがあります。

しかし、そのような場で新規事業・イノベーションに携わる方々から質問をいただいたり、お話をお寄せいただくのは、およそ以下のようなことです。

デザイン思考などの実践の必要性があると感じるが、全社に導入することに関して、社内メンバーの理解を得るのが難しい。
アウトプットに関して、上層部からの承認を得ることができないでいる。
どのようにすれば上申が通るだろうか

こちらについて私が思うのは、いまのやり方で、アイデアや打ち出すバリューや資料をいくら改善しても解決しないだろうということです。

承認を得られないのは、資料や報告の内容ではなく、至るまでのプロセスに対する勘違いが原因だと考えています。

何が勘違いなのか?

まず、いま取り組もうとしている新規事業・イノベーションは、
・結果を明確に計測して評価できる領域か、
・結果が未知数の領域か、
どちらでしょうか?

前者であれば、承認を得られない理由は、その目標数値の正確性1点であろうと思います。数字の証明を頑張ってください。

一方、
後者のような(結果が未知数の領域)に足を踏み入れ、デザイン思考や人間中心の考え方を用いて行うとき、そこは、数字の証明を用いて説得することはできません。

なぜでしょうか。

ロジックによる整理なのか、デザインによるジャンプなのか

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あるスコープに対して当てはまったものに対し、それらの関係性を整理するのがロジックによる整理です。関係性を整理するということは、論理化・数値化できるということです。
数字で説明できるということは、既知のものの積み上げで表現できるので、説得が可能です。そこに共感は必要ありません。

全体に広がった中から、特徴あるものと特徴あるものをつなげ、その関係性を強制的につくり、そこに意味を見出すのがデザインによるジャンプです。
意味は数値化できません。数字で説明できない未知の領域は、論理にとらわれないジャンプが必要となります。ジャンプを説得することは難しいです。共感してもらわなければなりません。

あなたの行うイノベーションはどちらですか?

機能中心の結論ベースなのか、インサイト中心の仮説ベースなのか

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数字で説明できるということは、既知のものの積み上げでなので、
論理技法が使えます。
「こうである。だからこうすべき。」という結論ベースで話ができます。
だから説得が可能です。結論に対する共感は必要ありません。

数字で説明できない未知の領域のジャンプというのは、「どうすれば●●できるだろうか?」という仮説ベースになります。
だから説得が難しいです。共感してもらわなければなりません。

あなたの行うイノベーションはどちらですか?

ミッションなのか、パッションなのか

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数字で説明できるということは、既知のものの積み上げは、ピラミッド型組織の中で上意下達、数値目標、戦略を作成することができ、指揮命令ができます。指揮命令に共感は必要ありません。行動理由は「組織はこうしたいから」です。

数字で説明できない未知の領域のジャンプは、文脈や背景も含めた共感が必要です。共感無しに、指示をしても動いてもらえません。行動理由は「自分がこうしたいから」です。

あなたの行うイノベーションはどちらですか?


説得と共感

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上記でわかるように、説得するプロセスと、共感するプロセスという違いがあります。

共感するプロセスをとらなければならないのに、技法として説得を用いてもうまくいきません。

逆に、説得のプロセスを意識している相手に、共感してもらうことは難しいし、時間のロスになります。

質問のような「組織に理解浸透させたいが、承認を得るのが難しい」ケースは、そもそも結果による説得でなく、仮説への共感のプロセスですすめる必要があったと考えます。


イノベーションと共感のプロセスって?

新規事業企画でイノベーションを発現すべく、デザイン思考などを利用されているのだと思いますが、まずイノベーションとはなんでしょうか?

ジョセフ・シュンペーター(Joseph Alois Schumpeter)は
イノベーションを、経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合することと定義しました。
(Joseph A. Schumpeter, The Theory of Economic Development: An Inquiry into Profits, Capital, Credit, Interest, and the Business Cycle, Translated by Redvers Opie, 1934.)

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"Joseph A. Schumpeter proclaims in this classical analysis of capitalist society first published in 1911(Theorie der wirtschaftlichen Entwicklung) that economics is a natural self-regulating mechanism when undisturbed by “social and other meddlers.” Despite weaknesses, he argues, theories are based on logic and provide structure for understanding fact. He proceeds to demonstrate that there are underlying principles in the phenomena of money, credit, and entrepreneurial profit that complement his earlier theories of interest and the business cycle./ An early champion of entrepreneurial profit, Schumpeter argues that in a developing economy where an innovation prompts a new business to replace the old (a process Schumpeter later called “Creative Destruction”), booms and recessions are, in fact, inevitable and cannot be removed or corrected without thwarting the creation of new wealth through innovation."- Source: https://www.hup.harvard.edu/catalog.php?isbn=9780674879904.

イノベーションのタイプとして、5つを挙げています。

新しい財貨すなわち消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産
  - プロダクション・イノベーション

新しい生産方法の導入
  - プロセス・イノベーション

 ●新しい販路の開拓
  - マーケット・イノベーション

 ●原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
 - サプライチェーン・イノベーション

 ●新しい組織の実現
  - オルガニゼーション・イノベーション

イノベーションは、新しいものの獲得であり、開拓です。
西部開拓時代に、結果をすべて見通していたカウボーイはいたでしょうか?
いないと思います。
新しい未来は不確実で、数値化・論理化できないものです。

イノベーションとは、そもそも結果を保証して行う行動ではありません
短期で数値的結果を求められるイノベーション担当組織、というのはすでに自己矛盾しています。

数値的結果を求められるということは、現状の積み上げから帰納的に作り上げなさいと言われているということになります。
だから新規事業やイノベーションを命令され、時間を区切られた上で実行しようとする組織が作り出す「いのべーしょん」は、現状わかっているものの積み上げにある「カイゼン」にとどまりがちです。

本来の意味で「イノベーション」をしてみた結果は、積み上げで説得することは難しいです。
相手を巻き込んで、共感してもらうことが必要です

ここが勘違いの元でした。

共感してもらうためには、いくつか方法があります。

どうすればいいのか?

例1)既存の体制の外側でつくる

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既存のピラミッド組織の外側で、ピラミッドではないチームを組成し、そこにすべての人を巻き込んで行います。
そこでおこなったことを、目に見えるところで逐一進捗がわかるようにして置いておく、もしくは必ず見てもらうタイミングを作ることです。


例2)小さく始める

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いきなり多人数を集めると、既存の事業に影響が出やすくなるので、まずは数人レベルではじめることです。

方向性がまちがっていても修正が容易、低コストですむので、責任問題などになりにくいです。

例3)有志で始める

ミッションではなくパッションで集まった組織にすることで、その組織が共感ドリブンとなります。

例4)社外と始める

社内にないなら、社外のネットワークを使うのも手です。
まずはやってみる!


この共感のプロセスを経たあとで、実際の価値・数値とつなげることで、スムーズに組織に理解を得ることができると考えています。

もちろん、価値・数値とつなげられなかった、数値インパクトが少なかった、ならばやり直せばいいのです。イノベーションは期限を切って、結論ありきで実行できるものではありません


実際に行われている例

以前のこちらのセミナーで、SONYさんと富士フィルムさんが自社の例を出しておられました。

イベントの内容とともに、以前こちらのnoteにまとめています。https://note.com/goofygoof/n/ne41922224b08

SONYのクリエイティブセンター

・創業当時からの「innovation = technology ✕ design」精神を持つ。
・デザインが、どう貢献して価値になってるか を大事にしている。
・ミッション・ステートメントは
 『クリエイティビティとテクノロジーで世界を感動で満たす』。
・貢献領域は「ビジネス」「新価値」「コーポレート」の3分野。
・ミッションをベースにトップにどう見せていくか?については
 VisionInsightReportというクリエイティブレポートを定期発行している。

既存の体制の外側でつくり、目に止めてもらう例ですね。


FUJIFILM

・ミッションは「ブランディング」「事業をデザイン」「製品サービスをデザイン」「新規ビジネス創出」。
デザイン部門をクレイスタジオという独立スタジオにした
 →これがデザイン経営のエンジンになっている。
・デザインだけでなく、技術ドリブンでのイノベーションも重要。
・大切にしている技術のなかにヒントを求めていくこと。
・その発想にデザインの考え方を使うこと。

既存の体制の外側で、有志でつくる例ですね。


このあたりで、デザイン経営の組織の話とつながってきます。
他の記事を置いておきますので、ご覧いただければと思います。

皆さんの組織でも、できるところから始められてはいかがでしょうか?



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