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最後にこの人生でよかったと思える人生にするために、毎日、自分を好きでいられる小さな選択をし続ける。:ダカラコソクリエイト

生きづらさと闘っているひとたちに。

谷島さんに話を聞いたオンラインイベントの45分間。聞いている時も、お話が終わったあとも、心のドアをノックされ続けたような余韻がずっと残っていて。それは谷島さんが「生きる」ということに最大限まで日々真剣にむかい合って、実践しているからだと思う。

「本業は大阪ガスと書いてあるように普通のサラリーマンです。ただ、2012 年の夏、僕は今43歳なんですが、8年前の34歳の時、ちょうど子供が生まれる1週間前に食道にGISTという希少がんが発覚しました。ステージ4でなかなか治しようがないってことで。今もがんと戦いながら生活をしているということなんですね。」

そんな自己紹介からはじめた谷島雄一郎さん。5年前に発足した、がん経験者だからこそできることをデザインする、ダカラコソクリエイト/カラクリLab.の活動をみんなに紹介してくれた。

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カラフル&ポップなメディカルガチャガチャ。がんの治療や患者さんの視点はネガティブなイメージだからこそ、その重くてネガティブなものをたのしく外に伝えられないかと、がん治療に欠かせない医療器具のおもちゃをワクワク感のあるガチャガチャに。看護の分野で研究している大学研究者と共同開発し、Good Job!センターでつくっている。

そんなおりに起きたのがコロナ感染症の世界的な拡大。

「一年前コロナになって社会の変化が色々あったんですよね。それは生きづらさを抱えていた社会課題の当事者 ―病気や障害のある人たち― がずっと要望していたことが急に動きだしたんですよね。

例えば、リモートワーク。病気の人はなかなか電車にのれなかった。
あとはオンライン授業。不登校だったり治療中のこどもは授業を受けられないのでオンラインにしてくれって前から要望があった。でも、いろいろ理由を付けられて全然やられてこなかったですよね。

それがコロナ禍になって、オンライン授業をするようになったり、急に動き出しました。

それはつまり、“できなかった” んじゃなくって “やらなかった” んですよね。自分ごとではなかったから。」

でも、コロナになってすべての人が弱い立場の当事者になり、生きづらさが"自分ごと"になった。

だから僕は多様な生きづらさへの感受性が高まっている今こそ、誰もが生きやすい社会を作るチャンスなんじゃないかというふうに考えました。」

そんななか、谷島さんは、“行動が制限されて外に出れない” “先が見えない不安” など、がん闘病中の患者さんたちが経験した闘病中の不安との向き合い方や自粛生活の知恵を集めてSNSとweb上で配信しはじめる。

きっかけは、SNSに、コロナ禍における毎日の不安や不自由さはがんの闘病生活とも通じることが多いといった共通点の書き込みが増えたこと。

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「Siriと会話する」 癒し忍法ニャ助とパ次郎
楽しくすごすためのアイデアや工夫を、多くのひとにも役立ててもらいたいといちばん最初の緊急事態宣言が発令された去年の春、解除になる翌日まで1日1エピソード、計30エピソードを発信。

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生きづらさや不安を抱えてる人には染みわたる言葉づくしのLineスタンプも作成。

オンラインのコミュニケーション、実は意外と難しい

「生きづらさをカジュアルに語る社会実験カフェー&バー」のオンラインサロンも始める。もともと梅田にあったリアルな店舗にあつまれなくなったことがきっかけでのシフトだ。

「なんとかがんをはじめ、生きづらさをカジュアルに語れる文化を根付かせたいと思ったんですね。オンラインだったら全国でできるので、有料トークサロンを開催しました。」

実際にやってみて、色々なメリットデメリットを感じたそう。例えば…

●その1:オンラインは、コミュニケーションが難しい。

「例えば、リアルな場はですよ、合わないなーと思ったり、この人の話を聞きたいな、この人の話聞きたくないな、と思ったらその場に合わせて話したい人と話しにいったり、聞きたくない人の話は聞かなければいいわけで。

でもオンラインはこの人と合わないなあと思った人とも合わせて話をしないといけない部分がある。」

●その2:オンラインバーを運営するのは思ってたよりもヘトヘト

「オンラインの場は1対1で話すことでしか成り立たないので、ずっと場のファシリテーションをし続けないといけないんですよね。お客さん同士が自由に話すっていうことにはなり得ないので。

みなさんがある程度平等に楽しめるように、聞きたいことと話したいことを引き出しながら成り立たせないといけないという部分がある。また、その日のテーマやゲストの方について事前にちゃんと勉強しておかなければならない。そんなこんなで楽しくやりがいはあるのだけれど、非常に毎回疲れる…。と言ったら変ですけれど労力がかかりました。」

今は谷島さん以外の人にも、場を開放して好きなことを話したい人に
話して回してもらっていて、谷島さんはサポート役に回っているそう。

●その3:実は、オンラインは排他的?

「やっぱりオンラインはどうしても排他的になりがちなんですよ。主催者や常連のかたに排他的な意識は全くないのですが、知らないコミュニティにアクセスするのはリアルでもオンラインでも勇気がいることです。

特にオンラインでは独特の間や空気があり、初めましての方や、オンラインでのコミュニ―ケーションに慣れていない方にはリアル以上にハードルが高い。”開けた場だ“とか言いつつも。その辺をどうやっていくかは今後の課題だと思いますよね。」

谷島さん自身は今回いろいろ試行錯誤をしてみたそう。例えば、メンバーが集まっているオンラインのバーとリアルなバーを繋いでの実験も行った。

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「でも、やはり課題はありましたね。コミュニケーションの格差が生まれる。会って話す方がやっぱり楽しいんですよ。たぶんリアルの場ではみんなワイワイコミュニケーションしてても、オンラインはもどかしい部分があって。『向こうの方が楽しそうだ』ってなると思うんですよね。」

そんな反動もあって今後は、最終的なアウトプットはデータじゃないもの、直接ふれるリアルなものを作りたいなあ。と今は願っているそう。

オンラインだと今まで遠かった人たちとも気軽に繋がれる

反面にオンラインならではのメリットもたくさんあった。

「なかなか行けないと言っていた人たちも、オンラインになって全国から参加してもらって、新たなつながりが生まれるっていう面はすごく大きかったです。

ゲストも、アカデミックな方からタレントさんまで、結構豪華なゲストなんですよね。なかなか“先生ここにきてしゃべって下さいよ” と言えないような人たちもオンラインだったら結構気軽に協力してくれるんですよね。“ほな。しゃべるわ。”みたいな。

普段リアルだとつながりにくかった人と物理的、心理的距離もなくなったかなあと。」

ひとが興味を持ってくれるときー それは金になるか、役立つか、面白いかの3つのどれか

病気や障害はふれにくい。なかなか自分からかかわろうとは思わない。だからこそ、当事者側から社会に価値を提供する。興味をもってもらう。谷島さんは、そこをやろうとしている。

谷島さんが多くの人に興味をもってもらうために、発信の際に気をつけているポイントは次の2つ。

① 楽しさとワクワク感のあるデザインにする
人を動かそうと思ったら1)金になるか 2)役に立つか 3)面白いか、のどれかだと思う。お金はないので、2)と3)で勝負。いろんな人に興味をもってもらうためには、クリエイティブの力が必要。興味を共感に落とし込んでいく。
② がん経験者のみならず社会全体に価値を提供
がん経験の社会的価値を高めたいと思っている。がん患者のみならず障害のある人もそうだと思うが「支える側」から「支えられる側」への一方通行の関係をリフレームしたい。病気や障害をかかえる人をサポートする対象ではなくパートナーにしていくために、社会全体に、こちら側から価値を提供するよう心がけている。

困難な局面になっても、「とりあえずやってみよう」と、エネルギッシュに活動をつづける谷島さん。後半は参加者からの質問に答えるなかで、谷島さんの想いを象徴する印象的やりとりがありました。本当に心に染みいってしまうようなやりとりだったので、それを最後に紹介したい。

自分を好きでいられる小さな選択を日々し続ける

参加者からの質問:
お話を聞いていて、すごい私自身がん経験者ではないんですけれども、めちゃ力をもらった気がしました。 ありがとうございます。(中略)
そのいろんなことにやってみようとされている秘訣というかパワーの源って何ですか?やっていってこれはうまくいかなかったとかあると思うんですけれども、それでも違うことにチャレンジされていて。

谷島:「そうですね。モチベーションのところですよね… 

僕は今はなんか元気な感じですけれど、いつ死ぬかわからないですよね。で、やっぱりもしここから数年生きられるにしても、生きがいみたいなことが欲しいし。もし死んでしまうにしても、生きた証みたいなことがやっぱり欲しいわけですよね。

そしたら自分しかできないことをやっていきたいんだけど、なかなかがんの治療は、きっと障害もそうなんでしょうけれども、がんばったからどうなるものでもないんですよ。どれだけがんばっても死ぬときは死んでしまう。いや、そうなんですよ。だから理不尽ですよね。障害についてもめちゃくちゃ頑張ったからって、どうにもならない部分ってやっぱりあるじゃないですか。

理不尽に対して何が救いになるのかな?と思った時に、自分が例えば死んでしまうにしても、自分の大切な人の人生は続いていくわけですよね。家族だったり友人だったりね。そこに対して、その人たちに何か残していくっていうことが、この先自分がどうなるか分からなくっても唯一救いになることじゃないかと思ったわけですよ。

それで、じゃあ僕は基本的には何を目指していくのかと思った時に、例えばですよ、よく世間的には、障害や病気ってギフトみたいないいかたをする人がいるじゃないですか。でも僕は全然そんなふうに思えないんですね。無茶苦茶苦労が多いし、それがあってよかったとは全然言えないんだけれど。

でも僕はそれもふくめて、この人生でよかったなと思える人生にしたいと思ったんですよね。病気になったこと自体は嫌なんだけれど、それもふくめて他の誰でもなくって自分自身で生まれてよかったって思えるようにしたいなーって。そこがやっぱり最終目標だと思って。

それを実現するためには自分を好きでいられる選択をし続けることだと思うんです。」

どういう自分が好きか。2つの選択があったら好きな自分になれる方を選んで

質問:自分を好きでいられる選択…。もうちょっと教えてもらえますか?

谷島:「自分を好きでいられる選択って、別の言い方をすると、どういう自分を好きかってことなんです。例えば、道ばたで迷子になって泣いている子供がいました。でも、すごい急いでいますと。そこを素通りする自分が好きですか、それとも声をかける自分が好きですか?っていう話ですよね。

それか2つの選択肢があって、片方はお金になるけど、もう片方の方はお金にはならないけれどかっこいい。そしたら自分はお金にならないけどかっこいい方を選びたいなあ。と。そういうことですかね。

今日のお昼ご飯をどうするかっていうこともひとつの選択なんですけれども、とにかくそのひとつひとつの小さな選択を、どうしたら自分を好きになれるかな?っていうことをひとつ軸にして、選択をし続けていくっていうことの結果が、今いろんなことをやっているっていうところにつながっているのかな。

ちょっととっちらかっているようには見えるんですけれども、“自分を好きでいられる選択”っていうのを続けた結果が、これまでいろんな活動をやってきたモチベーションになってるのかなと、思っています。」


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困難な時も自分を好きでいられる選択をつみ重ね、誰もが生きやすい社会を作るためのチャンスにしたいと思って試行錯誤をつづけておられる谷島さん。貴重なお話をありがとうございました。

*この記事は、2月19日に行われたオンラインでの「コロナ禍における障害のある人の仕事づくり」の情報交換会でのお話をまとめています。

(文:Uga/ 当日聞き手:後安美紀)


本事業は休眠預金を活用した事業です

「コロナ禍を契機とした障害のある人との新しい仕事づくり」は休眠預金等活用法に基づき、公益社団法人日本サードセクター経営者協会 [JACEVO]から助成を受けて実施しています。

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