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Vol.4 “ママ”だからこそ、生まれた“誰もが笑顔になるシステム”。 みんなで作り上げる「ぽんめのこ」ワールド。

世の中で生まれているあたらしい働き方、"Good Job!"を見つけ出す取り組み、Good Job! project。2017年までのアワードで受賞した団体の今を取材しています。

Vol.4となる今回の団体は、名古屋市を中心に展開するフェルト雑貨ブランド「ぽんめのこ」です。オリジナルキャラクターの手作りアップリケや雑貨を、ネットショップや名古屋市内の雑貨店などで販売しています。また、イベント出店やデザインコラボなどにも精力的に取り組んでいます。

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「ぽんめのこ」の雑貨は、1点1点手作りされたもの。また、1人の人が全ての工程を手がけるのではなく、刺繍の部分を就労支援施設が担い、縫製の部分をママさんグループが担うというような、ユニークな生産体制をとっています(担当部分は作品によっても変わります)。こんな「ぽんめのこ」は、どのように生まれたのでしょうか?

その中心人物、秋田順子さんにお話を伺いました。

"ママ"になってからはじめた、「ぽんめのこ」

—「ぽんめのこ」について教えてください。

秋田(以下 秋):「ぽんめのこ」は、もともとは私が始めた作家活動でした。子供が生まれてから、元・保育士のママ友達を誘って育児サロンを立ち上げたんです。地域のママさんの交流を目的でした。そのサロンに来ていたママのひとりに作家さんがいて、初めて、作家=クリエイターという存在を知りました。13年くらいまえかな。私の娘は極度のママっ子で、外に働きに行くのをすごく嫌がったので、家でできる仕事はないかな?と、ちょうどその頃考えていました。そこで、クリエイターに結びついたんですね。

手作り講座として、コミニュティーセンターで地域のママさん、子供達の交流を図る目的とし、<ぽんめのこ 手作り講座>をひらいたのが始まりでして、それが 2009年頃、 長女がちょうど6才( 小学校1年生)の頃です。その後、2010年頃より、個人でのクリエイター活動を始め、個人事業主として立ち上げたのは2012年でした。

私自身、小さい頃から絵を描くことが大好きで、デザイナーになるのが夢でした。主婦となり、ママになっても、自作絵本を作ったり、ハンドメイドを趣味として楽しんでいたんです。娘が、絵本が大好きだったので、娘の服や保育園グッズに、フェルトで絵本のキャラクターをつけてあげたり、子供が描いた絵をそのまま、アップリケにしたり。その延長線上で、「ぽんめのこ」 の、絵本の世界、カラフルな世界、アップリケも生まれていきました。ママになってから、クリエイターの世界に入りました。だからこそ、ママ目線での作品が生まれました。それが「ぽんめのこ」だと思います。

—どんなふうに活動をスタートさせたんですか?

秋:当時は、いまほどハンドメイドは盛んではなく、マルシェや、イベントも数少なかったです。スマホもない時代でしたから、近所の喫茶店への委託販売から始まり、小さな神社の朝市に出店するなど、ありとあるゆるイベントに参加していました。最初は「ぽんめのこ」というより、手作りした物をただ売るだけでしたね。もちろん制作も1人でしていて、売れては作るの繰り返し。パート代くらい稼げればよいと思っていましたが、次第に、「仕事」として捉えることはできないか?と考えるようになりました。

—仕事として。

秋:はい。でも、仕事としてやっていく、全国に広げると考えたとき、大量生産の壁にぶち当たりました。ハンドメイドの品を大量に作ることはできないか?と考えて、「内職さん」が閃いたんです。私の周りには、小さなお子さんを抱えたママがたくさんいる。働きたくても働く時間帯が限られている。そんなママさんに声をかけて、広げていきました。

ミシンが得意な人、アップリケ刺繍が得意な人、みんな様々です。こちらから提案して、できることを探したり、教えたりしました。そうやって、<カットする人→刺繍する人→縫製する人→仕上げる人>のように、一つの作品にたくさんの人が関わりながら仕上げていくシステムを作ったんです。そこから、みんなで「ぽんめのこ」の作品を生み出す、というスタイルになりました。

作品も、最初はフェルトブローチとかではなく、好きな生地で好きな物を作って、売るみたいな感じでした。でも、オリジナルとは? ぽんめのこの作品とは?と考え始め、作品を見ただけで、「ぽんめのこ !!」 ってわかるものってなんだろう?そういうものを作っていきたい! と模索していった結果、「ぽんめのこ 」ブローチにたどり着きました。

それぞれの能力を素材として捉える。素材が集まって、1つの作品が生まれる。

—いまは、作品制作に就労支援施設も関わっていると聞きました。

秋:はい。障害者就労継続支援B型事業所 chord に、素材の制作・裁断・梱包などを依頼しています。

—そのきっかけは何だったのでしょう?

秋:施設に依頼したきっかけは、ある雑貨屋さんで、すごくステキな刺繍のヘアゴムに出会ったことです。しかも、300円?刺繍なのに、なんでこんなに安いのだろう?と思い、作品を購入しました。

その後、障がいのある人が作った作品だと知り、この刺繍を、「ぽんめのこ」の作品のモチーフにできないだろうか?と考え、その施設に問い合わせしたんですね 。それが2013年のことです。でもまだその時は、chordは設立されておらず、現在のchordの社長、従業員が働いてた作業所へ問い合わせしました。 その出会いから、素晴らしい色彩感覚、刺繍ができる技術がある、それをいろんな形にするのが、「ぽんめのこ」の役割だと考えるようになったんです。

その後、 2015年にchordが設立され、継続に依頼することになりました。

—そこからコラボレーションが始まった?

秋:そうですね。特別な才能(刺繍)を持った方の作り上げた素材との、コラボ作品を作り始めました。

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こんなふうに、刺繍素材はブローチ、アップリケなどに変化します。

刺繍だけでなく、切る、貼る、包むなどの作業も、それぞれの才能にあったものを見極め、お願いしています。そのためには、何ができるのか?の密な確認が欠かせません。

ママも、障がいのある人も、いろいろな方がいます。ハサミを使って切るのが得意な人、テープを貼るのが大好きな人、それぞれの能力を素材として捉えています。そうした素材が集まって、1つの作品が生まれる。私はクリエイターとして、デザイン・制作・プロデュースを担当している。最初に「ぽんめのこ」は、もともとは私が始めた作家活動だとお伝えしましたが、いまは、みんなで作り上げていくブランドだと思っています。

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現在、ぽんめのこの作品づくりの一部を担っているのは「障害者就労継続支援B型事業所 chord」。そのウェブサイトには、“chordとは和音を意味し、協調、共聴、共存し共鳴できる環境造りをコンセプトに、障害者の方々に仕事を提供するサービス事業所です。また刺繍やART作品をメインに、「障がい者が」ではなく、作家として活躍できる場を目指します。雑貨店も併設し、作品の展示、販売も行っています。”とあります。

秋:最近 嬉しいお言葉をchord のスタッフの方よりいただきました。

「私達事業所側は、就労支援、つまり仕事を生み出し、それに取り組んでもらうことをサービスとしています。仕事=作業ですが、下請け作業が大半で(chordも下請け作業がメインです)、魅力的な仕事を生み出す事は、なかなか難しいものがあります。「ぽんめのこ」の商品はワクワクするようなカラーに可愛いキャラクターが沢山あり、その商品の制作に関われることは、利用者の方々にとっても私達支援者にとっても、とても有意義で、Aさんのように、人生そのものにダイレクトに関わってくるほど価値の高いことでもあります。」

SNSに出品したフクロウのストラップ作品についてのコメントでした。

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このフクロウの、目の部分はchordを利用する方々が手刺繍で刺したもの。その中の1人Aさん。30代で脳梗塞となり手足、言語に後遺症が残り、生きることに絶望的だったと聞きます。chordを利用することとなり、刺繍に取り組み始めました。手が震え、ひと針ひと針がとても時間がかかりますが、とても根気よく取りくみ、今では 「ぽんめのこ」からのオーダー刺繍(目の部分に使っている、サークル刺繍)をほぼ1人でこなします。何のために生きるのか。見出せなくなっていた頃に比べると、はるかに前向きになったそうです。

ずっと作り続けてくれる。私と出会って良かったと言ってくれる。それが、私にとっても、何よりもの喜びです。

目指すのは、関わる人みんなが笑顔になる仕組みづくり

「ぽんめのこ」が目指すのは、関わる人(作る人、買う人、もらう人・・・)みんなが笑顔になる仕組みづくりだと、秋田さんは言います。

秋:私がクリエイターの駆け出しの頃、主人には、あまりよく思われてなかったんです。「やりたいことやらしてやってる!」「どうせお遊びでしょ?」みたいな・・・。
だから、いつか見返してやろう!(笑)って・・・逆に闘志が湧いたというか・・・。その後、大阪でのイベント出店時に、初めて主人にも販売を手伝ってもらったんです。そうしたら、主人が「あなたの作品の前で、みんなが笑ってるね」って・・・。その時から、主人の私の仕事に対する見る目が変わりました。

お客様が、太陽のブローチを選んで、「娘が病気で、せめて、このブローチを見て元気が出てくれたらと」と話してくださった時もありました。

私の作品が世の中の人に「笑顔」を伝えられる。そのことが本当に嬉しくて、ずっとそれを続けていきたいと思いました。
だから、「ぽんめのこ」の世界観——絵本から飛び出してきたカラフルな世界観を伝えるにはどうしたら良いか?はいつも考えています。

それから、ラッピングにもこだわっています。包装紙とかもオリジナルにして。渡した時に、まず、お客様に「わー可愛い!」と言ってもらえて、そして、そのお客様が誰かに贈ったときに、また喜んでもらえて・・・。そんなふうにつながっていくといいなと思っています。

人と人の出会いから生まれ、ひろがる

—現在は、色々な場所で販売されていますね。販路はどのように開いてきたんでしょうか?

秋:これは、まさに地域交流、人と人との繋がりですね。娘が通う保育園で8年間、役員をしていたんですが、それで園長先生とのご縁が生まれて、毎年、保育園の景品を提供するようになったり。その保育園では、今でも、私が主催して年に2回、園庭で手しごと市を開催しています。目的は、子供も大人も楽しみながら、地域交流を深めること。出店者の、地域のお店の人たち、卒園したクリエイターママたち、みんなで地域を盛り上げ、卒園した子供たちやママたちが集う場所にしたい。子供からお年寄りまでみんなが顔を合わせ、笑顔に触れ合う場所にしたいと思って続けています。

他にも、阿倍野ハルカス 、阪急梅田百貨店、高島屋(難波)、松坂屋(名古屋) loft(名古屋、梅田、阿倍野) など過去に販売展開してきました。こうした、いろんな百貨店などでの販売も、すべて人と人の出会いとご縁から生まれたものです。

—デザインコラボレーションなどにも積極的に取り組まれていますね。

秋:はい。 最近では、ナルミヤインターナショナル 「クレードスコープ」の子供服のデザインを担当しました。子供のころ、子供服のデザイナーになるのが夢だったんですが、まさか結婚して、ママになって、その夢が実現するとは思ってもみませんでした。ママの目線で「こんなデザインがあったらいいな・・・」と思ったことを形にしてみました。

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他にも、2019年には、パイオニア株式会社さんとのコラボで、ワッペンのデザインを担当しました。そのワッペンは、全国の手芸屋さんで販売されています。

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自分の思いを人に伝える大切さ

—Good Job Award 2016受賞による影響などはありましたか?

秋:私自身、取り組みの姿勢が変わりました。ヒカリエでのプレゼンテーション、私の人生の中ではあり得ないような経験もさせていただきました。自分の思いを人に伝える大切さを再確認しました。ただ物を作るのではなく、何のために作るのか・・・という視点を得て、デザインに対して、見方が変わってきました。

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渋谷ヒカリエでのGood Job! Award 2016最終選考会にて、プレゼンテーションを行う「ぽんめのこ」秋田さん。この最終プレゼンテーションの結果で大賞が決定する。

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最終プレゼンテーションと審査会、表彰式は、入場無料で、一般の方もその様子を見ることができる。当日は、多くの人が会場に集まった。

—ここ最近の変化などがあれば教えてください。

秋:SNSを通じての、顧客様が増えてきたように思います。お客様の声、お問い合わせ等を、拠点の名古屋だけではなく、全国から少しずついただくようになりました。また、障がいのあるお子様がいるお母様からご連絡いただくことも多くなってきたように思います。「作品を見ているだけで元気が出ます」と言ったお声をたくさんいただいて、顧客様はいつも、SNSを通して、見ていてくれるんだなと実感しています。

—「ぽんめのこ」が、一番大事にしていることは何ですか?

秋:人と人とのコミュニケーション。ご縁を大切にしています。今までの取引先、販路展開も全て、出会いによる繋がりで、導かれた気がします。すぐにそれが仕事に繋がらなくても、いつか、よきタイミングで、新しい何かが生まれると思っています。

「ぽんめのこ 」は、私一人では成り立ちません。

周りにいる方々に支えられていることを決して忘れずに、常に感謝する心を持ちながら、今後も続けていけたらと思っています。

—今後チャレンジしたいことは何ですか?

秋:アーティストとして、ゆくゆく海外発信するのが夢です。個人としては、個展も開いてみたいです。この写真の「幸せの木」の葉っぱも、利用者さんが作成した葉っぱも使用しています。たくさんの葉っぱを集めた「幸せの木」を四季のカラーで表したいと思っています。みんなで作り上げるような、幸せを願うような「幸せの木」を広めていきたいです。

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年齢的に(笑)、長期出張などもそれなりに限界がきますので、企業様との協働、コラボレーションも増やしていけたらと思います。今までの経験を生かし、全国で講座やワークショップなども行なって、ママさんやクリエイターさんに伝えていけたらとも思っています。

ママやクリエイターに伝えたいこと

—具体的には、どんなことを伝えていきたいですか?

ママさんには・・・結婚したから、子供ができたから、仕事や夢をあきらめた、というママに向けて、いや、私は子供が出来てから、この世界に入りました。ここまでたどり着きましたということ。つまり、「夢は、いくつになっても叶えられる!大丈夫!」ということを伝えたいです。そのためには、もっともっと、私が成功していかなければとも思っています。私自身、もっと上を目指し、これからのママに向けても、希望と夢を与えることが出来たら嬉しいです。

クリエイターさんには・・・実は、「どうやったらものづくりが仕事に結びつくか? 展開できるのか?」といったことを質問されることがよくあります。なので、私の経験をお伝えすることで、何かヒントになればいいなと思っています。

クリエイターといっても、様々です。どこまで目指したいのか・・・何のために、誰のために作るのか・・・趣味なのか、仕事なのか・・・。仕事となると、家族の支えも必要となりますし、壁にもぶち当たります。現実的には、そんなによいことばかりでもないです。でも、それ以上に嬉しい経験、ママという存在を脱皮した1人のクリエイターとしての喜びもあります。そんな私のクリエイターになってからの歩みを伝えられたらいいなと思います(偉そうに、図々しいかもしれませんが・・・)。

私も、まだまだ階段を登っている段階です。ゴールが見えても、また先に目標ができてしまうので、ずっと前を向いている感じ。でも、それが私にとっては日々の幸せをもたらすものである。だからこそ充実感に満たされた日々を送れているんだと感じています!

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もともとは、一人のママから生まれた活動。それが、今では色々な人と一緒に作り上げるブランドとして育ち、展開されています。一人一人ができることをする。無理なく、その人のペースで関わる。そうして、この世界に立った1つしかない、作品が生まれる。そして、その作品を作る人、売る人、見た人、買う人、もらう人・・・関わる人皆が笑顔で繋がる。誰もが笑顔になるシステム作り。人と人の出会いによって広がっていく「ぽんめのこ」ワールド。あなたもその世界に触れたなら、思わず、笑顔になっているかもしれません。ぜひ、のぞいてみてくださいね。

(構成、text:井尻貴子)

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ぽんめのこ
HP:http://ponmenoko.com
FB:https://www.facebook.com/ponmenoko/ 
Instagram:https://www.instagram.com/ponmenokodesu/

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