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──創造性を育む「法の余白」としてのフェアユースとクリエイティブ・コモンズ──  水野 祐

 一般財団法人たんぽぽの家では調査や研究、事業などの成果をより多くの人と共有できるように、書籍シリーズ「障害とアートの相談室」を発行しています。ここでは、2020年に発行した書籍『表現をめぐる知的財産権について考える本』をより多くの方々に知っていただくために、本書にご寄稿いただいた法律家の水野祐さんのコラムを、クリエイティブ・コモンズ< 表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 (CC BY-NC-ND 4.0) >の下に、公開いたします。

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──創造性を育む「法の余白」としてのフェアユースとクリエイティブ・コモンズ──

水野 祐 弁護士/シティライツ法律事務所

 法にも余白がある。そう聞くと、驚かれるかもしれない。しかし、硬直的な法という仕組みに、柔軟性を確保するために、あらかじめ「法の余白」を設計することがある。そのような法律上の工夫のひとつが、「フェアユース」である。フェアユースとは、「fair use(公正な利用)」の名前の通り、著作権者に損害を与えないような利用目的・態様であることなど、一定の条件を満たした場合に、著作権者の許諾がなくても、著作物を利用できるという考え方で、米国などの諸外国の著作権法に規定されている制度である。

 しかし、残念ながら日本ではこのフェアユースという考え方が認められていない。1980年代の最高裁判決などで否定されたばかりか、近年もフェアユース規定を導入する法改正案として何度も議論の俎上に上がっているが、未だ導入には至っていない(2018年の著作権法改正により、いわゆる「柔軟な権利制限規定」が導入されたことにより、情報解析を含むIT分野については、フェアユース規定とほぼ同等の状態になったとの評価もある)。
 
 もちろん、フェアユース規定を持つ国であっても、何でもかんでも許されるわけではなく、実際にフェアユースとして認められる範囲は広くない。日本でも権利濫用の法理などを援用すれば、実質的には許容される範囲はそう変わらないと説明する識者もいる。しかし、法律にフェアユースのような「余白」が明確に書かれているか否かは、クリエイターが新しい表現に向かう際の意識に大きな差が生まれる。そういう意識の面においても、フェアユースは新しい表現や創造性を育む土壌となっているのである。

 このような法律上のエ夫ではなく、いわば「民・民」の契約で「余白」を生み出す工夫のひとつが、「クリエイティブ・コモンズ」である。クリエイティブ・コモンズとは、クリエイターが「この条件さえ守れば、私の作品を自由に利用してよい」と意思表示をするためのマークとライセンス(利用許諾) ・ツールである。「BY(表示)」「NC(非営利)」「ND(改変禁止)」「SA(継承)」といった4つの条件を組み合わせた6つのマーク/ライセンスにより、作品の自由利用を促す仕糾みである。クリエイティブ・コモンズは、著作権法という法律が実現できない、柔軟な権利の運用を、著作者/著作権者と利用者との間の(ライセンス)契約により実現する。クリエイターは従来通り完全な著作権を主張し、そのように運用してもよいし(「All Rights Reserved.」)、状況に合わせて、著作権を保持しつつ、一定の広い利用をユーザーに許してもよい(「Some Rights Reserved.」)。この選択肢を、クリエイター自身に与えるのがクリエイティブ・コモンズである。


 著作権制度は、表現の自由に対する例外である。これもそう聞くと驚く人がいるかもしれない。でも、特定の表現(という情報)を特定のクリエイターに導線することを許すのが著作権という制度なので、著作権というのは誰もファ内容や方法を問わず自由に表現できるという表現の自由の重要おな例外である。また、著作権制度は、これまでに創作を行ってきたクリエイターだけでなく、これから想像する未来のクリエイターのためのものでもある。著作権の強化=クリエイターの保護という理解は間違いで、ここでは未来のクリエイターの創作の土壌をどう守っていくか、という視点が抜け落ちている。創造性を育むための法環境を生み出すためには、著作権という権利の保護と著作物の利用を適切に、柔軟にバランスを取らないといけないのだ。そのためのひとつの方策が「法の余白」であり、フェアユースとクリエイティブ・コモンズなのである。


水野祐(みずの・たすく) 弁護士(東京弁護士会)。Creative Commons Japan理事。Arts and Law理事。九州大学グローバルイノベーションセンター(GIC)客員教授。慶應義塾大学SFC非常勤講師、同SFC研究所上席所員。リーガルデザイン・ラボ。note株式会社などの社外役員。IT、クリエイティブ、まちづくり分野のスタートアップから大企業までの新規事業、経営戦略等に対するハンズオンのリーガルサービスや先端・戦略法務に従事。行政や自治体の委員、アドバイザー等も務めている。著作に『法のデザイン −創造性とイノベーションは法によって加速する』、共著に『オープンデザイン参加と共創から生まれる「つくりかたの未来」』など。Twitter : @TasukuMizuno

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現在、水野祐さんがディレクターディレクターとして関わる展覧会「ルール?展」が21_21 DESIGN SIGHT(東京・六本木)で開催中です。詳しくは、展覧会WEBサイトをご覧ください!

ルール?展_ウェブサイト⽤

21_21 DESIGN SIGHT  http://www.2121designsight.jp/

『表現をめぐる知的財産権を考える本』の作成にあたっては、水野さんの著作『法のデザイン』に書かれてある思想、「私たちの社会に存在する多様で複雑な事象が、多様に複雑なまま成立し、受容されるしなやかさのある社会」を求める態度に共鳴しながら、執筆していきました。

現在開催中の「ルール?展」では、水野さんらの考えがさらにアップデートされた内容になっており、しかも『法のデザイン』の単なる延長線上にあるような構成にはなっていないそうです。一体どんな展示なのでしょうか。興味津々、ぜひとも観に行きたいです。11月28日までの長期開催がありがたいですね!!

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このコラムが掲載されている書籍『表現をめぐる知的財産権について考える本』はたんぽぽの家オンラインサイト「たんぽぽブックストア」、Amazonからもご購入いただけます。


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