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『目と葉なのさ』木談 第11回【小説】【連載】【タイムトラベル】

いつも通り登校するためにバスに乗っただけなのに、居眠りしたらいつの間にか見知らぬバスに乗っていた。降りるとそこは声も音も匂いも知らない見知らぬ土地。気づくと制服もカバンも身体も変わっていて、私は誰かになってしまった・・・。
昭和26年にタイムトラベルをした女子高生。彼女はどうしてここにいるの?

※マンガと小説の物語ですが、マンガが再び出るのは最後の方です(;'∀')
第何回になるのかは朝日香帆にも分かりません・・・。

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 由良の部屋に戻った。みんなに「もう?」って言われたけど、私は家族じゃないから居づらいの!!
 寝巻は浴衣をリメイクしたパジャマ。柄が紺のアヤメ柄でオトナで粋。きっとお母さんの浴衣だったのだろう。
 私は由良の座布団に偉そうに座る。テスト用紙全部投げ捨ててやりたいけど、我慢して由良の机の引き出しに雑に入れる。
いいか、由良。奇跡の73点で図に乗るなよ!ちゃんと他の4教科は反省するんだぞ!!あんたの通常は73点じゃなくって、35点ぐらいなんだから!
 あんたなんかムカつくと机に鉛筆で書いてやった。たかだか73点で褒められ泣かれてお赤飯炊かれてお出かけして外食してワンピース買ってもらえるなんて!!!!!!!!!!!!!あんた一体何様だよ!あの家族もメッチャムカつく。こっちは必死で毎日勉強してんのに、あんな低レベルなテストを73点でお祭り騒ぎ。冗談じゃないわ!
 でも由良に負けたくないから消してしまった。なんて意気地のない私。情けない…小花柄好きなんて趣味が悪い癖にホントムカつく!!!!!!
することが無いから寝ることにする。だって他人の部屋だもの。色々漁るわけにいかないもの。マンガも見当たらないし、小説も無いみたい。あっても由良はメチョメチョの男女の花咲く恋愛モノが好きそう…ことごとく私とは趣味が合わない。
 だからこそ。だからこそ私がなぜ由良になったのか分からない。由良、あんたはもっとあんたに近い人をあんたに選ぶべきだった。私はあんたをどんどん嫌いになってくよ。あんたが由良に戻った時、あんたは由良じゃなくなってるよ。ご褒美のワンピース、小花柄なんて絶対買わないから!私、メチャクチャ頑張って超絶優等生になってしまうから。あんたが由良に戻った時、落差で困ればいいんだから!
 知らない天井。和室によくある木目の顔がいっぱい。いっぱいの顔の中に由良がいないか隅々まで探してみる。由良はいないみたい。
 天井との距離が長い。布団ってこんなに地上を感じるものなのね。己の重さを、重力を、生きてる重みを直に感じる。せんべい布団だからこそ余計に己を感じるんだ。枕の高さは丁度イイ。
「お!」
 布団の視線にならないと分からない本がある。見つからないように上に大きめの箱を置いて。敢えてはこの中に入れないのが味噌なのだろう。私は本を取り出した。
「日記…」
 本は由良の日記だった。表紙はオリジナルの絵。うん、由良ヘタクソ。シゲに見せたら絶対笑う。虹の絵が描いてあるけど、由良、色が逆だから。外側が赤で、内側が紫だから!
 中身を見るのは悪いから読まない…いや、申し訳ないけど昨日の分だけ読ませてもらおう。あんたがちゃんとここにいたのか確認したい。私は昨日の日記を見た。
「あ…やっぱりいたんじゃん由良」
 由良の生きた証があった。
『9月19日
テストが一枚予定より早くで返却されて焦っちゃった。今日は何とか秘密を守り抜けた。怒られるのは一度でいい。怒る方だって大変だ。』
 うん、由良。あんた策士。
『橋本くんがまた映画に誘ってきた。気持ち悪い。ああいうズレた不良って鏡を見たことあるんだろうか。どれだけ気取って私を誘っていることか!見ているこっちが恥ずかしい。今度誘ってきたときは鏡を持って写してやろうかな』
 へぇ・・・由良、男子に誘われてるんだ。私はまだそういう経験が無いから新鮮だ。由良進んでるぅ…でも誘われたって相手次第だもんね…よし、橋本って痛い男子には気を付けよう。でもちょっとズレた不良の気取り具合を見てみたい。ていうか由良、うつすって字間違ってる。映画の映だから!
『舞がまた浮かれてメンドクサイ。あんたの彼氏になんて興味ない。というかなんであの男子と付き合うの?ってみんな思ってる。初めての彼氏があの男。もしかしたら夫になるのかもしれないのに。そしたら舞とはもう上手くやれないな。来年違うクラスになればいいのに』
 ああ分かる分かる。初カレできて鬱陶しい友達っているいる。これは時代を越えても同じなんだ。羨ましいんでしょって勘違いする子もいるからね~。あんたの彼氏って他人から見たらたいした魅力ないよってあるあるだもん。なんか由良、好きになってきたぞ(笑)
『月のものがそろそろ来る。ああイヤだ。うっとうしい。生理の時だけ男になれたらいいのに。子どもを産みたい時になればいいのに。体育なんとか休みたい。脱脂綿なんて詰めたくないもん。丁字帯、そろそろ新しいの必要かな…ああ縫うのが面倒だ。早くミシンが直るといいのに』
 マジで!!!生理が来るの!!!!!私終わったばかりなのに、今度は由良で生理なの!!!!!なんかメッチャ損した気分・・・・え~生理終わってから替わってよ・・・テストと生理を押し付けるなんて由良図々しい!どんだけ私に借りつくるんだよ!
 ああもう・・・こればかりはどうしようもない。よし、備えておこう。貴重な情報ありがとう由良。っていうか…よく考えたらこの時代、生理ナプキン無いんだ!!!!!!!!サニタリーショーツもない!!!!!!!!!え、脱脂綿詰めるって…タンポンの事?私タンポンなんて使ったこと無いし!ていうかT字帯って何?縫うってどういうこと?布ナプキンとは違うの?え、全然わかんない。アンネナプキンっていつ発売だっけ。アメリカ製ナプキンとかこんな田舎に流通しているわけないし…。
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 どうしよう…本当に何も分からない。そうか、今以上に生理って表に出しちゃいけない時代なんだ。人に見られないように、男家族にも見られないように、陰で干してたって本で読んだもん。ああそうか・・・出産も穢れ扱いで日本各地に産屋がまだ残っていた時代だった。女にとっては日常生活なのに、穢れ扱いなんてメチャクチャ腹立つんだけど!!!!!!
・・・って腹が立ってもナプキンもサニタリーショーツも手に入らない。女に生まれたくなかったって人生で何度思えばいいんだろう。由良の経血量は私より多いのかな、少ないのかな。昔の方が女性の生理は期間が短くて済んだって聞いたけど、戦後のこの時はどうなんだろう。由良は排卵痛あるのかな…生理前の症状はどれ?でもそんなの日記に書いてないよね!
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どうしよう・・私どうなるの?いつもだってどんなに気をつかっても漏れることがいっぱいあるのに、この時代ならだだ漏れになるかもしれない!!!嫌だ…それだけは絶対に嫌だ!!由良の布団に粗相をするわけにいかない。ああこのパジャマにだって漏らしたくない。生理時用のズボンって用意してない・・・みたい。由良はどうやって寝てるの?
 もう泣きたくなってきた。でも泣いたって何にも解決できない。お母さんに聞いてもいいのかな。でも由良は慣れていることだから、一から聞いたら変だって怪しまれる!まずは自分でできることをしないと!
 私は箪笥を漁る。一番暗くて肩身の狭い場所にT字帯があった。うわ…これで大丈夫なの?このT字体に女の身体の誇りを預けるの?ホールド感が頼りない気がする。スカートよりパンツスタイルの方がいいと思う。それこそ一部丈スパッツ必須じゃない。由良、持ってるわけないよね。それも作ればいいの?ああ…家庭科以外の裁縫なんてしたことないよ!
 もう少し箪笥を漁ると当て布と脱脂綿を見つけた。手に持って現実を知る。
「嘘でしょ…嘘って言ってよ。これを詰めろって言うの⁉」
当て布だけでは不安な日に脱脂綿を詰めているのかもしれない。でもこれじゃ…すぐに交換しないとダメじゃないの?鼻血が出た時コットンを鼻に詰めるけど、あんな感じで一気に染みてしまうじゃない。
「横に寝ればいいのかな。布団におしりを接地させなければ大丈夫なのかな・・・」
 寝返りが心配でたまらない。昼間だって、立ったり座ったり走ったりに耐えられる?体育の授業なんてどうしたらいいの⁉
「生理が来る前に私に戻りたい」
 絶対に生理中にデパートなんて行きたくないし、ワンピースなんて試着したくない!!!でも生理中はデパートに行きたくないってお父さんに言うのははしたないんでしょ!もうどうしたらいいの?由良、早く帰ってきて!!!
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 でも由良がいつ帰って来るか分からないし、絶対に由良に恥をかかせるわけにいかないから私がしっかりするしかない。人前で生理騒動を起こしたら、それこそ由良は学校にも行けなくなるかもしれない。だからお母さんに怒られても呆れられても生理の処置の仕方を聞こう。T字体の作り方も教えてもらおう。裁縫嫌いだけど…う~ネットで買いたい!スーパーで買いたい!ミシン早く戻って来て!ああもう人生で一番悩んでるかもしれない・・・。
「あ、あれ、もしかして」
 私、アルファベットのTだと思ってた。この時代なら丁の字の方かもしんない。T字路と丁字路みたいな。丁字帯だわきっと。
 男女入れ替わりの話って色々あるけどさ、初めての生理を経験する中身男子側はどうしているんだろう。由良はよく女子を選んだ。そこは賢い。さて日記に戻ろう。
~続く~
お読みいただきありがとうございました(*^-^*)またお会いしましょう☆


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