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ACTIVITY | 長崎 - IoTとFabと福祉 -

「IoTとFabと福祉」をテーマに、日本各地ではどのような実践が行われているのでしょうか。2019年7月26日~27日に開催した座談会で話題にあがった内容をもとに各地の活動を紹介します。

長崎県・佐世保市にある「MINATOMACHI FACTORY(ミナトマチ・ファクトリー」は、主に観光とアートを結びつけた商品づくり、アートプロダクトのリ・ブランディングなど様々なものづくりをしています。

観光施設の水族館と共同でクラゲのエプロン、リピートパターンを活かしたオリジナルのテキスタイルをつくって布小物に展開、市役所からの依頼で地域のイラストを活かした名刺、面白いサルの絵ができたら可愛いのでクッションにしたり、などなど。様々なものづくりに取り組んでいます。

もともとは名刺やチラシのデザインから始まって、それから派生してプロダクトのデザインをしています。事業所としては、名刺・チラシをデザインする「ホットライフ」、布小物を縫製する「佐世保布小物製作所」、そして自分たちのはたらき方をつくりだす「MINATOMACHI FACTORY」という3つの部門を運営しています。

「IoTとFabと福祉」にはMINATOMACHI FACTORYを主軸に参加しています。昨年は、Fab機材を活用した商品開発の仕組み化、質の向上を目指した企業連携のワークシェアを実施しました。

デジタル機材を活用した商品開発の仕組み化

「LATEX(ラテックス)プリンター」という機材があります。これはラテックス(水溶性ポリマー)を溶かして固めることで、看板などのプラスチック面に印刷ができたり、車両ラッピングしたり、ガラスの壁面装飾するという風に、オリジナルの素材に印刷できる機材です。

この機材を使って、テントに使われるような特殊素材の生地に地域のイラストを印刷してポーチをつくったり、面白い方言シリーズの雑貨をつくってみたり、ディズニーオフィシャルのカードケースをつくったりと、いろいろ機会をいただいて製作しています。少し技術的な話をすると、ラテックスプリンターは調整テクニックと維持費がかなりかかります。

「ガーメントプリンター」という布に直接インクジェットプリントができる機械で、Tシャツやトートバッグなどにイラストを気軽に印刷できて場所も取りません。布への熱圧着機が露出していないのであまりヤケドの危険性も少ないです。操作性も非常にいいので、スタッフも当たり前に操作しています。さらにIllustratorも使えるのでもはや職人として作業されています。

座談会のなかで岡山県でデニム生地を加工されているということで白インクについて尋ねられましたが、白インクは3倍くらいコストがかかるので外注でシルクスクリーンを使用したほうがいいかもしれません。

このガーメントプリンターを使って様々な商品を製作しています。長崎ランタンフェスティバルにあわせてデザインした商品は、リピートパターンではなく、1つ1つ絵柄を印刷したものです。必ずしもリピートパターンじゃなければ製品として成立しないわけではありません。

地元の観光施設の水族館では、クラゲとイルカがおすすめで、赤ちゃんが生まれたときに雑貨のオーダーがきたりもします。「何かこんなイベントがあるので、何かつくってもらえませんか?」を言われるくらい、ありがたいことにデザインに信頼を置いていただき、スタッフの感性を高く評価していただいています。

他にも、カラーインクで作品をにじませながらつくった作品をバッグにしたりクッションにしたり。描いたクジラが月9のセットに使われたこともあります。

このように、デジタル機材を活用して、地域の観光と感性をつなげるものづくりをしました。

質の向上を目指した企業連携のワークシェア

UVプリンタは自分たちのところにはないので、協業している企業にお願いしてフォトフレームをつくったりしていて、このあたりはこれからと考えています。

UVプリンター:
UV光により紫外線硬化インクを瞬時に硬化させ、さまざまな素材にプリントが可能。たとえば、革やアクリル、木材、ゴルフボールにプリントができる。

また、波佐見が近いこともあり、波佐見焼の箸置きの試作も行いました。デジタル制御できる切削機を使って、製品の原型から石膏型をつくることで工程を短縮しました。製作した箸置きには、アート作品をオマージュして描く人がいるので、その作品をもとにデジタルプリンターで転写シートを作成して貼りあわせました。

この工程のオペレーションは自前でできなかったので、専門スタッフにその期間に入ってもらって協業しました。箸置きは非常に評判がよかったのですが、採算がとれなかったので試作終わりというかたちになりました。

企業との連携として「地域の企業と福祉施設がいかに関わるか」をテーマにトークイベントも開催しました。地域のデザイン事務所、昔からあるものづくり企業、そしてそこに福祉事業所が当たり前に交わるという機会を増やしました。

デジタル機材の活用や企業連携があったことで、自分たちの事業所が、①中ロットオリジナル生産、②手作りプロダクトからの脱却、③メンバーが主役となる働き方、をできるようになりました。そのなかでも、アナログとデジタルの協業というのを大事にしていて、モノがデジタル機材で製品化されますが、その根底には感性であったり手仕事であったりが必ず残るようにしています。

ここ数年で地域産業の中でのポジションづくりが大幅に進んだなと感じています。スタッフの感性に関して信頼を得るのは比較的早いのですが、ものづくりにおいての信頼度を得るという意味では機材の重要性を感じています。

もちろん本人の技術の習熟度や進歩がベースにあります。たとえば、岩嵜紙器という紙箱・貼り箱のデザインと生産を行うメーカーが波佐見にあります。メーカーからの依頼で紙素材を縫製しているのですが、紙はまち針も打てないし、縫い直しがきかない、アイロンもかけれない、ツルツルすべるということで、実は紙を縫うことは至難の技です。それを私たちのものづくりの技術とクオリティを信頼していただき、いまは岩嵜紙器さんがつくっている紙系の布物製品そのほとんどを縫製しています。ものづくり企業として認めていただいた良い事例かなと思っています。さらには、一部で商品企画を任されたりと、福祉施設に商品開発の依頼がくるという状態にまでなっています。

IoTでつながるテキスタイルデザイン・ワークショップ

今年は、これらの技術を活かして、全国の福祉施設の商品開発と製造をサポートしていきたいと考えています。

その中でキーとなるのが、「IoTでつながる遠隔地とのテキスタイルデザイン・ワークショップ」をやっていきたいと思っています。

ワークショップの流れとしては、参加した人がその地域の何を大切にしているかを引っ張りだすような仕掛けをつくります。たとえば、地域の写真カードを用意したり、地域の観光名所で実際に行って体験することも考えています。鳥取県だと鳥取砂丘で遊ぶ時間を1時間設けてインスピレーションを得たりするようなイメージです。

直近でいうと、博多阪急で「博多もよう」という博多柄を期間限定で展開します。これらを制作するときは、「博多」を画像検索したり、私たちが準備した写真カードを見たり、みんなの博多に関する思い出を聴いたりして、その「博多」をテキスタイルにしましょうという流れです。

明太子をモチーフにしたり、なかには「煮たまご」をモチーフにした人がいます。彼にとっては博多ラーメンの煮タマゴが博多のスペシャルだったというのがわかります。そうすると、その人が博多のどこに魅力を感じているかで描き方が変わるので、従来の地域の魅力の発信のしかたと違った形で発信できると感じています。さらに、イメージが異なったとしても共感ができる面白さがあるので、全国でやったとしても、創作や表現がかぶることはないと思っています。

これらのプロセスを、遠隔でスマートペンを使って、描いたものが映し出されたりや、もしくは描いたものがその場でテキスタイル模様にして返すとかができるのかなと考えています。スマートペンになったときに、インターネットがあることで地理的な距離の制約がなくなるから、「日本」「アジア」といったテーマでもできそうという意見もありました。

「IoT」と聴くとすごくハイテクな感じがしますが、情報科学芸術大学院大学 [IAMAS] の小林茂さんが定義してくれたように「何かとつながる」からスタートしてもいいんじゃないかと思っています。「世界とつながる」というより「日本とつながる」からスタートするみたいに。

とはいえ、スマートペンについては今さっきスタッフがAmazonでポチッとした状態です(笑)。みなさんからアイデアをいただいて、たとえば、1枚の壁画をスマートペンでしあげるとか、そういった体験ができたらいいなと考えています。朝一番に子どもたちがやってきて、自分たちの部屋の壁紙を描いて「今日はこんな部屋で過ごすんだ」というのが毎朝の日課になるような、そんなアートの生みだし方が実現したら面白いなと思います。

創作活動に触れたことがない人にワークショップを提供して、どんな成果がでるのか、ということを検証をしたいと考えています。重度身体障害のある人であったり、創作に慣れていない人に新しい機会を提供したい思っています。

スマートペンを使ったワークショップで何ができるだろうかということで、まずはスマートペンの企業さんと一緒に勉強会であったりとかシミュレーションしたりしたいです。それに合わせてスマートスキャナーに関する企業さんとも相談したいです。

Fabを活用した福祉事業所の中規模工場化

今年の動きとしてもう1つ「Fabを活用した福祉事業所の中規模工場化」を目指します。自分たちのものづくりの技術力を、他の福祉施設にオープンにする仕組みです。

簡単に要約してしまうと「テキスタイルの素材となるイラストを描いてもらったら、ワンクリックで、1カ月後には商品になって店舗が開けるくらいのラインナップがそろう」といった仕組みです。各地域の事業所の人の視点で、その地域をどう愛しているかを表現する手段として活用してもらいたいと思っています。これから「ふくらむ」というサイトをつくる予定です。

アートプロダクトを製造する仕組みをつくっていますが、次は売る仕組みもつくりたいと考え、そのためには文化をつくりたいなと思っています。アートが売れる文化をつくるために、たとえば、TSUTAYAさんは地域に根ざした展示をするコーナーがあるのですが、そのコーナーをその地域のアーティストと出会える空間にもなるというのが日本全国にひろがっていけば面白いのかなと思っています。ご当地雑貨のように「ご当地のアーテイスト」として福祉事業所が関われるような関係性を築いていきたいです。

さいごに、「IoTとFabと福祉」プロジェクト全体として、「IoTとFabと福祉で遊ぼう~日本中がつながるものづくりワークショップキャラバン」といったようなインパクトのある伝え方があると良いと思っています。

子どもや福祉に関わる人たちと一緒にIoTを駆使したものづくりをして、そこで実際にファブ機材を使って目の前で何かものができあがることを体験できるような場です。子どもに楽しんでもらいながら、親御さんにIoTとFabと福祉に関する理解を深めてもらう、そんなことがキャラバンでできたらいいなと思っています。

【参考URL】
■MINATOMACHI FACTORY:
 https://www.for-all-product.com/minatomachi-factory

■IoTとFabと福祉 - 長崎 -
 https://iot-fab-fukushi.goodjobcenter.com/area/nagasaki


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