見出し画像

「GOOD SURVIVE」はだれのものか?

足立の街ではじまった「GOOD SURVIVE PROJECT」。前回のnoteでその熱気を伝えた「TALK」に続き、2020年2月には舞台を渋谷に移して、全3回にわたる「GOOD SURVIVE CAMP」が開催された。

画像1

「TALK」では、「話を聞く」側だった足立区の事業者たち。アウトプットを重ね、今一度、自身の事業を見直し原点を獲得することが重視された今回のプログラム「CAMP」では、名実ともに自分たちが主役になる。

自分たちの事業を活性化させるため、個人の意思に基づき渋谷の街に降り立った8組の事業者たちは、3日間のプログラムに何を見出したのだろうか。

CAMPで近づく事業者とメンターの距離感

「TALK」が開催された北千住のスナックは、参加者の距離が近いことが印象深かった。今回の会場になった渋谷にあるFabcafe MTRLは、それに比べて圧倒的に広さを感じさせる場所だ。巨大スクリーンが配置され、隣とのスペースも十分に取られている。事業者が作業をするためのテーブルも広々としたものだ。

この広い会場で、前回のような熱気が生まれるのだろうかーーだが、そんな勝手な不安は、すぐにさっぱりと晴れていくことになる。

画像2

「CAMP」に参加する事業者たちの目的は、それぞれが携わっている事業のアイデンティティを見つめなおし、再編集していくことだ。

GOOD SURVIVE PROJECTには3名のメンターがいて、事業者が自らの事業を言語化し、今後の広がりを持たせるために手助けをしていた。

日本最大級のクラウドファンディングプラットフォーム『MotionGallery』、誰でも街にプラットフォームを設立できるようになるためのプラットフォーム『popcom』を立ち上げ、「さいたま国際芸術祭2020」のキュレーターや映画プロデューサーを務める大高健志さんは、1月のGOOD SURVIVE PROJECT「TALK」の登壇者でもあった。

編集者の影山裕樹さんは、全国各地でアートプロジェクトや市民向けワークショップのシリーズ「LOCAL MEME Projects」などを仕掛けていて、まちづくりに関する著書・編著もある。特に『ローカルメディアのつくりかた』(学芸出版社)は反響を呼び、編集の枠を超えて活動し続けている。

そして地元の人たちとの場づくり・ものづくりに密接に関わる、一般社団法人つむぎや 代表の友廣 裕一さん。「ムラアカリをゆく」と題した日本全国70以上の農山漁村を訪ねる旅から、地域の人たちと様々な事業を立ち上げてきており、地域事業の第一人者とも呼べる存在だ。

事業者のアイデアと、それに対するメンターのアドバイスがホワイトボードに書き込まれていく中では、考え込みながらも、物怖じしない議論が交わされていた。

画像3

議論の先にあるものを見据えたワークショップ
ワークが議論だけでは完結しないのも、「CAMP」の特長だ。

メンターの1人で、クラウドファンディングプラットフォーム『MotionGallery』の代表を務める大高さんにアドバイスをもらいながら、実際にクラウドファンディングページを作るワークショップにも取り組むなど、プログラムの場で終了するのではなく、「次の一歩」を見据えた動きが、参加者の熱意をさらに高めていた。

ふと、最初に感じていた「広さ」への不安はとっくに消えていたことに気づく。北千住のスナックと変わらないような距離感。それは事業者同士だけではなくメンターとの距離も、同様だった。いま振り返ると、それは事業者たちの熱気が生んだものだったのかもしれない。

画像9

それぞれの「理由」

今回はCAMPに参加した事業者のうち、6事業者に取材した。

同人誌専門の印刷会社「しまや出版」
アート&コミュニティスペース「千寿てまり工房」
布帛の高級婦人服(プレタポルテ)縫製工場「マーヤ」
古民家「野菜日和」(KAZENO HITO)
子育て世代のママによるものづくり「T&E JAPAN」
畳雑貨の販売や畳材料を使ったワークショップも行っている「小川畳店」

彼らはなぜ、「CAMP」に参加しようと思ったのだろうか。予想に反して、参加に至った経緯はそれぞれ異なっていた。今回の記事では上の3事業者の声を紹介したい。

画像5

「弊社は個人が趣味で作る本はすべて形にしていきたいと思っています。世間では電子書籍が広まっていますが、紙の本ならではの良さを愛している人も実はたくさんいます。私たちはそんなお客様のために印刷製本にこだわっているんです」

そう話すのは、「しまや出版」の小早川さん。

既存事業にプラスして新しいことをしたいと感じた小早川さんは、他業種の集まる「CAMP」の参加を決意した。昔ながらの事業の良さを保ちながら他業種との関わりを持つことは、地域を活性化していくために重要なポイントのひとつだ。

画像6

日本の昔ながらの文化を足立区で残したいという想いは若い世代にも生まれ始めている。千寿てまり工房の佐藤さんもその一人。

「もともと秋田県出身で、歴史のある文化は地域の魅力だと常々感じていました。てまりは後継者不足なので、足立区に取り残されていたてまり文化を残していきたいと思ったのが事業を始めたきっかけです。

縁があって事業をするための場所が見つかったので、私もてまりを通して人や足立区という場所に恩返ししていきたいと思い、『CAMP』への参加を決意しました」

印象に残った「恩返し」という言葉。
自らが事業を成長させることで、恩を自治体や人々に返していく。GOOD SURVIVE PROJECTの目的のひとつでもある事業者同士の「価値共有」にもつながるのではないだろうか。

マーヤの菅谷さんはGOOD SURVIVE PROJECTで自らの事業を見つめなおすことで、その社会的意義にも気づいたという。

画像7

「今後は企画や販売なども含め、アパレル以外の柱も作っていきたいと考えています。例えば私の会社で農作業用の服をかっこよくデザインできたら、農業にポジティブなイメージを抱く人が増えるかも知れない。

最近は売ってから作れるクラウドファンディングにも興味があります。リスクが少ないのが魅力ですね。足立区からちょっとずつ新しいものを広げていこうという自分の原点が、今回参加したことでどう行動すれば良いかにまで落とし込めたように思います」

未来が、私たちの手の中にやってきた


もちろん、事業を見つめ直すだけではよくあるセミナーと同じ。参加事業者たちが何を得たかが、大事なこと。そんな、ちょっとシビアな質問を投げかけたところ、千寿てまり工房の佐藤さんは目を輝かせながらこう答えてくれた。

「他業種の人たちと出会えるだけではなくて、アイデアをもらいながら新しい視点からものを見ることができるようになったのが、とてもうれしいです」

佐藤さんが言うように、事業者間の交流は休憩時間もワーク中もとても活発だった。ひとりひとりが前向きだからこそ和気あいあいとした雰囲気が生まれ、その場が双方向のやりとりのできるコミュニティになっていったのだろう。

画像8

しまや出版の小早川さんは事業を一新するのではなく、新たな価値をプラスすることの重要性について語った。

「成功者であるメンターの方の発想やフィードバックは、自社のブランド価値を高めるうえでとても有意義なものです。しまや出版のこれまでのテイストを維持しながら、新たな価値を付加するきっかけにもなっています」

そして、生まれも育ちも足立区だというマーヤの菅谷さんの言葉からは、足立区をルーツにおいた「仲間」であることの意義が伝わってきた。

「このプログラムを教えてくれたのも足立区役所の方でした。自治体が事業活性化を応援してくれるのは嬉しいですし、自分自身のモチベーションにもつながっています」

実は今回のワークでは、菅谷さんだけではなく、すべての事業者が自らの長所としてルーツである足立区の地域性を挙げていた。彼らが言う、足立区の地域性とは具体的にどのようなものなのか。

さらに、その「ルーツ」感がもっともよく現れた出来事として、6事業者のうち本記事で触れなかった3事業者、「野菜日和」「T&E ジャパン」「小川畳店」がコラボレーションしてクラウドファンディングに取り組もうと動きだしたことだ。

画像9

シリーズ第3回となる次回記事では、「地域性」と「コラボレーション」の2点を深掘りすることで、「GOOD SURVIVE PROJECT」で描かれた未来を現実にしていく方法について、さらに追いかけていきたい。

メンター

大高 健志
株式会社MotionGallery代表
外資系コンサルティングファームにて事業戦略立案等のプロジェクトに従事後、東京藝術大学大学院に進学し、クリエイティブと資金との関係性構築の必要性を感じ、 ’11年に『MOTION GALLERY』設立。
https://motion-gallery.net/

影山 裕樹
編集者、合同会社千十一編集室代表
著書に『ローカルメディアのつくりかた』(学芸出版社)、編著に『あたらしい「路上」のつくり方』(DU BOOKS)などがある。全国各地の地域プロジェクトに編集者、ディレクターとして多数関わる。一般社団法人地域デザイン学会参与、路上観察グループ「新しい骨董」などの活動も。2017年、本づくりからプロジェクトづくりまで幅広く行う千十一編集室をスタート。https://sen-to-ichi.com/

友廣 裕一
一般社団法人つむぎや 代表/リソース・コーディネーター。大学卒業後、「ムラアカリをゆく」と題した日本全国70以上の農山漁村を訪ねる旅を通じて、各地の暮らしや仕事について学ぶ。その後は個人事業主としてご縁のあった地域の方々と活動していたが、2011年3月からは宮城県石巻市で活動。現在は東北をはじめ、各地で地元の人たちと場づくりからモノづくりまで行う。主に事業のプランニング・ディレクション等を担当。http://tumugiya.org/

事業者

小川 昭子
小川畳店
1970年創業。2003年から2代目が跡を継ぎ現在に至る。国産畳専門店。襖・障子・網戸・クロスなどお部屋の内装をトータルで扱っている。
https://ogawatatami.com/

老沼 裕也
KAZENO HITO
農産物を活用した地域活性化事業、農業サポート事業、地域コミュニティ事業運営。
http://kazenohito.com/

小早川 真樹
株式会社しまや出版
印刷・製本業
特に、サブカルチャーを中心とした個人で制作するマンガや小説等の同人誌(小冊子)印刷・製本を得意としております。
https://www.shimaya.net/

染谷 江里
T&E JAPAN株式会社
毎日が記念日というテーマで様々なシーンに使えるアクセサリーブランドTomorrow and Everydayを展開。足立区在住の子育てママを中心に企画から製造、販売まですべてを行っています。また、アクセサリー作りをきっかけに集まった10代から70代までの女性同士がモノづくりを通して世代を越えた交流が生まれています。
https://www.tomorrowandeveryday.com/

佐藤 裕佳
千寿てまり工房
伝統工芸品"てまり"のプロデュース事業。てまりを活用したアクセサリーブランド展開、商品開発、インスタレーション展示。東京・北千住に「千寿てまり工房」を構え、ギャラリースペース運営、てまり製作体験イベント開催など。
https://senjutemari.com/

菅谷 正
株式会社マーヤ
弊社は国内高級婦人服ブランドの衣料品製造を請け負う縫製工場です。お客様から生地、パターン、仕様書をお預かりし、裁断・縫製・プレスして納品する製造のプロ集団です。
https://marya.tokyo/

鈴木 国博
ザオー工業株式会社
弊社は主に弱電メーカー様から外観金属プレス部品と銘版を受注生産しております。社内で金型製作、プレス加工、シルク印刷をワンストップサービスでご提供する事で、お客様からご好評頂いております。創業からの銘版製作で培った経験と技術を生かして、外観部品製作が得意で稀有な金属プレス部品製造メーカーです。
http://www.zaoh.com/

この記事が参加している募集

イベントレポ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?